スキー100年目の革命Q&A

71 道具を買い間違えた悲劇、ベースギター編


1 スキー板を買い間違えてしまう失敗は、やっぱりこの分野で多いのでしょうね?

本腰を入れて高額スキー板をあえて選び、筋力とのミスマッチで撤退まっしぐらとなったケースは、これまでたびたび見ました。スキーで起きるこのあっという間の撤退で思い返すのが、楽器を買い間違った悲劇です。


2 楽器でも、入門時の選び方が悪くて撤退まで行ってしまうのですか?

学生時代に、最初のバンドを結成した時の話です。ベースギターの担当者はフォークギターがそこそこ弾けましたが、ベースギターは初心者でした。そこでいっしょに楽器店へ買いに行き、程度のよい中古の調達に成功し、しかしその時セットされていた弦が問題になったのです。


3 弦が古かったりして、張り替えないといけないわけですね?

付属していた弦に少しサビが出ていたから、後日、本人は新しい弦を買って張り替え、スタジオに持ってきました。私はそれを見せてもらって、試しに弾いてみて、しまったと思いました。


4 買い間違ったのは、その弦だったのですか?

ヘビーゲージの弦を買って、もう張ってしまっているのです。本人は、ベースは低音を受け持つから、できるだけ重低音がたくさん出る方が好ましいと考えて、ショップにあった一番太い弦を買ってきたという話でした。


5 太い弦だと、何がまずいのですか?

弦を押さえるのに、力がいるのです。太くてもセットする音程は同じだから、太いほど強く張ることになるからです。握力がないうちは素早い運指はできないし、当然手は疲れて指先はヒリヒリ痛くなります。スタジオでさっそく使い始めましたが、やはり本人はすぐに手が痛くなって、お試し練習が続きませんでした。


6 徐々に慣れてはいかないのですか?

程度の問題が限度を超えていたので、無理でした。そして張力が強いせいで、ベースギターのネックが順反りに曲がってきたのです。だんだん曲がってくるに従って、弦と指板(しばん)が離れてすき間があくから、よけいに力が必要になって。12フレット以上のハイポジションは、押さえきれないほど浮いてしまいました。


7 そんな太い弦が、なぜ売られているのですか?

同一楽器、同一アンプ、つまみ位置も完全に同じなら、大きい音が出ます。そして、体格があるベテランのために用意されているのです。そもそも鉄の弦を張るギターはアメリカ文化なので、向こうの体格に合わせてあります。例えばフォークギターのライトゲージの弦といっても、日本人にとっては軽量級ではなく、やや太めに入るぐらいです。アメリカ車のミニバンが、日本に持ってくるとミニサイズではなく、特大なのと同じ理屈で。


8 それなら細い弦に再度交換すれば、一応は解決しますね?

私は、買うべき弦はエクストラライトゲージだと説明して、買い直すよう言いました。ヘビー、ミディアム、ライト、スーパーライト、エクストラライトなどとあるから、一番細い弦のフラットワウンドを買うよう促しました。


9 フラットワウンドというのは何ですか?

ギターの低音弦やベースギターの弦はただのワイヤー線ではなく、芯のスチール線の周囲にコイル状に金属線を巻き付けた構造です。巻き付ける線の断面が丸いのがラウンドワウンドで、長方形がフラットワウンドです。ラウンドは指で押さえる表面がギザギザしていますが、フラットはなめらかだから指がこすれて痛くなるのを防げます。


10 ということは、その買ってきたヘビーゲージはもしかして?

そのとおり、ラウンドワウンドでした。というのは冗談で、当時流行していたフラットワウンドでした。今ではラウンドが主流になっていますが、ヘビーゲージとなれば初心者にラウンドは向きません。買い直して細い弦に改めても、ラウンドだと指が痛くなる問題が残ると思い、念のため注意を加えておいたわけです。


11 その後、一番細い弦に買い替えたのですか?

それができなかったのです。当時7000円もした新品の弦を外して眠らせることになるから、もったいなくて本人は決心できません。そこで、本体購入時に元から張ってあった細い弦に戻すよう助言しましたが、張り替えた時に捨てていたとのこと。もう前にも後にも動けません。勉強代と思って買い直せば済むとわかっていても、どうしても気が進まない心理の停滞に入りました。


12 結局、最後はどうなったのですか?

自分にはもう演奏は無理だと言い出してスタジオに来なくなり、習得する意欲も消えたのか、やがてベースギターを手放していました。楽器もないから、出て来るよう呼ぶこともできません。「昔バンドをやっていたよ」と、わずかなお試しを誇るだけの人になっていました。


13 楽器の弦が、人生の分岐点になってしまったわけですね?

私がそれを見越して先回りし、ベースギターの注意点を買う前から吹き込んでおけば回避できた理屈になります。しかしお互い若かったから、できなかった・・・


14 スキー板でも、楽器の弦と同じことがいえるわけですか?

スキー板にもヘビーがあればライトもあって、エクストラライトもあります。価格の高いトップモデルのスキーは、いわばヘビーゲージなわけです。日本人には押さえきれない輸入スキー板もあるという、予備知識も必要でしょう。エクストラライトから始めて、役不足になる状態まで使い慣れてからライトへ上げるなら、越えられない壁でいきなり挫折するのは防げます。二度買う前提なら長続きするという、スキー板の法則がみえてきます。


15 ヘビーなスキー板を買ってつまずいた時に、解決する道はないのですか?

金銭で解決するのが安上がりです。中途半端にミディアムあたりに買い直すミスの上塗りで、鳴かず飛ばずを続けるのに注意すれば、うまくいく公算は大。最初の失敗は、2年もたてば宴会向けの笑い話に変わるでしょう。