スキー100年目の革命Q&A

23 子どものスキーが教える大人の敗因


1 子どもはスキーがうまくなるのが早いと言われるが、本当なのか?

多くの子どもたちを観察していると、むしろ遅く見えます。子どもは日単位のステップアップが大人より小さく、なかなか変化が見えません。うまい子ども一人に注目すると、必ず時間をかけて練習してきているし、指導者が念入りに教習した点にも注意がいります。放任主義であっという間にうまくなるケースは、実際にはありません。


2 しかし子どもの頃から始めた人は、明らかにうまさが違うが?

当初の上達はノロノロでも、その後の習得の深さは段違いです。ネイティブ言語のように、体の芯に刷り込まれる感じで、途中で大人を逆転します。高校でちょっと覚えのある程度の人でも、大学に入って比べれば日数の割りに流ちょうに感じます。ただ多くのケースでは、始めるのが早ければ練習日数と時間数も多いので、今現在うまい原因として練習の絶対量も関係あるはずで、条件をそろえないと比較の意味がありません。


3 子どもはパラレルの壁を、大人より少ない日数で越えるのか?

逆に日数が多くかかっています。なかなか上達しない低迷期が、大人よりかなり長いのです。児童は全身の筋力バランスが完成しておらず、中腰などで脚部にタメをつくれません。極端な後傾姿勢で足をいっぱいに伸ばして踏ん張るのに精一杯で、32日滑ってもパラレルは無理です。入門しばらくは、大人の方が上達テンポは早いといえます。


4 子どもの方が着実にうまくなるように感じるのは、なぜなのか?

子どもが大人よりも上手になるのに有利なメカニズムがあるのは確かで、それはジュニア・スクールなどに入ると、スキー場に行くことがノルマとなるからです。勝手にキャンセルできません。途中でつまらなくなっても、自分から脱退もできず、従属的にスキー教習を続けます。わがままを言って上達の道から外れる方が、むしろ難しいという弱い立場が幸いします。


5 大人は立場が強い分、上達の道から外れやすいわけか?

大人はいつでも、自分の意志でやめられます。自由に、気ままに、イヤになれば即刻放棄すればいい。他にやることがいくらもあって、スキーに何の義理もありません。去るのは本人の勝手。止める者はいません。その結果、大人はパラレルの壁で低迷期に入ると、ボルテージ低下にまかせて渋り始め、素直に日数を減らします。壁を避ける道を探す行動力があるだけに、早々と引退したり別のスポーツに転向するケースが多くなります。


6 自由な立場だから、続かず撤退するとは、あまり聞かない話だが?

実はあちこちに見られる現象です。例えば、ピアノやバイオリンなどの楽器がその典型です。スキーに限らずあらゆる特殊技能は、感情に忠実に行動すれば、ベーシックな土台づくりの途中で投げ出して、身につきません。子どもが続きやすいともいえるし、大人が脱落しやすいともいえます。


7 子どもは大人ほど苦労せず、難なく上達しているようにも見えるが?

子どもに接して話を聞けば、やはり苦労しています。様々な低迷で苦心する点は大人と変わらないし、うまくいかない時の困惑も大人と同スケールです。子どもにないのは、それを言葉巧みに伝える表現と発言力だけです。少しずつ積み上げる順路は何歳でも同じで、覚えられずにやめていく子も案外います。ただし親が見込みなしと判断しないと、やめさせてもらえないので、結果的にかなりの割合の子どもが日数をかせいでパラレルスキーヤーになり、後のゲレンデのヒーロー、ヒロインに育つのです。


8 当の子どもにしてみれば、スキーは楽しいのだろうか?

子どものテンションは、しぐさに現れます。何人かの子どもがスキーで成長する過程を見ていますが、パラレルやクローチング・カービングターンを覚えると急に笑顔が増えて熱中します。リフトを降りて滑り始めるまでのテンポが上がり、親が止めないと夕方遅くまで残って続けたりします。逆に低迷中の子どもは、リフト回数が減って、道草を食ったり、落ちているゴミに気が回るなど、スキーへ集中しなくなります。


9 中には、やめたいと思っている子どももいるのではないか?

子どもも大人と同じで、全員が一度はそうなります。しかし立場が弱いからやめられず、渋々続けるうちに時間が味方してパラレルの壁を越えるのです。壁を越えれば、やめたくなった理由が消えるので、がぜん熱中します。時々ゲレンデで3、4歳の幼児が滑っていますが、ある女性がオフィスで私に、「そういうのって、スキーをやらされて、かわいそう」と言いました。パラレルの壁でやめた当人の視点ですが、壁の悩みを聞いてあげて脱退を許した親は、特技をのがした子に後で悔やまれたりするから難しいのです。これもピアノなんかと同じ。


10 大人なら、パラレルの壁を越える強制力として何があるのか?

大学スキー部、職場クラブ、スキー友達など、昔から言われる「仲間がいること」が、スキーを続けて楽しい域に届くための、ノルマや後押しなど、いい意味での拘束になっていると思います。仲間がいないなら、家庭が最後の砦でしょう。


11 どういう家庭なら、楽しいスキー一家になるのか?

両親と子どもが全員で滑る家庭は、幸せの理想です。家族全員に共通の生涯スポーツは、一般家庭にない強い基盤になるでしょう。非行が起きにくい副産物もあります。ただ夫にスキー歴があって、妻の体験は修学旅行だけという都会家族では、再チャレンジした妻が今さら突き当たるパラレルの壁でやっぱり断念してしまい、夫と子どもだけが続ける「内助の功」も多かったようです。寒さや日焼けなど他の理由をしのいで、パラレルの壁はここにもついて回るのです。


12 練習時間が減って置いて行かれた妻は、どうすればいいのか?

パラレルの壁で低調が続き、家事もあることだしやめようかと迷いますが、そこだけは無理して続けた方が未来は明るいかも知れません。アウトドアスポーツには男中心のイメージがあり、おかあさんだけ外れては亭主も子どもも話題が共有できず、つまらないでしょう。それでなくても、一家の遊ぶ者と遊ばない者の間で、最初はあった互いの尊重が壊れ、いつしか冷戦になる話をよく聞きます。ママさんスキーヤーの継続を前提とし、協力し合う家族が安泰だと感じます。