スキー100年目の革命Q&A

46 足を拘束するスキーのマジック


1 旧式スキー時代には、登山用以外に短い板は存在しなかったのか?

120〜140センチのトレーニングスキーなるものがありました。普通のずんどう板のミニチュア形状で、レーサーがポジションを保つ練習用です。短い板は難しいので、特別なトレーニングに使われました。


2 短いと、難しかったり簡単だったり、本当はどちらなのか?

短い板には相反する二面があります。バランスを崩しても足元の遊びでウヤムヤにできるルーズな面と、そのルーズな遊びゆえにバランスを崩しやすく、それを技量で克服する必要があるシビアな面です。シビアな面を利用するのが、この短いトレーニングスキーです。100センチのように幅が広くないので、かなり難しい板でした。


3 100センチを、スキーのベテランはオモチャと言うが?

スキーの世界に欠けているのは、オモチャ遊びです。一度は試してみてはどうでしょう。ところがパラレルスキーヤーが100センチで滑ると、意外にもオモチャのように簡単ではありません。100センチは不安定でよろけやすいので、安定したカービングスキーに戻りたくなります。100センチを買ってお蔵入りにしたスキーヤーも聞きます。短いと努力不要で手軽かどうかは、実はスキーでパラレルターンができるか否かで分かれるのです。


4 パラレルができる、できないが、100センチの難易度にどう関係するのか?

短い板ほど、ブレたり、ズレやすく、足の拘束が弱くなります。足が拘束されないと、パラレルスキーヤーはやりにくく、ボーゲンスキーヤーはやりやすくなります。


5 なぜ足の拘束の受け取り方が、スキーヤーのレベルによって正反対なのか?

足の拘束を味方にするか、敵にするかで、立場が分かれます。スキー板は昔も今も、鉄道レール上の列車のごとく、前か後にしか進みません。切るターンもずらすターンも、足の拘束を巧みに利用するスポーツなのです。パラレルスキーヤーが右へ曲がる時、前進しながら右へシュワッと切れて行きます。飛行機や船や車の動きと同じで、「前進しながら曲がる」のです。あくまでも「前進しながら」です。


6 それに対して、ビギナーはどうやって曲がろうとするのか?

ビギナーは最初、スキーの曲がる仕組みを誤解している場合が多く、靴を右にクルリと向けようとします。「前進しながらだんだん曲がる」とは思わないで、「その場で瞬時に曲げてやるべし」と勘違いし、板を足でグイグイねじって回そうとします。バスケのピボット運動、つまり「右向け右」の動きです。これは普段、家庭や職場で歩く時に方向を変える足運びです。


7 その普段のフットワークをスキーで行うと、何が起きるのか?

当然スキー板は雪に食い込んで、足は拘束されており、足が雪とケンカして瞬時に転びます。ところが100センチまで短い板だと食い込みが甘くて拘束が弱いので、クルリと本当に爪先が右に向いてくれるのです。無茶なピボットが成功し、誤解でふっかけたケンカに勝ってしまうのです。


8 勝てれば、ハッピーではないか?

引き替えに、スキーの技能が体に蓄積しません。パラレルはスキー板の拘束を利用して、双胴船のように2本の板を平行に保ち続ける原理なので、拘束がないと板がバラバラに暴れて、常にあいまいに雪をなでた状態になりがちです。すると、パラレルがカチッとキマる夢の日が、いつまでも来ないわけです。


9 足元がルーズに動く状態が、ボーゲンスキーヤーにはありがたいわけか?

スキーに入門してから、パラレルでカチッとキメる日が来るまでの訓練中は、板が意地悪のように足を拘束します。ボーゲンスキーヤーが100センチで助かった思いになるのは、スキー板というじゃま物を足から取り除いて、靴だけの状態に近づく解放感が、実は一番大きいのです。


10 楽になるボーゲンスキーヤーに対して、パラレルスキーヤーは何が不都合か?

スキーの特殊技能を持っていると、立場は逆転します。前進しながら右へ切れて行こうとしても、気を許すと靴ごと「右向け右」になるピボット、つまりスリップしてスピンするミスが起き、シュプールが折れて円弧をきれいに描けません。スキーヤーのレベルが高ければ高いほど、これを「ずれやすく不安定」「不意に回って怖い」「大ざっぱな挙動に気をつかう」「バタついてリラックスできない」と感じるのです。


11 全く同じスリップ現象なのに、全く逆の受け取り方になるのか?

よくグリップして足元をがっちり支えて不意にぶれないスキー板が、パラレルスキーヤーは好き、ボーゲンスキーヤーは嫌いです。しっかりした足場が、パラレルスキーヤーは好き、ボーゲンスキーヤーは嫌いなのです。


12 その差は、どこかで聞いたようだが?

旧式スキー時代に、パラレルの壁を越えた人が板の安定を求めて、足元がぶれにくい長い板に次々買い換えて、しまいに2メートルにも達した、あれと同じ原理です。スキー操作に熟達するにつれ、体の使い方が正確さを増して安定していくので、足元だけが勝手にぶれてしまう短い板では具合が悪いのです。逆に操作が未熟で雑なほど、体のぶれに合わせて足元もいっしょにぶれてくれると救われ、転倒を防げるわけです。