スキー100年目の革命Q&A

74 カービングスキーは危険な用具なのか


1 そういう意見は、今もまだありますか?

古い旧式ずんどうスキー板を、今なお使おうとする人に、声をかけてみた時のことです。「カービングスキーは危険だと言われていますから・・・」という返事が時々ありました。「事故が多いと聞いて見合わせている」という理由。隠された重大な秘密を先に知った自分は、みんなと違ってだまされないぞという自信があるようです。


2 カービングスキーは危険だという説は、真偽はどうなのですか?

今売っているスキー板に関しては、デマといえるでしょう。まず、ものの評価には前提条件が欠かせません。コーヒーは危険な飲料だと言うから何かと思ったら、幼児とカフェインの話だったりとか。こうした最初はあった条件が消えて一人歩きした噂や、特殊な例外が全般であるかに広げた言説には要注意です。


3 カービングスキーの危険性は、誰が信じているのですか?

初級スキーヤーの一部です。中級以上でカービングスキーを危険視し、今もずんどうスキーをあえて続けているケースはまれでしょう。せいぜい実験目的ぐらいで。


4  カービングスキーが危険になる条件が、何か特別にあるわけですか?

要するに、競技の話題が混線しています。時速100キロでゆるやかに回る滑降競技や、50キロでギュンギュン回る大回転競技で滑る話なのです。もしサイドカット半径12メートルのデモ用スキー板に乗っていれば、突然ガクッと不本意に急旋回する恐れがつきまい、ヒヤヒヤ状態でしょう。


5 車のハンドルのように、高速道路やバイパス道では、重く鈍くならないと困りますね?

高速時に切れすぎるハンドリングを根拠にして、デモ用スキー板は危ないからやめようと言っても無意味でしょう。ゲレンデで遊んだり練習中のレジャースキーヤーは、低速で滑るからです。時速20キロとか。


6 具体的なRの数字はどうなっていますか?

大回転スキー板のルールは、サイドカット半径の下限がしばらくはR21メートルでした。それが27メートルになって、今は35メートルと、しだいに大きくゆるやかな仕様へと変更されています。35という数字で記憶にあるのは、長野五輪の女子モーグルで優勝した板です。4年後のソルトレイクシティ五輪では、R20メートルほどにカービング化していました。35メートルは、カービングスキーと呼べないほど大きいRです。


7 大回転スキー板を、ずんどうに戻していった理由は何ですか?

板が雪に取られて間違ったエッジが利いても、瞬時に足を持って行かれなくするためです。スキー板のサイドカットとは、板が回り込む動きを発生させる仕組みです。板がスキーヤーの足を持って行き、右へ左へと蛇行させる機能。その動きがより大きく素早いカービングスキーを使うことで、スキーヤーはターンが簡単になります。勝手に回ってくれるスキー板に、乗せられていくイージー感覚で。しかし、足を持って行く動きの大きさ、素早さのせいで、スピード競技でよろけた時に足をくじきやすいとして、レース事故のデータから考察した医師の進言です。


8 だとしても、その危険性は一般スキーヤーも同じではありませんか?

危険性は、あべこべになります。レジャースキーヤーにとって最大の危険は、クイックターンをやり損ねて、うっかり直線的に走ってしまうこと。スピードを殺せず、爆走して人や物にぶつかる衝突事故が、レジャーで一番の問題なのです。ゲレンデに立つ樹木へ激突するとか。それはスピード競技の会場では起きません。


9 でもエッジの引っかけミス自体は、レーサーに限らず誰にでも起きますが?

競技とレジャーのある違いのせいで、立場が逆転するのです。その違いとは金具、ビンディングの解放値です。競技スキーは荒れたアイスバーンでも板が外れないよう、金具を非常に強く締めます。一方のレジャースキーは、比較的簡単に板が外れるセッティング。レジャーではそのせいで、エッジが変にかかって足を持って行かれた瞬間、すぐにカチャンと板が外れて分離する仕組みです。R12をR35に変えないとヤバい道理が存在しません。


10 とすると、安全に作り直した大回転スキー板の方が、一般スキーヤーには危険なのですか?

そうなります。レジャースキーでは、Rが大きすぎる板が危険です。人混みのゲレンデで速度が出すぎたり、急停止が遅れる心配があるから。レビューで「日本のゲレンデではちょっと持て余しそう」という評価の板は、中級以上向きです。初級者にはスピードが落とせず危険でしょう。スピードレースではそこが正反対。レースでは直線的に走る板を選手に使わせて、タイム短縮以外に不慮の急転回も減らすわけです。


11 15年前にカービングスキーが普及し始めた頃にも、危険視する声はあった気がしますが?

カービングスキーが売れ出した20世紀末に、確かに危険性は言われました。まず旧式スキーのベテランたちは、両足への同時荷重が怖かったのです。怖いから、危ないと言ったわけです。当時、キテレツなルックスのしゃもじスキーに対する批判もありました。見た目の違和感に、ゲテモノ扱いする声もけっこうあって、カービング批判ネタがネットで増えた頃もあります。そしてその同じ頃に、指導者と生徒がいっしょになってこの新型スキーに挑戦していました。変態スキー板の出現に一度は疑問を感じた上級者も、とっくに慣れて使いこなしているでしょう。


12 最初は板の完成度も低くて、メーカーが試行錯誤していましたね?

極端に硬くて重い板や、高下駄状のアルミプレートなど、実験アイテムが多かったのも要因。購入時に解放値を契約書類で確認するPL法は間に合ったものの、ビンディング自体のカービング対応は後回しでした。そして、それらが次々と改善する頃に、今度はカービングターンの社会問題が起きたのです。


13 カービングターンが難しかったとか、そういう問題ですか?

カービング中毒です。「できた!」とキレキレの深回りを続けるうちに酔狂状態になって、やめられなくなる恍惚の人が続出。リフト乗り場の近くに滑り降りても、カービングターンをいつまでも続けてしまう依存症です。乗り場付近で休む人にぶつかったりしました。おもしろさを通り越して、異次元体験と言われたある種のエクスタシーに、先進ユーザーたちは互いに注意を促し合うほどでした。今から目覚める中級者は、この点は注意がいります。


14 早期にカービングスキーに乗り替えた人は、だからやめずに続いているのですね?

その後のスキー指導は、カービングターンの位置づけを変えて、ずらす滑走法の基本重視に戻しています。今のスキー板のトレンドは「ロッカー」で、これは雪への食いつきを少し甘く補正して、ずらしやすさも加えたカービングスキーです。補正の方法は、板のアーチベンドを前端や後端でゆるくしてあります。今や、ずれないように作られたカービング専用板はごく限られます。カービングターンはプレミアムでなくなり、中級の基本技術に含まれることになり、もう一辺倒ではなくなりました。必須科目にした上で、出番を減らしたかたちです。


15 ところで、カービングスキーの安全注意は何かありませんか?

昔から、滑走中の事故が増える時間帯が言われてきました。カービングスキーの時代でも同じです。具体的には11時過ぎと15時半ぐらいで、その時間帯は速度を出さずに過ごすのがコツです。ゆるい斜面に移ったり、大回りをやめて小さめに回るなどで切り抜けます。ぶっ飛ばさない。


16 遠い県から来ているのに、夕方の残り時間がもったいない時もありますね?

朝から来て滑っていると、夕方早いうちに足がつることがあります。一番ゆるい斜面でカービングターンを続けると、しまいにひざから上が両足ともつって、雪に立ったまま動けなくなったりが起きます。これは連続荷重するカービングターンの副作用といえるもので、普段から運動不足の人は簡単に起きます。


17 そうなれば、あきらめて帰るしかないのですか?

しばらく休憩してから滑っても、すぐに再発するようです。昼食から時間がたって、体内の糖分を使ってすっかり減ってしまったせいです。そこで筋肉疲労の生体科学を応用するわけですが、糖分の入った飲料でもはっきりわかる程度に回復します。