スキー100年目の革命Q&A

75 かかと荷重のターンは正しいのか


1 今のスキー指導は、かかと荷重一辺倒ですね?

近ごろの公式の指導教育がどうなっているのか、現場で詳しく調べてみました。するとやはり、つま先荷重を改めたかかと荷重が教えられていて、わかりにくい説明も多かった気がしました。


2 「前へ体重をかけろ」と言われた時代と、今は何が違うのですか?

話は二段階になっています。一段階目は、スキーヤーが前へ倒れ込むような、板のトップで雪を押さえるのをやめること。板の先端が足の親指の延長であるがごとき、あの感覚は過去のものだという話。そして二段階目は、靴のつま先側に体重をかけることさえやめて、かかと側に体重をかけること。


3 ということは、後傾になるわけですか?

後傾はだめだそうです。だからこの話は難解で、荷重は後にかかっているが後傾とは違うという、やや一休さんのトンチふうです。そんな器用なことを、人間が本当にできるかどうかの問題もあります。詳しく聞き出したら、靴の範囲内にとどめながらも、前ではなく後に体重をかけるという話。違いが微妙なわけです。


4 過去の指導との整合性は、それで大丈夫なのですか?

「前傾」の反対語は「後傾」で、「つま先荷重」の反対語は「かかと荷重」でしょう。前傾をやめて、かかと荷重に変えるというのは、言葉の対の関係になっていません。また、「前荷重」「後荷重」の対の言い方もあるから、厳密性のない単語の応酬や言葉遊びに流れやすい面もあるでしょう。単語の意味やニュアンスの個人差で、イメージが混乱する恐れもあります。論理飛躍やポエムが飛び交う余地も大きい。


5 ベテランスキーヤーの、戸惑いの声も多いそうですが?

過去には、前傾、つま先荷重、前荷重は同じ目標でした。今は、後傾、かかと荷重、後荷重は区別するという、ややこしい説明になりやすいわけです。実際に教官の話には突っ込みどころが多くあって、談議してはいっしょに苦笑したものです。


6 前荷重が過去のものになったことだけは、今や確かなのですか?

実はそうではないのです。特に「前傾姿勢」という言葉はキーで、そこには形式と実質のずれがあります。昔からよく聞いた「スキーは前傾せよ」は元々指導目的のスローガンであって、戒めの言葉表現になっていました。


7 何かこう、言葉のアヤみたいな?

スキーヤーは本来、斜面に垂直に立つ必要があります。地球に垂直ではなく、斜面に垂直。斜面の傾きが10度なら、スキーヤーは重力の鉛直方向に対して10度前に倒れた姿勢が必要です。そうしないと、上体というシャフトに対して板の回転軸が10度屈曲して折れて、足で板を回すことが物理的に不都合や不可能だからです。


8 つまり地平線に対して90度ではなく、80度で立つ姿勢ですね?

その10度の倒れ込みも含めて、前傾と呼んでいました。街を歩く時には起きないこの特殊なポジションへと、生徒自らが身体を持って行く心がけとして、うんと前傾せよとオーバーに先生は言ってきたわけです。ビギナーはとかく地球に垂直に身を置き、板のトップが浮きぎみで暴走するミスが多かった実態があるからです。


9 初心者は必ずといっていいほど、鉛直に立って滑り降りようとしますね?

転落を予感した防衛本能のせいで、好きにさせると自動的に失敗する、それを未然に防止する一言として「前傾せよ」のメッセージが機能します。だから初心者に、「前傾は間違いで、中間に保つのが正解さ」と助言すると後傾になるでしょう。前傾批判を吹き込んでも、単に害になるだけでしょう。自動的に起きる異常に対して、逆異常を吹き込んで補正するカウンターとして、前傾せよの言葉がある、あったわけです。


10 ということは、かかと荷重は初心者向けではないのですか?

初心者や初級者は、やはり前傾すべきでしょう。かかと荷重が正義だとは、耳に入れない方が伸びるでしょう。つまり、前傾の是非論には対立点が存在しません。スキーヤーの前傾は正しいか否かは、無駄な議論です。どのセオリーも、10度の斜面で滑るスキーヤーは、おおむね80度程度まで体が傾くべきだからです。常に前傾します。


11 つまりかかと荷重は、上級者向けのカウンター助言だとか?

そうかも知れません。かかと荷重の指導者とて、実際には拇指球、つまり足の指で雪を押す瞬間が多いのです。よく見ると、やはりそうなっていました。街ではかかと荷重で立つからねと反論できても、街でさえ機敏に動く体勢は拇指球荷重です。瞬時に飛びのく目的で前に体重をかける空手の立ち方も、参考になるかも知れません。


12 かかと荷重の新しい効果は、何かないのですか?

ベテランスキーヤーには、カウンターのカウンターの意味で参考になると感じました。というのは、後傾グセのある人も、自然に板の前を雪に切り込む使い方に向かっていくからです。これの行き過ぎをひとつの異常とみるなら、そのまた逆異常をぶつける効能です。


13 板の前半分を雪に押しつけると、滑走が安定するのが従来の教えでしたが?

過去も、現在も、未来も、その基本は変わりません。しかし板の前部を切り込んで、それで小回りまでできてしまうのは、Rが小さいカービングスキーの恩恵もあります。Rが大きい旧式ずんどうスキーだと大きい回転力がないから、奥の手として空中に飛んで小回りしたものです。この往年のウェーデルン技術がカービングスキーでは消えていたのが、かかと荷重で戻る感覚はありました。


14 またしても、カービングスキーの性能と関連があるのですか?

カービングスキーだと板がすっぽ抜ける先走りが起きない代わりに、トップ切り込みで自動回転を待つクセがつきます。回すスキーではなく、待てば回るスキー。昨今は、多くのスキーヤーが雪面から浮く瞬間がめっきり減って、雪にへばりついた自分に気づくはずです。伸び上がらず足を引っ込める、ベンディングターンの自然発生もそう。うまいけれど眠い滑りが、蔓延したといえるかも知れません。


15 中回りする人ばかりになったと、滑りのワンパターン化が言われてきましたね?

カービングスキーは雪に板をくっつけ続けるせいで、その場でクルクル回すことも減りました。そこにかかと荷重を加えると、その場での回転が確かに平易になります。ただ、これはぜいたくな領域かも知れません。スキーが大幅に簡単になった結果、細かい話に向かっている面はあります。


16 簡単とはいえ、かかと荷重が案外やりにくいのはなぜですか?

本当にかかとだけに乗ると、スキー板の挙動が不安定だからです。そしてスキー靴は街で歩く靴とは違って、ひざを前へ出す構造につくられているから、かかと荷重はやりにくいはず。カービングスキーが普及すると、靴は前傾が深めにつくられていました。その靴でひざを前に出して押すと、より深い前傾が柔らかめにできる設計で。その設計角度を変えれば、荷重ポイントも変わるでしょう。


17 考えてみれば、靴はしっかりと前荷重向けに作られていますね?

スキーは道具のスポーツなので、道具の構造に逆らう努力を指して、克服と呼ぶのは不合理です。完全なるかかと荷重を全うするには、靴の交換もあり得るでしょう。極論すれば、映画『女王陛下の007』の時代に一般的だった、1960年代の浅い登山靴タイプのスキー靴に替えたら、正真正銘のかかと荷重は楽だと思われます。


18 板の発展の方は、もう小休止しているのですか?

荷重ポイントの試行錯誤は、実は板でも行われています。トップの切れを減らしたロッカースキー以前に、もう10年以上もビンディングの取り付け位置が、昔の位置より前方にあります。今も後ぎみの位置のメーカーと、かなり前位置のメーカーがあります。ビンディングが前なほど、かかと位置が板の中央に近づくので、かかと荷重向けでしょう。かかと荷重だと後にもたれる後傾の瞬間も自ずと増えるので、長めのテールはつじつまが合います。


19 何となくですが、トレーニング課題を人為的につくってはいませんか?

それもあると思います。少なくともドイツ語圏に、かかと荷重の流行はないようです。日本のゲレンデの輪で指導法も考案されていて、小ワザに立ち寄れる皆の余裕が背景なのでしょう。日本ゲレンデ史で、今ほどスキー技術力の全国平均が高い時代はなかったわけです。だから、未来にスキーブームが起きて若いビギナーがさらに増えると、指導教育はまた入れ替わると予想できます。日本では過去にも、旧カリキュラムの一新というか全否定が繰り返されてきました。


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