スキー100年目の革命Q&A

39 軟らかいスキー板は、楽しいスキー板


1 カービングスキーにも、昔の板のような硬いモデルがあるのか?

エキストリームカーブながら、最高級に硬い板を入手しました。店で確かめようと手でねじったら、板がびくともせず親指の関節をくじき全治3か月という、非常に硬い板です。サンドイッチ構造に厚めの金属板を重ねて非常に重く、カチカチぶりは鋼材を思わせ、選手用の板と比べても次元の違う硬さです。硬さが目的というより、たわみがゼロの、たわまない板を試しに作ってみた印象を受けます。そんな結果、スキー本来の軽快さが希薄で、スノーボードのような重い軸下感覚になっていました。

(後日談:2003年11月)
経済産業省と全日本スキー連盟が4つに分類したカービングスキーは、@レース、Aピュア、Bイージー、Cエキストリームでしたが、この分類は終わりました。「エキストリームカービングスキー」とは、長さ150センチ前後、半径14メートル以下の、カービング性能を強調したタイプでした。しかし、森林や岩場の雪を滑る冒険系の「エキストリームスキー」とよく混同されました。現在はエキストリームカーブを名乗る製品はわずかで、スラローム競技用やデモ用小回り系に置き換わっています。


2 スノーボードの軸下感覚とは、どういうものか?

硬くてゴツいスキー板に体重が軽めの人が乗ると、スノーボードに近い重い切り回しになります。スキー板は靴の延長なので、足に「はく」感覚になり、人間に道具を付け加えた状態です。スノーボードは逆に、ボードの舟に人が乗船する感覚です。結果、スキーはピョンピョン小刻みに跳ね回るように滑り、空中に浮く瞬間が多いのに対し、ボードは整地ではあまり跳ねずに雪にくっついた状態で切り回します。硬いスキー板はこれに似てきます。


3 その硬い板は、良かったのか、悪かったのか?

最初は、がっちりした大きな信頼性を感じました。ポールも難なく回れます。しかし、板が雪に食いついて離さない感じで、どこをどう滑ろうとイヤでもカービングし、スキッディング(ずらす滑り)は困難でした。軽快感や浮遊感が乏しく、ずらす小回りはかなりの力仕事になります。


4 小回りができない板で、急斜面をどうやって降りたのか?

足をおおげさに引っ込めて切り替えるカービングのベンディングターンでやりくりしました。普通に伸び上がろうとしても、たわまないので力が返ってこないし、ずらして回し込もうとしても、板がかっちり食いついて全くズレないので、ヒヤリとします。


5 その硬すぎる板で、コブは行けるのか?

コブの受けている場所でずらすのは困難で、バッチリ食い込んで全くずれません。従っておおげさなベンディングで、コブをランダムに突っ切って乗り越えるのがせいぜいで、コブのリズムに合わせるオーソドックスな操作は困難でした。アルミプレートを外した状態でも、ズッシリとあきれるほど重い板なので、空中で振るのも難儀しました。


6 新雪はどうか?

実用性は皆無といえるでしょう。本来スキー板は深い雪の中であっても、きちんとたわむことで泳ぐ魚のようになめらかにくぐり抜けます。しかし硬すぎる板は、たわまない真っ直ぐな形状のまま雪を押すので、まるでブルドーザーのようにドドドッと雪を押しのけるだけで、いちいち失速してターンが続きません。激しい抵抗を受けて止まるか、直線的に走るか、両極端しか選べず、湾曲状態でパウダーをスルスルといい感じで泳いでくれないのです。


7 慣れや訓練で、硬すぎる板も何とかならないか?

ベンディングターンに慣れると、この板が気に入りました。木と段ボールで専用の運搬ケースも作り、同じ板をもう1セット買い足そうと思ったぐらいです。つまり末永く使えそうだと、私は感じたのです。ところが別の軟らかい板を何日かテストした直後、この硬い板に戻った日にがくぜんとしました。極端なカチカチぶりが全身に衝撃をもたらし、初めて負担を自覚したのです。


8 どんな負担が起きたのか?

ずらすターンが重すぎます。ターンのたびに「引っかかる感じ」が猛烈で、カックンブレーキの急減速で両足はクタクタ。抜けの悪さは異常なほどで、ずらす滑りは相当へたになりました。無機質で味がなく、過去の苦難にも気づきました。例えば途中で止まると長く休むので、リフト回数が減ります。帰る頃に足がつりやすくなり、帰ってからも筋肉痛が残りました。動くのにいちいち馬力が必要で、筋力トレーニングをやらない私には、もう無理かもしれないと感じました。


9 そんな板を、最初は優れモノに感じ、後でつらくなったのはなぜか?

私の場合、最初に買ったカービングスキーが偶然、レース仲間も敬遠した硬すぎる板だったので、硬い板に慣れていたのです。それが軟らかい板に立ち寄った際に、硬い板を動かすのに必要な何かが衰えたのです。それは筋力以外に、重い板を振り回す気力や、常に力む条件反射などでしょう。


10 運動能力が衰えるのを防ぐ目的で、硬すぎる板も支持されないか?

個人的には、変な形の自転車に乗るのがおもしろいように、極端な板を使うのは興味深いものです。ただ、初級者が棒立ちで動けなかったり、上級者が午前中に足がダルく過労する硬いスキー板は、すっぱい果物と同じで、だんだん甘く品種改良されていくでしょう。

(後日談:2003年3月)
その硬い板は翌年も販売され、翌々年に同じモデル名で一転して軟らかく設計変更されました。カービングスキーの改良が進むにつれ、軟らかい板が良いという常識が定着しつつあります。あるスラローム競技用のペッタリした軟らかさが気に入ったのに、評価記事を見ると、「かなり硬くて選手以外は無理」とありました。常識的な感覚からズレてしまうあの板を、もう続けるわけにいきません。中年プロスキーヤーたちが「疲れる板」を酷評していますが、なるほど理解できました。


11 エキストリームカーブなのだから、小回りは得意そうに思えるが?

「硬いエキストリームカーブスキー」は、機能が自己矛盾しています。Rが小さいので小回り用のはずなのに、硬いから板がたわまず大回りになります。


12 なぜたわまないと大回りになるのか?

スキー板は、サイドカット半径の数字どおりの半径で曲がるのではありません。スキー板を床に置いてローリングさせ、角づけ状態をつくってみればわかりますが、もし板が全くたわまなければ、張り出したトップとテールのみ床に触れて、靴が乗るセンター部は宙に浮きます。この状態で滑ることは、もちろんありえません。


13 雪でやれば当然、靴が乗るセンター部は体重で押し込まれて、板が弓なりにたわむが?

そうして、170センチ板で140センチほどあるエッジ全体が、雪にべったり触れた状態で回ります。この時、板が硬いほどセンターがへこみにくく、靴部分の板裏が雪にそれほど強く当たらなくなります。その分トップとテールが雪に過剰に食い込むわけで。これが硬い板ほどずらしにくい理由です。硬さの程度がひどいと、雪を激しく引っかいてガクンと失速するだけで、なめらかに回り抜けなくなります。


14 サイドカットが大と小の板では、どちらが多くたわむのか?

サイドカット半径の小さい板、つまり簡単に小回りができる板の方が、たくさんたわみます。サイドカット20メートルよりも、10メートルの方が、板の形状を激しく変化させながら、たわみを活用して回る板ということになります。


15 それは、よく言われる話とは逆ではないか?

人間は逆に感じるのです。半径10メートル板よりは20メートル板、つまりRがゆるい、よりずんどうに近い、たわみの少ない大回り板の方が、たわみを使って回る板に感じてしまうのです。サイドカットで回る板と、たわみで回る板の、2種類が存在するという言い方は、感覚的で詩的な表現ながら、人間の実感なのです。物理的には、「たわまずにサイドカットだけで回る」という現象は絶対に起きません。


16 なぜ起きている現象と、逆の感覚が人間に生じるのか?

サイドカット半径が小さいほど、板が自動的に回って、無理やり足を引っ張られる感覚があります。おおむねR12メートル以下の板は、レールにパッチリはまる感じになり、切り半分ずらし半分といった中間的なターンになりにくいのです。このため、決められた半径をなぞっている受け身の気分になります。


17 たわみを感じる板の本当の正体は、いったいどういう板なのか?

片っ端から試乗した結論からいえば、中級の女性用の板がそうでした。係の人からそれは女性用モデルだと念押しされましたが、よくたわんでよく雪をトレースし、動きの自由度と快活さが明らかでした。つまり、自分にとって軟らかい板が、たわみを感じる板です。これは当たり前の話です。R8.5メートルのエキストリームカーブでも、たわみがきいている感覚がありました。極端にきついサイドカットですが、軟らかいからたわみを感じます。


18 線でとらえるスキーと、面でとらえるスキー、という表現もあるが?

硬さのバランスで説明する仮説を考えました。トーションがそこそこ強くて、フレックスが軟らかい板は、角づけ時にエッジが立って鋭く利いている機敏な感覚があり、これが線でとらえる感じです。逆にフレックスの硬い剛直な板は、角づけ時に切り込む感じが少なく、雪面にボテッと乗った鈍くて大味な体感があります。これが面でとらえる感じかも知れません。具体的な製品仕様では、線でとらえるのがキャップ構造の中で柔らかめの板、面でとらえるのがサンドイッチ構造の中で硬めの板。


19 線と面の、どちらのスキー板がいいのか?

面でとらえるスキーは、そう感じる人にとって硬すぎる板です。


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