スキー100年目の革命Q&A

08 レースで勝つスピード、なのにイージー、なぜ?


1 まずレースの基礎知識を押さえておきたいが?

アルペンスキー競技は4種目あります。@滑降(DH=ダウンヒル)、Aスーパー大回転(SG=スーパー・ジャイアント・スラローム)、B大回転(GS=ジャイアント・スラローム)、C回転(SL=スラローム)。旗門やポール数は@が最少でCが最多、その結果@はゆるやかに回り、Cはクネクネと小刻みに回ります。最高スピードは@130キロ、A100キロ、B70キロ、C50キロ。@Aを高速系、BCを技術系と呼び、選手の専門が分かれますが、Bには高速系選手も参戦するので激戦になります。全種目出る選手(オールラウンダー)もいます。スキーの王者は@、映像が美しいのはA、一番繊細で難しいのはB、日本人が上位可能なのはCです。


2 そのレース界で、カービングスキーの活躍がすごいそうだが?

97−98シーズンのワールドカップの大回転競技でカービング系スキーが圧勝し、このシーズンの長野五輪でも、大回転はR28メートルが制覇しました。日本のスキー界も選手も出遅れつつ急いで大移動し、翌98−99シーズンの輸入はほぼ全製品がカービングです。ところがその長野五輪でも、回転競技はR40メートルのずんどうスキーが中心で、2年以上たって急にカービング化しました。


3 より小さく回る回転種目で、カービングスキーがしばらく作られなかった理由は何か?

むろん新素材の開発を待ったせいではなく、小回りはRが大きい方がいいと関係者が思ったからです。大回転競技のカービング化が済んでしばらく、回転競技では従来のずんどう板が主流のままでした。カービングスキーが100年間生まれなかったプロセスが、大回転スキーのカービング普及後の3年間に、回転スキーで縮図のように繰り返されたのです。


4 ただの一社も、回転種目のカービングスキーを製造しなかったのか?

出したメーカーもありましたが、「スラロームはカービングスキーでは無理」と選手側は敬遠しました。その結果、大回転用はR22メートル、回転用はR32メートルという作り分けが定着するかに見えました。しかし99−00シーズンには、回転用がR10メートル付近にまで一気にカービング化されました。道具というものは製造技術があっても、作る気がなければ製造されないことを改めて示しました。


5 スラローム用はRがゆるい方が良いと思った、その根拠は何だったのか?

振りの速いカービングターンが得意な選手が、まだいなかったからです。10秒間に20回カービングターンする滑り方は、人類の未体験ゾーンでした。従来のメダリストたちとて、雪に切り込んでウネウネと素早く蛇行するショートカービングの練習に手を出すと、混乱してスランプに陥るかも知れません。先進ユーザーやスキー学校の先生たちも、まだ10秒間に3回カービングターンする大回りの練習を慎重に始めたばかりです。


6 ところで、なぜレースではカービングスキーの方が速いのか?

ずらすより切る方が、ブレーキのかかり方が弱いからです。スキーヤーが下へ下へ落ちて行き、位置エネルギーを運動エネルギーに変換しても、板がズレれば運動エネルギーが雪を削って押しのける仕事に消費され、どんどん失速していきます。逆にカービングターンで切り込んで滑った場合は、厚紙をカッターナイフで切る時にも似た摩擦抵抗は増えますが、ずらして滑るよりはエネルギーのロスが小さくなります。


7 スピードが出るカービングスキーで、初級者は恐くないのか?

スピードが「勝手に出る」のではなく、「望めば出せる」のです。「出さない」方も簡単に選べるから、恐くないのです。スピードを出したくないのに勝手に暴走する旧式スキーに対し、好きに落とせるのがカービングスキーの明快な利点です。ハンドル操作とブレーキ調節がやりやすいので、転倒が減って恐さが激減です。


8 初級者が、スピードの話にピリピリと神経質になるのはなぜか?

旧式スキーの心的な後遺症です。「カービングスキーはレースに強い?速い?ならばやめとこう」と神経をとがらせる初級者は、無理もありません。旧式スキーは雪に食いつかず、あいまいにふらつくので、常に足元がイライラして気を抜けません。こうした不安定な挙動のせいで、実際にはけっこう遅いのに、すごいスピードで突っ走っていると本人は感じるのです。こうした自称「かっ飛び君」や「飛ばし屋さん」は、カービングスキーで消滅するかも知れません。


9 カービングスキーで、ビギナーや初級者が得る恩恵は一口で言えば何か?

少ない練習量で楽にターンできる点です。直線的な暴走から解放され、心身に余裕が出て、直ちに人目にカッコがつきます。旧式スキーは操作の注意点やツボが多すぎて、本腰を入れた念入りな練習が必要でしたが、カービングスキーでは一気にシンプルになって習得が早まります。


10 旧式スキーで本腰や念を入れなかった人は、その後どうなったのか?

敗れ去りました。1980年代半ばから始まった平成バブル時代の一大スキーブームで、大勢の新客がスキーに参加しました。しかしその多くは、ターンの難しさを知ってスキーをあきらめました。替わって参入した新しい客が、運良くカービングスキーに乗れば、敗れ去った先輩たちの苦悩も知らずに、スイスイ上達していくのです。


11 敗れ去った先輩たちの苦悩とは何か?

パラレルの壁です。