スキー100年目の革命Q&A

04 カービングスキー誕生の謎


1 カービングスキーは、どこかの誰かが1人で発明したのか?

複数のメーカーが、「カービングスキーの先駆者」「最も初期から開発」「オリジネーターの一社」などと宣伝しています。しかし「我が社の発明だ」は言わず、出生が微妙だった印象を与えます。製品が発売されたのも、オーストリアのK社とスロベニアのE社が1992−93シーズンと同時で、これは情報が横に流れていたり、OEMの関係かも知れません。


2 発売される直前に発明されたのか?

1980年代の終わりに試作品が存在し、一部輸入されていた耳寄りな話もありますが、どの程度小さいRだったかなど、詳細はわかりません。どんな分野でも、革命を成し遂げる製品はにわかづくりではなく、地道な研究期間が案外長いことはいえるのですが。


3 カービングスキーが作られた目的は何か?

製品化されてからのウリは、操作を簡単にする目的と、レースのタイムを短くする目的の、2つが主でした。私見ですが、カービングスキーはスノーボードが初期の砲弾型から今の長円型シェイプになった後に生まれており、サイドカット半径8メートルのボードの扱いやすさがヒントになったか、あるいは意識して模倣したのかも知れません。


4 新しい素材が発達したので、カービングスキーが実現したと何かで読んだが?

大筋は誤りです。グラスファイバー、カーボン、ケブラー、チタン、ボロンなどの新素材が、板の強度を高めたので、カービングスキーの製造を可能にしたという説は、史実とさっぱり合いません。


5 夢の素材が、夢のカービングスキーに結実したという成功話は、ウソなのか?

一応はウソです。例えば、最新カービングスキーに見るサンドイッチ構造は1930年代にあり、木芯グラスファイバー巻きは1960年代にありました。先にあげた現代的な5つの素材も、思ったより前から存在しており、それどころかずんどうの旧式スキーに使われていて、すでにおなじみです。素材説が本当なら、スキー板に使われた時点でカービング化されているはずなのに、現実はそうはなっていません。


6 カービングスキーが登場する直前に、製品にその兆候は出ていたのか?

前兆は見あたりません。少なくとも1991−92年の総合カタログ『世界のスキー用品』を見ると、スキー板はどれもこれも完全にずんどう形で、サイドカットを小さく作りたい願望が全くみえません。そういう形状の設計もありうるという発想自体が、芽生えていないことがわかります。


7 カービング前夜に、ジャイアントスラローム板のRが小さくなっていたらしいが?

大回転競技スキーのセンター幅を2ミリ狭くした製品の登場は、雪を踏む荷重伝達の強化が目的であり、サイドカット半径に革命を起こす進化とは、また別の方向です。新素材の開発が成功したのを受けて、業界が待ち望んでいたカービングスキー製造が解禁になったという物語は、全くありえない話です。


8 昔からあったサンドイッチ構造でも、カービングスキーは作れるのか?

カービング効果を高める競技モデルや一般トップモデルに、この伝統的構造がプレミアム付きで使われ始めています。材料を貼り重ねるサンドイッチ構造は、要するに合板にすぎず、別段高級でもなく、昔はレンタル板も全部これでした。一枚板に近い均質さで、押した力に対し比例的にたわみ、不連続点、ピーク、飽和が出にくくなります。昔のありふれた製法が適する点も、「新素材の発達あってのカービングスキー」説に無理がある証左です。


9 いわゆるメタルスキーは、どの部分に金属が使われているのか?

食べるサンドイッチの食パンにはさむハムのように、アルミニウムなどの薄板を中間層として強力接着剤で貼り合わせれば、サンドイッチ構造を強化できます。金属板の断面が、側面に地層のように見えます。メタルスキーは1980年代前半に流行しましたが、普及すると死語になりました。80年代後半には、モノコック構造やキャップ構造が増えます。


10 キャップ構造は、先端にキャップを付けただけでなぜ構造と呼ぶのか?

キャップ構造とは、スキー板の上面、つまりスキーヤーに見えるプリント絵柄を貼った面が、側面までぐるりと回り込んでいる一体構造です。それを誕生ケーキ箱のフタのように、底面にかぶせます。自動車のシャーシにのせるボディ、そのボディが屋根から側面までひと続きの大きい部品になった状態と同じです。板の先端にはめた、プラスチックのセイフティー・キャップとは無関係です。


11 今のスキー板は、いかにもオール・プラスチックに見えるが?

プラスチック系は防水保護膜としての外皮と、雪に当たるソールのシンタードベースなどに、思ったより薄く使われているだけです。つまり今も普通のスキー板の大部分は、木を接着剤で張り合わせた集成材です。まれにスキー板が折れて中の断面が見えますが、体積の多くが木材で作られていることがわかります。


12 メーカーは、メタルスキーよりもさらに丈夫な素材を探しているのか?

それは逆で、カービングスキーは旧式スキーより軟らかく作ってあるのです。新旧スキーを両方持っていると確かめられますが、昔の板の方が硬くて剛性があります。


13 材料の制約が解消した日は、何十年前までさかのぼれるのか?

結局スキー史上、カービングスキーが作れなかった時代は一度もありません。鉄さえなかった石器時代でも、カービングスキーは作れました。もっと新しい時代では、70年前の1930年のスキー板は、野球のバットと同じ樹木ヒッコリーを削った極厚板で、裏のフチに鉄製エッジもありません。今の目にはたいへん原始的で粗末ですが、十分滑れました。


14 ケミカル材さえない天然樹木だけのその時代に、カービングスキーは作れたのか?

R15メートルで作りたければ、1930年代の切削技術でわけなく15メートルに作り、レール・ターンで体を倒し込んで滑れたはずです。「白い恋人たち」の1968年のグルノーブル五輪や、72年の札幌五輪の時でも作ろうと思えば作れたのに、作らずじまいです。


15 しかし板の幅を広げるには、割れたりフニャフニャしない強度が必要との記事もあったが?

昔の職人が、単板を必要なだけ厚くして解決したはずです。1934年には早くも国内O社が合板スキーの国産化を始めているし。普通に考えても、幅280ミリのスノーボードや、幅240ミリのモノスキーが売られていた1980年代に、幅99ミリのカービングスキーに限って、幅が大きすぎて作れず86ミリにとどまった、など考えられないでしょう。広葉樹の単板より前の、近世の竹製のスキー時代でさえ、120ミリ幅でも工夫して作れたはずです。


16 スノーボードが280ミリ幅に作れた理由は、新素材ではないのか?

スノーボード界では、「ハイテク素材の発達によって、スキーの幅より広いボードの生産を可能にした」とは言っていないようです。1930年代の合板製造技術で、28センチ幅のスノーボードであろうと、10センチ幅のカービングスキーであろうと、朝飯前で作れたことは分かり切っています。1万年のスキーの歴史で、カービングスキーはいつでも作れたのです。


17 いつでも作れたのなら、なぜ作らなかったのか?

小さいRのスキー板を、誰も作ろうと思わなかったからです。


18 なぜ、思わなかったのか?

サイドカット半径のR自体が、考えになかったからです。Rのメートル数は、表記どころか概念さえ、カービングスキーとともに出回りました。「前後を幅広にしたいのは山々だが、今の材質では無理だ」とか、「未来の物質が手に入るなら、今すぐにでもサイドカット半径を小さくできるのだが」とくやしがる論調を、過去に全く見ませんでした。


19 そういえばずっと昔から、スキーには解けない疑問が2つあるそうだが?

「スキー板はなぜ滑るのか」「なぜ曲がるのか」の2つです。滑る方は仕組みはわからなくても、「滑りをよくする方法」は早くからわかっており、ソール材とワックスが発達しています。ところが曲がる方は仕組みだけでなく、「曲がりをよくする方法」もわからなかったので、カービングスキーは生まれなかったのです。


20 初めてスキーにサイドカットがつけられた時の半径は、どの程度の大きさだったのか?

スキー板にサイドカットをつけた発明者は、どこの誰かわかっています。ノルウェーのソンドレ・ノールハイム(Sondre Norheim、1825〜97)がその一人だとされますが、その時のサイドカットの仕様は記録がないようです。もしかすると、100メートルなど巨大な半径だったかもしれません。


21 その時にノールハイム氏は、なぜ15メートルではなく100メートルを選んだのか?

選んだのではないでしょう。アイデアは「くびれ」であって、Rの考え方がなかったらしく、15メートルがダメで100メートルがよい、と考えるはずはありません。色々なRで実験してデータをとった話も、もちろん聞きません。これも推測ですが、元々は建材のように真っ直ぐな板を理想と考え、くびれをささやかな工夫かつ必要悪として、できるだけわずかにとどめたかったと考えられます。各国のスキー博物館には、そうした直線に近い昔の単板が展示されています。


22 Rの数字がスキーのカタログに書かれたのは、いつ頃からか?

調べてみると、ようやく全製品にRが記されたのは昨1998−99シーズンです。ひとつ前の97−98シーズンのカタログでさえ、メーカーにより半径のみ表示、幅のスリーサイズのみ表示、そしてどちらも記さずに写真だけのメーカーもありました。わずか3年前の雑誌にも、サイドカット半径が書かれないカービングスキーの方が多いぐらいで、資料調査で苦労します。そんなだから、昔の板が100メートルというのも勝手な推定です。


23 単なる人間の思い込みで、スキー板の形が決まっていたわけか?

本当にそうだなあと感じます。100年以上も、板にはRが存在したのにRとして目に映らず、曲がるための細工だとはわかっても、曲がる原理は不明でした。「Rを何メートルに設計しようか」という、設問そのものが100年間存在せず、21世紀を目前にした1990年代に急に現れたのです。我々は今、その境の年をまたいでスキー板の革命に立ち会い、実験に被験者として加わっています。


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