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電子美術館のQ&A

116 STAP細胞騒動を芸術的に混乱させた一語

二十一世紀国際地方都市美術文化創造育成活性化研究会
2017/5/15

――STAP細胞は、決着がつかなかったのですか?

決着済みです。STAP現象を最初に唱えたアメリカ人が、アメリカで特許申請し却下された時です。「お馬鹿な日本人は外国にアイデアを奪われ特許をとられて終わり」の警告は、空騒ぎとなりました。オレンジジュースなど弱酸の汁につけて、マウスの新型細胞を簡単に入手するアイデアで、誰も特許をとれなかったのです。同じ日本人のiPS細胞はノーベル賞だったのに、STAP細胞は論文撤回で終了しました。

――でも、いつかはSTAP細胞を発見できるかも知れませんが?

そこです。そこ。そこに大勢の間違いが集中しました。そこだったのです。国民を巻き込んだ騒ぎは。その言葉が発端でした。「発見」という言葉が諸悪の根源だったのです。あまりに多くの国民がそこを間違って、超有名評論家たちも次々と間違った論評を行い、世界で日本だけがこじれました。

――その間違いとは、いったいどういうものですか?

STAP細胞は、発見するものではありません。「リーダー研究者は本当は発見した」とか「今後の発見に期待する」「将来発見できたら大逆転だ」「来年にでも発見されたらみんなで土下座だ」は、いずれも勘違いといえます。

――大逆転の可能性があるのに、なぜその言い方が勘違いなのですか?

大逆転の可能性がないからです。順を追って説明します。STAP細胞の論文がイギリスの科学誌ネイチャーに掲載された2014年1月30日以降、ある言葉が日本のニュースで出回りました。「作製」です。同音異義語の「作成」とは違います。漢字が逆の「製作」や、同音の「制作」とも違う単語。

――それは、普段よく間違えて使われる言葉なのですか?

作成と書くべきを、作製と誤記した学位論文の体験が私にはあります。「作成」は書類や論文をつくる作業です。ついで「製作」は家具などハンドメイドの品。そして「制作」はアートや映画などの作品です。また「製造」という語なら、「製作」よりも大規模化やロボット化し、工業化した量産体制です。車や携帯電話。

――物を作る会社で、製作所という言葉をよく見ますね?

製作に対して作製という語は、出番が少ないのです。一般社会であまり使わない単語。今回の報道は、STAP細胞の研究成果に万歳しながら、「新型細胞の作製に成功した」と繰り返しました。印象に残るキーワードが作製でした。

――かっぽう着やムーミンなど、サイエンス研究とは思えないアイテムも同時に報道されましたが?

万歳した朗報から間もなく、論文に使われた写真が加工されていたことが発覚しました。新型細胞の作製を裏づける決定的な証拠写真データが、どれもペイントソフトで作り変えてあったのです。一転して、コピーアンドペーストを駆使した、論文ねつ造事件へとひっくり返りました。

――画像を作り変える行為に、正当性はありませんか?

考えられません、作製に成功した者が証拠写真を変造するわけはありません。モラルではなく、人間の心のはたらきです。オリジナル絵画が描けた美術家は、いじって別物と合成して発表しないものです。やればどうなるかのリスク問題でなく、「私ってすごい」の宣伝にならないから。先取り自慢できない。どの画像をどう加工したかを知ったネイチャー誌は、裏で何があったかを直ちに理解したはずです。

――ものすごい大騒ぎになって、報道も過熱しましたが?

ところが論文画像のねつ造が言われ始めると、作製の語をマスコミが使わなくなったのです。テレビも新聞も、記者やコメンテーターも「作製」をやめて、「発見」と言い始めました。それから、ガクンと世論が変化しました。

――作成も発見も、似たような言葉に思えませんか?

作製はメイクやクリエイトです。発見はディスカバリーです。二つは同じ意味でないどころか、似てもいないのです。互いに流用や兼用はできません。どっちでもいいじゃんかという、微妙な言葉のアヤではなくて。

――あの当時は、言葉の違いなんて全く気になりませんでしたが?

しかしこの言葉で、日本の世論は狂い始めました。発見は、例えば鳥インフルエンザ・ウイルスなど微生物がそうです。宇宙へ話を広げれば、木星の衛星はガリレオの発見です。ガリレオは衛星を作製していません。冥王星は望遠鏡で、海王星の輪は探査機で発見。ダークマターやダークエネルギー、エイリアンも発見すべき対象です。地球に似た惑星も、ブラックホールも発見するもの。作製するものではない。

――ブラックホールは目に見えないとはいえ、確かに宇宙のどこかにある前提ですよね?

ブラックホールは、市民ホールのような人工物ではありません。科学では、自然界にあるものを探し出す意味で「発見」と言うことが多いのです。STAP細胞は自然界にない人工の新型細胞の話でした。そもそもバイオテクノロジーの研究だし。例えるなら、サクラの一種のソメイヨシノです。山に自生する木を里に持ってきた樹種とは違い、作製した種です。

――江戸時代の日本人による人工種で、つぎ木やさし木で増えるクローンだそうですね?

ソメイヨシノは昔の新型細胞というべきもの。成功を示すには実物を作製して花を咲かせ、きれいでしょと見せる以外にありません。ソメイヨシノは、それがすでに実現しています。これと似るのは、絵や彫刻など美術作品です。「今の僕には作れないけれど、いつか発見されたら大逆転して、受賞するのは僕です」とはならないものです。

――STAP細胞を200回つくったり、ある人も成功していた話が出てきましたが?

あるアート作品を200回作ったり、別の美術家も成功していた話では、県知事賞に輝かず、世界遺産にもなりにくいでしょう。各国の研究所で論文の方法ではつくれず、本人もつくれませんでした。論文の方法では。つくれた確かな記録も研究ノートにない点が深刻でした。200ページ以上の成功メモさえ全く存在せず。目標の物ができなかった事実が、最終結論となったのです。つくれないから証拠画像をねつ造したわけかと、世界は素直に理解しました。

――今はだめでもいつかはつくれるという言い方は、時間かせぎ以前に、ナンセンスだったのですか?

あんパンで考えます。あんパンは畑で生育せず、海底になく火星にもないし、遠い銀河にもありません。明治の初期に、日本人が作って決着をつけました。翌年に別人が初めて作れば、手柄は全て翌年の別人のもの。いつか作れると先に言い出した者の手柄にはならずに。予約は無効。

――つまりSTAP細胞は、あんパンの立場ですか?

焼けたパンを切ってあんを押し込んだ、ハンバーガーみたいな方法ではだめです。切り貼りはだめ。パンを焼く前からあんが入っていて、一体化する必要があります。パンに相当するのがES細胞といえます。あんパンもまたSTAP細胞と似て、人工の作製物です。「あんパンを作った」が正しく、「あんパンを発見した」は間違った語法になるのです。

――作製の語を発見に替えたとたんに、リーダー研究者を擁護する声が噴出した流れでしたか?

その時「存在する」も加わりました。「どこかに存在する」と、ブラックホールや重力波みたいな話に化けて。「僕はただひとつ、あるかないかだけを知りたい」「今後もないと言い切れるのか?」「100年後に見つかれば、論文批判者はどうする気か?」と、奇妙な発言が次々と出ました。「いつかあんパンを発見する可能性はゼロではないはず」「あんパンが絶対にないと断言できるほど人類は全知全能なのか」「あんパンが全宇宙にあるかないかは神のみぞ知る」「あんパンの存在を完全否定する者は神のつもりか?」と。

――そうした勘違いから、今の日本国民はすでに解放されたのですか?

解放された人と、されない人に分かれています。後者に多い主張は、将来発見する可能性を妨害した陰謀を告発する怒りの表明でした。その陰謀のあらすじとして最も多く語られたのは、先輩が若者の才能をつぶす悪だくみでした。

――そこに話を持っていきたくなる気持ちは、今の日本ではすごくわかる気がしますが?

とてもよくわかります。バブルがはじけて好景気のピークが来た1992年から、もう25年目の不況です。格差拡大デフレ社会で起きているのは、上司と部下の関係悪化です。立場の強い上司が、部下にパワハラする毎日が常態化しているブラック企業問題。私も現場で、土木系のパワハラ女性会長を見ました。立場の弱い社長を、意味もなく毎日いじめる顔が鬼の形相。狂気を思わせるヒステリー。こうした21世紀の黒歴史たるブラック日本国と、STAP細胞事件は合流したと感じました。飛びつくだけの背景があったのです。

――日本を失墜させた上層たちが、STAP細胞研究チームの上司たちに、イメージが重なるわけですか?

しかもいつも、体制側や組織側が勝って個人が退けられ、庶民も体制側に巻かれて終わるパターン。STAP細胞を発見した後輩を、脇役の先輩たちが闇に葬った陰謀だと、信じる心の準備が日本国民にできあがっていました。

――STAP細胞の擁護で、嫉妬の語も出てきましたね?

「足引き」もよく見ました。「出る杭は打たれる」と同義。部下の成果を上司が奪ったり消し去る動機は、才能へのねたみだとする共通認識が広がっています。若者が中高年につぶされ、成果がなかったことにされる被害意識も拡大中。しかも、現実の日本は本当にそうなっているのです。

――STAP細胞論文を取り下げた動機は嫉妬だと、ネットで叫ぶ人が目立っていたような?

年下のリーダーがノーベル賞をとる可能性が出てきたので、リーダーを支えた年長者たちがねたみ始めて、てのひら返しでネイチャー誌とグルになって論文を引っ込めて、ノーベル賞を遠ざけた説がネットに出回りました。

――内紛をたくらんだ仲間は、果たして得するのですか?

大損するでしょう。ノーベル賞を獲得した共同研究者は、実際には出世し、次はあなただと言われ地位も収入も上がるはず。音楽のベテラン客演と同じ。自分を抹殺してまで、部下を抹殺したがる無理心中は、机上の空論でしょう。しかし空論にいやされるほど、日本国内はムシャクシャした20年以上でした。

――学術論文のねつ造さえが、頼もしい義賊のような評価に言われ出したような?

リーダー研究者の祭り上げられ方は、当初は天才お色気理系女子でした。政界からの視線はマスコットガール。しかし途中から、日本の中高年の横暴を叩くヒロインになり、やがて世界の技術ドロボウたちと闘う戦士へと転じました。下が上を憎み、内が外を憎む国内の心理状態に、うまくなじんだ陰謀説になったのです。

――でも仲間の嫉妬による陰謀と、外国がアイデアを盗む陰謀は、二つ同時に成り立ちませんよね?

理屈よりも、国民はイライラをぶつけたのです。技術立国の地位下落をまねいた国策不備への不信感も、追跡してわかりました。「悪の組織が動いている」「国際的な工作機関が暗躍している」「何か大きい力がはたらいている気がする」とSTAP細胞擁護でつぶやいた国民の素朴な実感は、現に起きている国力低下と抑圧された若年層の精神状態そのもの。たぶん世界に先駆けて、先進国のグローバル経済疲れも混入したはず。

――そうした陰謀は、今も日本で信じられていますか?

今も、STAP細胞を葬った日本科学界の陰謀や、世界各国の生物学者たちが手を結び、日本の一人の大天才を故意に排除した不正を批判する識者が多々みられます。それらは、人類が存在に気づかずにいた未知の物質を、予言して探し出すことが研究の目的だったイメージの上に築かれており、勘違いがひどすぎて引っ込みもつかないでしょう。

――STAP細胞事件は、何が主犯だったのですか?

発端は願望が招いた成功ありき、発覚以降は言葉でしょう。取り巻きの動きは、夢が招いた偶発でしょう。しかし別の問題として、複雑な事態を言葉説明できる者が国内にいませんでした。事件を批評したのは、別の女性科学者だったのも印象的でした。すぐに、女の敵は女と言われましたが。後に科学誌ネイチャーは、「日本は失速中で、エリートの地位が脅かされている」と伝えました。これを親切な警鐘と受け取らず、他国が意地悪で言葉攻撃してきたと取る声が国内であがったほど。

――マスコミはなぜ、作製を発見と言い換えたのですか?

想像ですが、研究所が「方法の発見」などと言うと、「細胞の発見」と受け取ったのかも知れません。言葉尻をとらえてたきつける報道づくりの慣習が、科学分野には不向きだったのでしょう。つまりマスコミは、最初から研究の意味を誤解していた可能性。結局ブーメランとなって、勘違いさせたせいで生まれた言い方である、「発見する時間を与えないマスコミたち」「その意図は日本つぶしだ」が投げ返されました。

――事件全体の構図は、高く持ち上げて落とすマスコミの視聴率競争とも言われましたが?

マスコミの善意をくむなら、沈んだ日本に明るい話題が欲しかったはず。難聴者が交響曲を作曲した奇跡をもてはやした「現代のベートーベン騒動」と同じです。またしても善から悪へと激変したのは、特殊法人研究所が出したノーベル賞級の国際的論文が偽造だったからでしょう。後で落とす目的で、わざと無理に持ち上げたのではなくて。リーダー研究者の管理者である上司は、記者会見で当惑ぶりがあらわでした。画像がモンタージュだった事態を整理しきれず、視聴者の予感どおり早い段階で自殺しました。

――事件を振り返って、特別な発見はありましたか?

国民は、芸術に期待すべきことを科学に期待していました。「わざと嘘の論文を書いて世界をあざむくことで、技術が盗まれるのを防いだ真の天才だ」的な称賛もそう。芸術を前にした時にはかしこまっておとなしく従順な国民が、科学を前にした時にはアナーキーなリベラルへ飛翔しています。ルールに従ったらだめだ、正規の方法では何も生まれないのだと、本来は芸術分野に向かって言うべき要求を、逆の世界である、科学分野に向けていました。

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