スキー100年目の革命Q&A

48 救世主と魚雷


1 もしスノーボードが発明されなかったなら、何が起きたと考えられるか?

1980年代後半のブームでスキーを始め、やがて旧式スキーの難易度でパラレルの壁にはばまれ、断念した初級スキーヤーの受け皿はなくなり、ゲレンデとオサラバだったはずです。かなりの数のスキー場は、減収で済まずに廃業、倒産という事態になったことでしょう。しかし幸い、スノーボードに乗り替えて引き続きゲレンデに来てくれ、つまりスキー場はスノーボードのブームに救われたのです。


2 そのボードに、門を開かなかったスキー場も多かったようだが?

スノーサーフィンと呼んだ黎明期は、コース入場もリフト乗車も禁止されていたので、かついで登りオフピステで滑っている人を見ました。その後流行してからも門戸を開くのが遅かったスキー場の多くは、元々スキー客が多く、新たにボード客が必要ないリッチ施設でした。ということは、リフト待ち時間が長い混雑スキー場です。しかしそれも1995年までで、スキー離れがぐんぐん進んで、ボードへの転向者も増えるにつれ、スキー場はスノーボード客を頼るようになります。


3 ボードの行儀が悪いからという理由で、入場禁止にしたとも聞くが?

ボード締め出しの真相は、大筋は異物に対する様子見でしょう。そもそもボードは1枚板なので、スキーのような実用性や機動力はなく、だからレスキューや捜索隊はボードではなくスキーを使います。スノーボーダーが座り込むのは立っていられないから、コース端へ移動しないのは自由に動けないから、どこへ向かうか危ういのは駆け出しが多い初期現象です。


4 リフトを降りると、ボーダーが大勢座って通せんぼしていることがあるが?

指導した結果ボーダーが座るのをやめたスキー場は、現実には存在しません。頑として座り続けています。これはモラルではなく、道具の性質だからです。モラルを言うなら、スキーヤーがリフトで平然と割り込んだあの頃と比べ、ボーダーはおとなしい印象もあります。そんなボーダーに元初級スキーヤーの転身組が多いことも考慮すると、やはり行動の差は道具に起因すると考えられます。


5 スキー全盛時代のあのリフト割り込みは、いったい何だったのか?

割り込み禁止の看板が乗り場になく、ビギナーはあれが普通と知って、カルチャーショックを感じたはずです。単に扇状にロープを張っただけの、先着順も何もメチャクチャになった放任も、スキー界にかいま見る上級者優先の印象を与えました。入門ビギナーがスキーを離れた原因は、パラレルの壁に違いありませんが、リフト割り込みにへきえきした人も多かったのは間違いないでしょう。


6 一方ボードは、ゲレンデを荒らしているという困惑もあるが?

確かに、スキーだけの時代に守られてきたルールが、いくつかは壊れました。例えばゲレンデを靴で歩き回って足跡の穴をあけるとか、集まったゲレンデ隅の木陰などに飲食ゴミを放置するなど。またリフト係に詰めて座るよう指示されても、「僕たちいっしょです」と関係を告げて係員を拒絶するなどは、スキー時代にはなかったことです。


7 詰めて乗らないのは、今日の身勝手な世相が反映しているのか?

自分の都合を全体の利益に優先させる風潮はともかくとして、知らない他人とリフトに乗りたがらない人は、@子ども、A女性、B若者、C方言のきつい人、という傾向がわかりました。つまり会話べたがリフトの相乗りを避けています。逆に相乗り好きは、@中高年、Aベテラン、B会話上手の若者や子ども、というぐあいです。ボーダーが相乗りを避ける傾向が強いのは、B以外に足元のボードが隣同士ぶつかる理由もあるでしょう。


8 滑走中にもスノーボードはよく人にぶつかって、危険が指摘されるが?

スノーボードが他人に衝突しやすい危険性も、モラルではなく構造的な宿命です。ボード上に左右非対称に立つので、左右のいずれかに死角ができます。フリースタイルボードのノーマルスタンス(左肩が前に出る)ならば、進行方向に対し体ごと70度も右を向いて立ちます。これが構造的な宿命です。


9 なるほど顔が前に向かず、横に向いているわけか?

顔はもちろん前に向けて滑りますが、この状態で右エッジを立てて右谷回りする際に、ボーダーはフォールラインから左へ左へとふくらみながら、しかし進行方向は自分の向かって右なので、元々向きやすい右へ顔が向いています。死角となって見えない左にいる被害者に向かって、背中を押しつけるように突進するのです。


10 首を左に70度戻して、ボードの軸方向に視線を向けてもだめなのか?

70度も右向きに立てば、もはや左右均等には見えません。常に、目は顔ごと右へ向きやすく、左へ向きにくくなります。生態科学的に視界が広くなる静止時でさえ、真左はほぼ視界の外です。


11 複雑な話だが、ボードの衝突には決まったパターンがあるわけか?

スキーヤーの右後に、ボーダーが追突に近い側面衝突する形が圧倒的に多くなります。反対に、自分の右側にいるボーダーやスキーヤーに腹をぶつけていく事故は珍しいでしょう。ボーダーの腹が向いた右側は、顔も向いた実質「正面」なので、よく見えているからです。


12 スノーボーダーの腕が全体的に上がれば、解決しそうか?

この追突はボード上級者が起こします。ボーダーが大きく左へふくらみながら右ターンしている危険な状態、その技術は高速カービング・ロングターンで、ボード上級の技術です。スキー・インストラクターに、ボード・インストラクターが追突することもあり、ミスや未熟とは違います。


13 ゲレンデ混雑とは関係がないのか?

すいていると起きやすくなります。高速カービング・ロングターンは、すいたゲレンデで一発放つワザなので、客が少なくて飛ばせそうな快適ゲレンデこそが危険なのです。ガラガラの広いゲレンデに、加害者となる上級ボーダーと、誰かもう1人の計2人だけの「貸し切り状態」で起きた追突事故を、私も一部始終見ました。前を見ている人の右後に、右を見ている人が追いついてきて、気づかず追突したので、ブレーキ操作や回避動作が全くなく、魚雷を当てるような激しく無機質な衝突が起きました。


14 スキーヤー同士では、そういう衝突事故は起きないのか?

スキー同士では、事前に衝突がわかります。進行方向に正対して顔が向くので、衝突して相手を突き飛ばした後で気づくとか、衝突してなお気づかずに行ってしまうなどは、全くありえないことです。スキーでは衝突前から出来事を目視でき、加害者が急ブレーキや急ターンを試みたり、声を上げる時間もあります。ぶつかる前に自分から転んだり、すでに謝っているとか、キャーと叫べば相手がよけたとか、ぶつかりながら相手を抱いたなどは、スキー同士ではよく起きました。


15 ボーダー間に、スノーボードの構造的な危険性は周知徹底しているのか?

あまり知られていないようです。ある事故シーンを3人乗りリフトに乗って上から見ていた時、「スキーって危ないね。どこから出てくるかわからないものね・・・」との声が隣の2人から聞こえました。2人が心配するように、他人がどこからともなく神出鬼没に現れるのはなぜか。それは自分が横を向きながら前進しているからです。構造的に、ボードはよそ見しながら走っているのです。


16 それにしても、そういうのはあまり聞く話ではないが?

ボードの危険性として目立つのは、ジャンプの転倒です。あるスキー場では、衝撃で脳が片寄って後遺症が起きる危険性を、ゲレンデ放送の音楽を止めて長々と説明していました。ただ、スノーボードはひき逃げ事故を起こしやすく、逃走者へ呼びかける放送も時々聞きます。ボードが前を行く人に危害を加えやすく、結果的に逃走しやすいことは、スキー場の職員は知っていました。


17 逃走しやすいとは、どういうことなのか?

事故パターンをおさらいします。ノーマルスタンスの上級ボーダーが、右エッジで立って右ターンしている時に、左前にいる他人の右後ろにぶつかるのです。その時ボーダーは谷回りのカービングで高速ロングターンしており、右ターンなのにフォールラインに対し相対的に左へ左へとふくらんでいます。しかし右ターン中なので顔が腹の側、すなわち右に向いており、左は死角となってぶつかっても気づかないのです。気づかないから、行ってしまうわけです。


18 加害者のボーダーに、ぶつかった自覚がない場合なんてあるのか?

激しく人をひいて派手にはね飛ばして逃走したボーダーの後をつけ、リフト隣に座ってインタビューしたことがあります。ボードの腕がプロ並みに高い人で、落ち着いて答えてくれました。リフト上から雪が乱れた現場を指さしても、当人は全く知らないと言います。しかし部分接触でないのは明らかで、後で追突された被害者の右肩関節がボーダーの左肩に打たれて負傷していたとわかり、知らないのは相当疑わしいと感じました。しかし知っての逃走なら行方をくらます可能性が高く、同じリフトにまた乗ったのは確かに不思議です。現に山頂に着けば、見ていたリフト係が乗り場と連絡を取っていて、ボーダーを捕捉しようと何人も待ち構えていました。


19 ぶつかれば音や衝撃もあるし、被害者も転がるのに、なぜボーダーは逃走したのか?

ぶつかる相手を必ず目視するスキーに比べ、ボード事故は「遠い裏側」で起きており、自覚が不明瞭と考えられます。自動車の対人事故で「何かに当たったようだが、人だとは思わず走り続けた」ケースがあり、特にアルミコンテナ・トラックなどの側面衝突で目立ちます。当たったのが人間でないことを願う心理も、いくぶんは反映するでしょう。


20 ボードのファッションにも問題があるというのは?

ジャンプや逆エッジ対策で、ヘルメットが流行していますが、タイプによっては周囲の声や音が聞こえにくいので、追突とひき逃げの確率が高まります(先のインタビューしたボーダーは毛糸の帽子だけ)。スピーカー内蔵で音楽を聴けるヘルメットに至っては、自動車のヘッドフォン運転と同様に禁止すべきでしょう。今はまだ流行らないスキーヤーのメモリー型ステレオも、合流地点のガッチンコなど、とんでもない悲劇につながる危ういファッションです。


21 大事故の対策として、スキー場はどうすればいいのか?

道具の構造的宿命までをスキー場は解決できず、死角を目視せよと指導したとしても、できない相談です。そこでアフターに関する一例ですが、鳥取県の大山スキー場のように、リフト券に傷害保険を元からつけて、告知しておくのも手です。何事もない人が圧倒的に多いので、保険料も低いものです。自己責任などはやめて、国内スキー場の全リフト券に対人保険をつけるぐらいは、何世代か後に来るカービングスキーブームへの下準備と考えます。


22 前を行くスキーヤーが、スノーボードに追突されない防衛策はあるのか?

右後からの追突なので、時々右後を振り返ったり、右後にボーダーが来ないよう、ゲレンデの右端を滑るなども考えられます。上級ボーダーがカービング大回りしそうな、すいた整地は要注意です。また、スキーヤーにとって意外に安全なのはコブ斜面です。


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