スキー100年目の革命Q&A

06 カービングスキーが売れなかった理由


1 カービングスキーが最初に発表されたのは、いつなのか?

ヨーロッパで発表された翌1993−94シーズンに、日本のカタログにヨーロッパ2社の製品がのります。告白するなら、私はすぐに買っていないどころか、注目してもいません。なぜかと言えば、私がスキー板の研究を始めたのは、1997年秋にカービングスキーを買って唖然となった体験が出発点だからです。当時は板よりも靴に関心があったので、革命の芽をリアルタイムに観察できなかったわけです。


2 初めて実物を見た時には、何を感じたのか?

カービングスキーの製品サンプルを私が初めて見たのは、1996年夏です。その時「しゃもじ」のような変な板があるぞ、何だろうあれは、と仲間と話題になりました。実際しゃもじやスプーンに見えた人は多かったようです。その時はカービングスキーとは呼ばなかった気もします。丸々と太った丸ポチャ形状は鈍重でやぼったく見え、シャープに雪を切るカービングターンの語感に全く結びつくものではありませんでした。


3 カービングスキーを買うのに、きっかけはあったのか?

直接のきっかけは、知っているスキー国体強化選手が、97年秋にカービングスキーを入手したからです。彼はボーゲンで恐る恐る試していましたが、スキー板が小さい半径でキュイーンと曲がって行くのを見て、これは大変なことが起きていると思い、急いで書店で雑誌を買い、事態を知って製品情報を調べ、別のモデルを買いました。


4 カービングスキーを買った時の店内は、どんなようすだったのか?

張り紙には「簡単に滑れる」と書かれ、テープレコーダーで「簡単、簡単」と力説する声を、エンドレスに流し続けていました。スキーの簡単さを騒々しく宣伝すること自体、初めて見た光景です。それでも売り上げ回復を果たせなかったらしいことは、そのチェーン店がしばらくして取り壊され、スキー部門を近隣から撤退させたことで想像がつきます。


5 エキスパートでさえ、95、6年にはまだ見過ごしていたのか?

エキスパートやプロがカービングスキーへいつ乗り換えたか、確かな証言者は当時の雑誌の写真しかありません。北国では操作が平易な新型スキーへの批判や反対意見が、たいへん多かったことは確かです。また幾人もの北国出身者が、簡単な板なんて間違っていると言う意見を、何度も何度も、本当に何度も何度も、面と向かって聞きました。旧式スキー賛美こそなかったものの、カービングスキーをけなし、間違った改悪だと不満そうに批判する人がとても多かったのです。


6 革命の芽となるカービングスキーの最初の製品は、どんな売れ行きだったのか?

ほとんど相手にされなかったようで、アメリカで96−97年、日本で97−98年まで、一般スキーヤーはそれを買う気になりませんでした。今私の手元には、1995年に出た日本のスキー技術の粋を集めた特集本がありますが、カービングスキーに関するホットな速報は完全に何もなく、写真の全てが旧式のずんどうスキーです。要するに完全無視です。これは、プロも含めたスキーヤーがあの板の登場を待ち望んでいなかったどころか、登場後も関心がなかったことを示しています。


7 100年ぶりの画期的な製品なのに、なぜ4、5年間もスキーヤーは買わなかったのか?

やはり大きかったのは、ショップでの消極的な扱いです。96−97シーズンには、陳列がまだ旧式スキー中心で、カービングスキーは付け足しでした。特殊な限定商品を思わせる陳列と、高めの価格だったので、客は見てフーンと言っておしまいです。「こちらの新型がおすすめです」とは一言もありません。その結果、私は96年秋に、まだこりずに旧式スキーを買っています。それを使った97年1月のゲレンデでカービングスキーを見た回数は完全にゼロだったし、エキスパートが先見の明をにおわす話と実態はあまり一致していません。


8 ショップがカービングスキーの販売に、力を入れなかったのはなぜか?

過去100年以上の心理的な惰性が、店員にもあったと考えられます。メーカーが従来の板と並行して、全く違う変テコな製品を出荷し始めたので、ついていけない店員たちは、従来の板をすすめるしかありません。利点がわからない物を、客に何をどう説明すべきか困惑したことでしょう。


9 一般スキーヤーたちは、あの外見を見て何を感じたのか?

先述の「しゃもじ」を連想し、誰もが異様な形状だと感じました。スキー板とはこういう物だというイメージからかけ離れたプロポーションなので、奇抜さで目立とうとした商魂たくましいアイデア・グッズに映ったのです。97−98シーズンから逆転して売れ始めますが、その後にも反対表明した人が大勢います。一般客が買い始めた1999年頃に、雪国のベテランたちがついに反対運動を起こしたと伝え聞きます。


10 あの反対運動は何だったのか、本心を正直に言えばどうなるか?

「俺たちベテランは従来の板でも十分滑れるから、カービングなどという簡単に滑れる板はいらない。そして、ビギナーたちにも与えるな。従来の板に戻せ」。


11 反対意見の内訳として、具体的にどういう主張があったのか?

私が購入して以来、リフトで足元のカービングスキーを見せながら聞いて回った際に、技量にかかわらず多かった否定的意見を並べてみましょう。@簡単なんてそんなのダメ、A十分滑れる私には必要ない、Bへたな私にはもったいない、C板はどれでも同じ、D今の板を買ったばかり、E変な流行に乗るべきでない、F道具のことはわからない・・・。


12 カービングターンの語は、カービングスキーよりも前からあったそうだが?

80年代の総合カタログに、国産のカザマ社がカービングターンの解説を掲載していました。「前後1:1のエネルギー比。それは理想的なカービングターンの実現。雪面からの抵抗をターンエネルギーに変換して滑るハイテクニック『カービングターン』・・・(略)・・・スキーに内蔵されたエネルギーの前後バランスを等しく設計。ターン時の内蔵エネルギーがトップ部とテール部で変わらないのです。これにより、ターン時にスキーが平均的な円弧を描き、トップ部のラインをテール部が忠実にトレースする理想的なカービングターンを可能にする(注4)。」


13 その解説は、どういう意味なのか?

「スキーに内蔵されたエネルギー」とは、たわんだ板が持つ反発力のことらしく、これが前後1:1で等しいとは、硬さのバランスが前にも後にも片寄らず、きれいな丸い形にたわむ意味だと思います。最後の方の、トップ部とテール部が雪面をトレースしたラインが一致する記述は、カービングターン=オン・ザ・レール・ターンの定義として、今も通用するでしょう。


(注4) 『86世界のスキー用品:全日本登山とスキー用品専門店協会』より


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