スキー100年目の革命Q&A

70 年配者はなぜスキーが上達しないのか


1 一見当たり前に思えますが、意外な事実でもあるのですか?

当然あります。近年、退職を機にスキーを始める人が増えました。よほど間違わない限り、新設計の簡単なカービングスキーを使うことになって、以前に比べて早く腕が上がっています。ラッキーな、後発の強みというわけで。しかし中級に届くのもめっきり早くなった若者と違い、年配者の万年初級はもうひとつ根絶できていません。


2 何が原因で、年配者たちは停滞しているのですか?

「本物を目指す気持ち」、これが上達を妨げている場合がよくあります。


3 本物を目指せば、早く本物に近づけそうに思いますが?

例えば道具に負けているケースです。ある人をみると、板が硬すぎて棒立ちでダーッと斜面を流れて、スキーの運動が休んでいました。


4 板に負けるのは、年齢による衰えもありませんか?

体力の限界ではなく、ハイグレード板の硬さによる制約でした。スキーの技量で大きいのは、筋力よりもバランス感覚です。コブを降りる時はともかく、普通に中緩斜面を休み休み降りるなら、必要な動作は意外にスローです。


5 ひとまず板を買い替えたら、簡単に解決しそうですね?

それがその人は買い直しても、またハイグレード製品を注文していました。その新しい板も手ごわいから、同じ停滞が続いていたのです。


6 ハイグレード板を買うのは、それこそ体力に自信があるからですか?

おそらく、「安物買いの銭失い」を避ける心がけでしょう。優れ物を長く使うつもりで。ところが本編で説明したように、スキー板に「高額な初級用」はありません。高額は全て上級用か選手用。だからサイフの厚みにまかせて買うと、鍛えた体育会系や職業スキーヤー向けに設定された硬めの板に当たります。普通のレジャー客にとっては、直線的に走ってクルクル回れず、細かく動けず、スキーらしい運動がやりにくい板です。


7 「上級用の製品は性能が高い」という、よくある誤解ですね?

本物志向が、さっそく裏目に出ているわけです。エキスパンダーという名の筋トレグッズがありますが、シリーズ中で値段の高い製品はバネの本数が増えただけ、これと同じです。引っ張ってもびくともしない高額の方を奮発しても、宝の持ち腐れどころか効果が悪く出ます。一応バネを取り外せるエキスパンダーと違って、スキー板の内部補強材は取り外せません。「できるだけ上等な製品を買おう」は、基本を習っている段階では暗雲です。


8 ならば、買い方をどう変えれば解決しますか?

安めのスキー板を2種類買う手があります。例えば、ひとつは初級用、もうひとつは女性中級用とか。


9 スキー板を、いちいち2つ買う意味は何ですか?

スキーがうまい人には、「上達した時の板」というのがあります。板を変更して調子が急によくなって、変身してしまったターニングポイントが誰にもあって、それが思い出の板になっています。そこに着目して、最初から2セット買うことで、板の変更を倍テンポに上げて、ダブルチャンス化するわけです。


10 セレブ的な購買力が、逆に道具のトラブルになっていたわけですね?

理想の道具だけでなく、理想の滑りのフォームを目指すと、やはり似たことが起きます。


11 理想のフォームを取り入れたら、理想郷へ間違いなくたどりつけそうですが?

スキーには時代ごとに、正しいとされている姿勢があります。例えば2011年現在では、板の進行方向へ体を正対ないしは内向内傾ぎみにして、姿勢はあまり低くせず、スタンスは広げすぎずにやや狭く・・・。しかし初級の年配者が、このとおりの姿勢を徹底すると、上達が遅れます。 


12 目標を外さないように保てば、ひとまず安全圏にいられませんか?

カービングターンの練習者に、「スタンスを広げてはどうですか」とアドバイスすると、「最近は少し狭めのスタンスが正しいと聞いていますので」という返事がきたことがあります。実はこれ、正解べったりで可能性を閉ざしています。というのはスキーは途中過程が大きいからで、道中にゴタゴタがある方がかえって先が開けるのです。


13 それなら試しにスタンスを広げてみたとして、何かいいことがあるのですか?

左右の足を広げると、自分の頭の中で左右が分離します。左足と右足の脳内分離。ターン中に外足と内足にかかる荷重が、8:2になっているか、6:4なのかが、自分の中でモニタリングしやすくなるのです。狭いスタンスだと、足の左右が感覚の中で混じって不明瞭です。滑走は惰性的で、マンネリ状態。


14 足元で何が起きているかが、下を見ずにわかるようになるわけですか?

スタンスを広めにすると、左右の板の押し具合を別々に感じ取れて、加減調整や左右同調も体感しやすくなります。そこまで確立して、左右の足に神経が行き届き始めてから、ナロースタンスに進む二段階の方が、結局は近道だと指導の中でわかってきました。


15 色々試すメリットは、そういうことですか?

「正しい方法のみ取り入れ、間違った方法を排除する」という一本調子は、やがて行き詰まります。そもそも正しい滑り方は、フィジカルと道具の与条件も込みで出てくる各位の結果論だから、落としどころは千差万別です。例えば、姿勢が低い方がうまくいく人もいるわけで。個人のばらつきが前提なのだから、模範の平均だけを目指すと、自分に無理が生じている可能性もあります。


16 模範的なスタンスの方も、次々と時代変化していますが?

両足を閉じたり、広くしたり、狭くしたりと、流行が何度も入れ替わっています。実はカービングスキーが登場してから、ベテランたちはスタンスを極端に広くして、内スキーの小指側エッジを使うコツを得ました。「広すぎず、むしろ狭めに」と今唱えているベテランにも、広すぎるぐらいのワイドスタンスで慣らした時期があったのです。


17 滑り方の流行が、今後また変わる可能性も心配ですが?

流行は必ず変わりますが、それが理由で今の流行に距離を取るべし、という意味ではありません。誰も一発で正解にこぎつけはしない、そんな人は過去にもいなかったという、スキーの流転的な特性が理由です。長丁場の中で変化しながら向上した経験則を応用して、最初から変化を含めて考える手です。押してだめなら、押し続けずに引いてみる。すると、いい押し具合に収束するでしょう。


18 年配者は、賢く手堅く理想を勉強して、そこに照準を合わせすぎて低迷するのですね?

ストックを持つ手の位置も同じで、正解を調べて確実に固めようとしても、身がこわばりがちです。自分にできる手の位置を全部やってみた方が、ちょうどいいあんばいを見つけやすいでしょう。悪いあんばいの、無茶な位置も試して内部ストックしておけば、振り返ってチェックしやすいし、後で変更する材料にも使えます。


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