「俳句読本」に掲載した俳句集[春の部]
立春から立夏まで
二月の俳句
季題・二月 汚れゐる本のカバーも二月かな 桂 信子
歳時記の二月は薄し野に出づる 佐伯 哲草
母思ふ二月の空に頬杖し 長谷川 かな女
大病のあとの風邪ひく二月かな 五十嵐 播水
影にさへつまづく齢二月憂し 那須 乙郎
・二月尽 肩の荷を下ろす捺印二月尽 小田 ひろ
・春立つ、立春 オリオンの真下春立つ雪の宿 前田 普羅
立春や雪の深さよ手鞠唄 石橋 秀野
春立つや一便殖えし島渡舟 徳永 玄子
立春の雪白無垢の藁屋かな 川端 茅舎
立春の峡に雪崩のしきりなり 阿木 三四郎
・春動く 打ちおろす一鍬ごとに春うごく 安田 誠一
・春 人妻に春の喇叭が遠く鳴る 中村 苑子
脈さぐる遠くに春の鼓動あり 坪井 耿青
・春節(中国の正月、日本の旧正月にあたる)
人垣に春節の龍起ち上がる 小路 紫峡
・旧正月 隣より旧正月の餅くれぬ 石橋 秀野
旧正や豚の頭の並ぶ市 たなか 迪子
・寒明(立春で寒が明ける) 寒明けぬ何かたのしく襷かけ 竹末 春野人
われら一夜大いに飲めば寒明けぬ 石田 波郷
寒明けの波止場に磨く旅の靴 沢木 欣一
いくたびか喪服着し寒明けにけり 宮下 翠舟
・早春 早春賦とは風の音水の音 田上 頼子
早春の父の全身畑に見ゆ 広瀬 直人
雪山に春のはじめの滝こだま 大野 林火
早春へオカリナもいいシャンソンも 永井 千恵子
・春浅し 春浅し相見て癒えし同病者 石田 波郷
春浅し死に行く人を笑はせて 一条 友子
眺めるや野水の行方春浅し 松本 たかし
浅き春空のみどりもやゝうすく 高濱 虚子
・春寒 点滴に託す余命や春寒し 本田 洋子
春寒し涙も拭う割烹着 文挾 夫佐恵
春寒や転勤知らす留守電話 松尾 千代子
春寒や心に詫びて塚の前 永田 青嵐
・春遅し 病む母の軽き寝息や春遅々と 石川 栄枝
・春めく 天狼の青き光も春めけり 二口 毅
・雨水 旅に出て少しはなやぎ雨水かな 石井 英子
雨水てふ水つぽき雪降りにけり 山崎 房子
・春一番 呼ぶ声も吹き散る島の春一番 中村 苑子
春一や列島藻塩まぶれとす 阿波野 青畝
・冴返る 点滴の一滴ごとに冴返る 加藤 晃規
誰が撞ける「平和の鐘」ぞ冴え返る 貞弘 衛
冴返りつゝ雨降る日風吹く日 星野 立子
逢ふときは大方喪服冴返る 河野 美保子
法話聞く伽藍の広さ冴返る 伊藤 奎子
・余寒 店しめて余寒の軒の灯が並ぶ 佐藤 紅緑
生牡蠣の咽喉もとすべる余寒かな 鈴木 真砂女
・二十六聖人祭 二十六聖人祭の侍者幼な 小田部 胤明
・致命祭 凍雲に神の意こもる致命祭 下村 ひろし
暮れてなほ空透きとほる致命祭 下村 ひろし
天の声地の声和しぬ致命祭 木下 慈子
・さっぽろ雪まつり 雪祭荒縄巻けるハイヒール 高田 まさみ
・初午(はつうま、二月最初の午の日の縁日)
狐面つけて面売る午まつり 松沢 佐多子
・春祭り 乙女みな絣似合ひて春祭り 古賀 まり子
・針供養 子を生むときめしやすらぎ針供養 本間 有紀子
古妻や針の供養の子沢山 飯田 蛇笏
亡き母の尺古し針供養 松根 東洋城
どこへでもつき添ふ母や針納 鈴木 花蓑
・バレンタインデー 老教師菓子受くバレンタインデー 村尾 香苗
手話の娘の買ふバレンタインのチョコレート 今井 桂子
思ひきり朱着てバレンタインの日 岩佐 こん
バレンタインの日は老人でありにけり 多田 薙石
バレンタインデー心に鍵の穴ひとつ 上田 日差子
バレンタインデー愛のかけらを貰ひけり 安居 正浩
・かまくら かまくらのまろきひかりの絵ろうそく 田代 靖
かまくらを母がのぞきて夕餉かな 安藤 五百枝
かまくらの灯の輪街角曲がるたび 三好 潤子
かまくらにありても母の膝が好き 桑田 青虎
・麦踏 ひとたびは捨てたる故郷麦を踏む 田畑 豊涼
麦踏の胎児に双手置き憩ふ 増田 河郎子
・春の風邪 春の風邪逢へば治ってしまふのに 葉苅 淳子
デートには行く気でをりぬ春の風邪 三村 純也
会合の不義理を二つ春の風邪 岩永 千恵子
・氷像 氷像の竜は夜空に昇り立つ 菊田 琴秋
・雪間(ゆきま、山や野原の雪が溶けだして地面が見えてくる隙間)
四五枚の田の展けたる雪間かな 高野 素十
・凍解け(いてどけ) 凍解や子の手をひいて父やさし 富安 風生
・薄氷 薄氷そつくり持つて行く子かな 千葉 皓史
薄氷をときどき越ゆる鴨の波 井桁 汀風子
・雪解 雪解の雫が無数ピアノ初歩 堀内 薫
ひさびさに嫁来るはなし雪解川 米澤 勝廣
海ばかり光りて貧し雪解村 長沼 三津夫
・雪崩(なだれ) 聴診器はづし果して遠雪崩 村田 眉丈
・残雪 残雪やつぶての如く鳥の影 相馬 遷子
・海苔 六代目の話など海苔あぶりつつ 室積 徂春
海苔育つ雲仙噴煙真向かひに 石田 慶子
・鹿尾菜(ひじき) 韓国の遙かに見えて鹿尾菜干す 福地 貞子
・松露(しょうろ) ほつほつと松葉わけては松露掻く 辻 桃子
・若布刈舟(めかりぶね) 風を読み雲を読みして若布刈舟 佐野 志摩人
櫓を揚げて鳴門落ちゆく若布刈舟 山口 誓子
蛸提げて襤褸の如くに若布負ひ 福田 蓼汀
・猫の妻、恋猫 包帯の出来ぬ所や猫の妻 伊東 伸介
恋猫の恋する猫で押し通す 永田 耕衣
老残の恋猫として啼けるかな 安住 敦
恋猫の丹下左膳よ哭く勿れ 阿波野 青畝
恋猫の帰り来たるや隙間風 後月 美華
恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく 加藤 楸邨
濡れて来し雨をふるふや猫の妻 炭 太祇
・公魚(わかさぎ・ワカサギ科の海産魚、各所の湖に移植されて いるので淡水魚と思われているが本来は海産魚である)
公魚の穴釣り富士に皆背き 和田 暖泡
公魚のフライからりと光る海 松本 光司
わかさぎの腹子にこもる藻の匂 相澤 尚子
公魚のみたびは跳ねず凍てにけり 原 麻子
・針魚(さより) 透く紙に包む針魚に一夜干し 松原 みつこ
・白魚汁 白魚汁灯ともるいまを辞しがたく 野沢 節子
・白魚・素魚(しろうお、体長5センチぐらいのスズキ目ハゼ科の海水魚)
水に透け日に透け白魚遡りゆく 藤崎 美枝子
白魚に影ありて影泳ぐなり 岡部 六弥太
・白魚(しらうお、体長10センチぐらいのサケ目シラウオ科の海水魚)
白魚汲乙女の白き膝の皿 中村 草田男
風そよぐごと白魚が水の中 山崎 みのる
・蛤(はまぐり)
からからと蛤量る音すなり 岡本 松浜
・浅蜊(あさり)
ちゆと啼くやほかの浅蜊もちうちうと 山口 珊瑚
・蜆 手に満つる蜆うれしや友を呼ぶ 正岡 子規
水垂るる籠ごと蜆買ひにけり 前田 野生子
勤め今日限り蜆の汁熱し 柴田 弘城
蜆飯且つうまかりし湖の宿 中山 寿朗
・桜貝(ニッコウガイ科の二枚貝、北海道以南に分布し、体長3センチ ほどで殻は薄く表裏とも桜色で美しい) 眼にあてて海が透くなり桜貝 松本 たかし
・飯蛸(いいだこ) 飯蛸や飯のところを二つ切 野村 喜舟
・初音・鶯 うぐいすや母は亡くとも母の家 安住 敦
鶯や障子にうつる水の紋(あや) 永井 荷風
鶯や満中陰の窓開く 泉並 末香
鶯の声あとさきに山登る 小堀 作蔵
母の髪梳きたがる子にうぐいす来 岩上 明美
鶯のとびうつりゆく枝のなり 横光 利一
ちちははのごと山二つ初音かな 小原 啄葉
・目白 山の畑独りで守りて目白飼ふ 高橋 利雄
口笛に答へ目白の高音来る 満口 玲子
見えかくれ居て花こぼす目白かな 富安 風生
・白鳥 白鳥の顔を埋めて巣に籠る 高野 素十
・まんさく(金縷梅、万作) 空澄みてまんさく咲くや雪の上 相馬 遷子
・いぬふぐり いぬふぐり星のまたたく如くなり 高浜 虚子
納骨の膝つけば瑠璃いぬふぐり さぶり 靖子
・君子蘭(くんしらん)
君子蘭咲く老医師の診療所 淡海 みゆき
・猫柳(ヤナギ科の落葉低木、庭木にもする) 故里は母在りてこそ猫柳 長谷川 満子
猫柳高嶺は雪をあらたにす 山口 誓子
耳掻をつかう恍惚猫やなぎ 稲垣 きくの
・梅 しあわせな墓よ梅咲く下に古り 桜木 俊晃
白梅や情なし女と云われをり 佐伯 泰子
逢へるはずなき梅林の影をふむ 中村 久美子
勇気こそ地の塩なれや梅真白 中村 草田男
母百歳叔母百四歳梅真白 栗山 よし子
・紅梅 紅梅や熱はしずかに身にまとふ 中村 汀女
紅梅や肩に凭(もた)れ寝旅の妻 野見山 朱鳥
紅梅の燃えたつてをり風の中 松本 たかし
紅梅を人の香よぎる日射かな 岡本 眸
母好みし紅梅昏れて忌日暮る 大野 林火
・盆梅 盆梅の開ききつたる通夜の家 本間 ミツエ
・梅見 市場籠さげて梅見の傍通る 中山 ふさ子
逢へばすぐ食べて梅見の女房たち 伊藤 富久子
健やかに老いてひとりの梅見酒 高橋 あさ子
・春菊 夕支度春菊摘んで胡麻すって 草間 時彦
・蕗の薹(ふきのとう)
蕗の薹ふみてゆききや善き隣 杉田 久女
水浴びる小鳥日浴びる蕗の薹 室積 徂春
流浪めく日々蕗味噌は母の味 町田 しげき
こだわりの銘酒一本蕗の薹 米澤 久子
蕗味噌のほかなにもなし友と酌む 宮田 潮児
蕗の薹峯には雪のまだ高し 梅 暁女
・椿 下駄箱の一輪挿しの椿かな 野村 喜舟
余生なほ凛と生きたし寒椿 山下 康博
犇きて椿が椿落としけり 岡本 眸
土となる向きそれぞれに落椿 岡部 蕉露
・薔薇の芽 妻のみが働く如し薔薇芽立つ 石田 波郷
・雪柳 雪柳母に孤独の刻多し 田中 灯京
・デージー(雛菊) 踏みてすぐデージーの花起き上がる 高浜 虚子
雛菊や亡き子に母乳滴りて 柴崎 左田男
・ヒヤシンス 水にじむごとく夜が来てヒヤシンス 岡本 眸
・フリージア 熱高く睡るフリージアの香の中に 古賀 まり子
・ミモザ ミモザ咲きとりたる歳のかぶさり来 飯島 晴子
・クロッカス 日が射してもうクロッカス咲く時分 高野 素十
・まんさく まんさくや春の寒さの別れ際 籾山 梓月
・慈姑 ほろ苦き母の味なり慈姑煮る 水間 ふじ子
・京菜 西に生まれ東へ嫁ぎ京菜かな 池尾 望念
・下萌
下萌や君病む大事ふと忘る 殿村 莵絲子
下萌に若き禰宜たつ地鎮祭 稲川 はつお
三月の俳句
・春 春の温泉(ゆ)に浮雲あそぶ脱衣籠 庄司 圭吾
先ゆくも帰るも我も春の人 加舎 白雄
・春めく 春めきてものの果てなる空の色 飯田 蛇笏
・三月 三月やモナリザを売る石畳 秋元 不死男
三月の風は移り気花売女 草間 時彦
三月に入る小鳥らもすばやくて 相馬 遷子
鳶遠く三月空のくもりかな 佐藤 紅緑
三月に入る小鳥らもすばやくて 相馬 遷子
三月や清水寺の滝もうで 伊藤 信徳
・啓蟄(けいちつ) 啓蟄や時には妻のもの思い 永作 火童
啓蟄の蚯蚓つかみて鵙早し 三枝 路弥
啓蟄や日はふりそゝぐ矢の如く 高濱 虚子
啓蟄の大地土龍の道動く 福田 蓼汀
啓蟄のいとし児ひとりよちよちと 飯田 蛇笏
啓蟄を咥へて雀飛びにけり 川端 茅舎
啓蟄や旅初めての赤ん坊 栗林 千津
・春分 春分の村をどこまでゆく老婆 北 光星
春分のおどけ雀と目覚めけり 星野 麦丘人
・暖か 暖かや飴の中から桃太郎 川端 茅舎
・麗らか うらゝかやベンチの端に忘れ杖 山下 康博
うららかや命名式はラッコの子 虎尾 房
・日永 草取りは今日はここまで日永かな 平井 千代美
・春の空 春空に身一つ容るるだけの塔 中村 草田男
・春の雲 田に人のゐるやすらぎに春の雲 宇佐見 魚目
・春の月 春の月土竜(もぐら)の穴も隆起せり 下見 伯水
・朧月 人の名を思ひ出せずに月おぼろ 武井 秀恵
・朧 引いてやる子の手のぬくき朧かな 中村 汀女
ガス燈の旧街道は春おぼろ 松延 汀子
・春の風 済ませたる税申告や春の風 岡部 蕉露
泣いてゆく向ふに母や春の風 中村 汀女
古稀といふ春風にをる齢かな 富安 風生
・春一番 坂道を春一番に吹かれ行く 塚原 游子
春一番山を過ぎゆく山の音 藤原 滋章
春一番二番ふところ火の車 小出 秋光
・東風(こち・春になり東方より吹いてくる柔らかい風)
われもまた人にすなほに東風の街 中村 汀女
盗まれし如く雪消ゆ夜の東風 加藤 野理子
東風吹くや耳現はるゝうない髪 杉田 久女
東風吹けよ恋が音してくるように 河野 多希女
・春嵐 春嵐コートの裾に子を入れて さいとう 万ゆみ
・春塵 春塵をやり過ごしたる眉目かな 高濱 虚子
・春時雨 春しぐれ戦友会に遺児ひとり 松崎 豊
・春雷 春雷を背に疾走す野生馬 須藤 徹
・雪崩 遠雪崩炉火赫々と身を寄せる 吉田 北舟子
・残雪 雪残る頂一つ国境 正岡 子規
・春の雪 脳死といふ別れのありぬ春の雪 石原 翠
一しきり蟹とるゝ海や春の雪 河東 碧梧桐
東山晴れて又降る春の雪 竹原 はん女
・雪解川(春になり山の雪が解けて川に流れ込み水量が増えて来た川をいう)
雪解川名山けづる響かな 前田 普羅
・青鞜 天平の仏にまみえ青き踏む 石原 八束
春雷を背に疾走す野生馬 須藤 徹
・流氷 白炎をひいて流氷帰りけり 石原 八束
・山笑う ゴンドラのゴトンと着きて山笑ふ 塚原 游子
一族の真ん中に母山笑う 伊関 葉子
・春の野 春の野や何に日と行き人帰る 正岡 子規
・春の水 腰太く腕太く春の水を飲む 桂 信子
春の水わが歩みよりややはやし 谷野 予志
・春の川 京染めの色の流るゝ春の川 川本 みさほ
布さらす春の川みえ離宮みえ 久保田 万太郎
・春時雨 母の忌やその日のごとく春時雨 富安 風生
・春雨 春雨の中や雪おく甲斐の山 芥川 龍之介
職退いて朝寝の夫や春の雨 国武 和子
春雨の糸の操る男女かな 京極 杞陽
傘ささぬまだ人通り春の雨 長谷川 かな女
・霞(かすみ) 見かへれば小舟に君は霞みけり 羅 蘇山人
・陽炎 原爆地子がかげろふに消えゆけり 石原 八束
・黄砂降る 戦死者の名のみ残りて黄砂降る 岡部 田鶴子
霾や母国語少しづつ忘れ 鈴木 きぬ絵
・上巳(じょうし) 目覚めけり上巳の餅を搗く音に 相生 垣瓜人
・桃の日 桃の日のひとり長湯をたのしめり 中山 純子
・雛市 旗鳴って雛市立てり畦のくま 石川 桂郎
雛市の灯り雨の日本橋 谷川 虚泉
・雛 往診のそのまゝ雛の客となり 大槻 右城
雛のため灯る明治のシャンデリア 黒田 桜の園
雛の日や遅く暮れたる山の鐘 飯田 蛇笏
雛の日に仏妻にも桃の花 森 澄雄
子等去りて妻を祝ひし雛祭 小川 一歩
・雛納 嫁ぐ子の刻かけて雛納めけり 手島 靖一
・鶏合(とりあわせ、闘鶏のこと、昔、宮中で三月三日に行われていた)
勝鶏のもて囃さるも哀れなる 小山 青嵐
・野遊び 子の母のわが妻の声野に遊ぶ 原 裕
・磯遊び 磯遊びをこぜに刺され喚く子よ 桑原 志朗
・摘草 帰るぞと摘草籠を高く掲げ 柴田 冬野
・耕(たがやし) 耕牛の谷を隔てゝ高く居る 高浜 虚子
・苗木市 苗木市安物ばかり売れ残り 石塚 友二
・水草生う 水草生ふ驚くばかり月日過ぐ 星野 立子
・水温む(みずぬるむ)
これよりは恋や事業や水温む 高浜 虚子
農事メモ送る有線水温む 小野 智恵
水温む靴脱ぎ捨てて遊びけり 庄司 愉子
・雁風呂 雁風呂や海荒るゝ日は焚かぬなり 高浜 虚子
・蜆汁(しじみじる)
帰国子に先ずたっぷりと蜆汁 蒲沢 康利
・白酒 白酒や夜は夜で老の雛の客 山川 能舞
白酒に沈みてしんとめしの粒 辻 桃子
たまさかの父加はりて雛の酒 玉木 克子
・田楽 歓楽のかくも田楽食べし串 皆吉 爽雨
・嫁菜飯 炊きあげてうすきみどりや嫁菜飯 杉田 久女
故里の野の香炊き上げ嫁菜飯 山田 弘子
・桜餅 後編と思ふ人生さくら餅 大川 俊江
・目刺 身にいりし話に目刺こがしけり 岩崎 俊子
餘生なほ働かされて目刺焼く 下村 非文
・春場所 春場所や水の浪速に触れ太鼓 酒井 武
・春日祭 懐かしき山をかさねて春日祭 田口 冬生
・風船 税申告終へて風船もらひけり 下山 宏子
・燕来る 煮豆屋も墓地も町内燕来る 岡本 眸
無医村に今日医者が来る燕くる 白岩 絹子
来る燕妻の機嫌のよき日なり 有山 城麓
・国際婦人デー
肩パッド高きスーツや婦人デー 佐久間 二洋
・涅槃像(ねはんぞう)
涅槃像米寿の父の面影に 矢野 洵
・彼岸 うつくしき尼にまみえし彼岸かな 阿部 みどり女
夫逝きて彼岸親しくなりにけり 坪内 れんげ
誘いあひ彼岸詣での老姉妹 星野 立子
うとうとと彼岸の法話ありがたや 河野 静雲
不揃いの牡丹餅とどくお中日 片山 富美子
月日過ぎただ何となく彼岸過ぎ 富安 風生
彼岸会のひと日仏陀の弟子となる 長谷部 昭子
・大石忌(3月20日、京都祇園の一力亭で行う大石良雄の法要)
いつしかに老妓といはれ大石忌 佐々木 紅春
・春灯 抱き起こす母の重さよ春灯下 塚原 游子
・試験 受験生来てさまよへり遊園地 相馬 遷子
母と娘の強き抱擁合格す 谷本 淳子
合格を告げて一人になりにゆく 田中 清之
・落第 泣いてすむ子の落第や母やさし 松尾 いはほ
・卒業 一を知って二を知らぬなり卒業す 高浜 虚子
母を軽く叩く卒業証書の棒 吉田 幸子
乱世へと屈託もなく卒業す 塚原 游子
業卒へて看護婦となる愛しさよ 山口 誓子
靴買うて卒業の子の靴磨く 杉田 久女
卒業す片恋少女鮮烈に 加藤 楸邨
・春炬燵 春炬燵またはじめから桃太郎 吉田 花宰相
・鳥帰る 鳥帰る終の看取りとなりし日に 佐々木 経子
・帰る雁 美しき帰雁の空も束の間に 星野 立子
・帰る鴨 引き鴨と覚しく島をめぐり飛ぶ 椋 砂東
・白鳥帰る 白鳥は帰り津軽の海黒し 二唐 空々
いつまでも見えて白鳥帰りけり 土屋 秀穂
・春炬燵(はるごたつ) 老いらくの恋の映画や春炬燵 塚原 游子
・伊勢参り 子の運転素直に受けて伊勢参り 大井 千代子
・遍路(四国の弘法大師の霊場八十八か所を巡り祈願すること、 また、その人をいう) 先頭の遍路が海の入日見る 桂 信子
百畳に善男善女遍路宿 武内 婦美子
お遍路が一列に行く虹の中 渥美 清
・桜餅 後編と思ふ人生さくら餅 大川 俊江
・春の鳥 わが墓を止り木とせよ春の鳥 中村 苑子
・雉子 田を拓くひねもす雉子に鳴かれけり 松村 蒼石
・雲雀(ひばり) オートバイ荒野の雲雀弾き出す 上田 五千石
・若鮎 若鮎のおどろき割れし群れ二つ 細身 しゆこう
・春鮒 春鮒のゆらりくらりと釣れあがる 佐藤 信
・桜鯛 お七夜へ一本釣りの桜鯛 向井 久子
・鰆(さわら、スズキ目の全長1mに達する海魚)
渦潮の鰆とる舟かしぎ舞ふ 山口 草堂
・目張 めばる煮てこころをわかつ皿二つ 古館 曹人
・白子 浜日和とは風少し白子干す 山田 千恵女
食欲のなき夜ひと盛白子干 田口 一穂
・飯蛸 飯蛸や二人の暮し余り飯 横山 芦石
・蝶 蝶ひらひら天下の春をほしいまま 角田 竹冷
・蛙> みどり児と蛙鳴く田を夕眺め 中村 汀女
・田螺(たにし)
田螺鳴く夜を試験に落ちし子と 太田 嗟
・栄螺(さざえ)
逢ふひとに待たされてゐて栄螺食ふ 角川 春樹
・常節 常節やみなとに古りし小料理屋 鈴木 穀雨
・春泥 春泥に填(はま)りたるらし夫の靴 松延 汀子
・桃の花 夢たくす子は一姫や桃の花 増田 百合子
・春菊 春菊の香と炒り胡麻の香の夕餉 我部山 幸代
・椿 房州より椿も届き御命日 三谷 貞雄
・玉椿 ふるさとは墓のみとなる玉椿 武田 忠男
・落椿 未練とは色鮮やかに落椿 森田 栄子
土となる向きそれぞれに落椿 岡部 蕉露
・馬酔木(あしび)の花 馬酔木咲く春日祭のまだ寒し 辻 桃子
・沈丁花 沈丁にすこし明けおく夜の障子 有働 享
・桑の芽 桑の芽は太り田畑に人も殖え 斎藤 俳小星
・早蕨(さわらび)
早蕨は愛(かな)しむゆゑに手折らざる 富安 風生
・犬ふぐり 犬ふぐり昔の恋を問はれけり 谷口 摩耶
・菫(すみれ) 菫程小さき人に生まれたし 夏目 漱石
窯跡は土に還りてすみれ咲く 立石 和子
・紫雲英(げんげ、れんげ草とも) 睡る子の手より紫雲英の束離す 橋本 美代子
野道ゆけばげんげんの束すてゝある 正岡 子規
げんげ田にひつくりかえり遊ぶ子よ 原田 浜人
・すかんぽ すかんぽや人が通れば泣きやむ子 青子 稲女
・はこべ カナリアの餌に束ねたるはこべかな 正岡 子規
・春草 春草を踏みゆきつつや未来あり 星野 立子
・若紫 恋草の若むらさきも萌えにけり 星野 麦人
・蓬(よもぎ)
蓬摘む野山のいのちざるに盛り 下見 伯水
一つだけ買ふ道草の蓬餅 水田 むつみ
・蕨(わらび) 佐渡見ゆる能登の山路や蕨狩 田中 田吉
・母子草 菩提寺へ母の手を引き母子草 富安 風生
・父子草 父子草父の寡黙をわれも享く 椎木 万紀子
・ミモザ 野外劇はじまるミモザ降る下に 星野 立子
・初桜 ようやくに試歩の外出や初桜 塚原 游子
名勝にして閑かなり初桜 本橋 康子
・桜 生涯を恋にかけたる桜かな 鈴木 真砂女
・壬生菜 京訛ちょいちょい出して壬生菜好き 吉岡 ひとし
・木瓜(ぼけ)の花 木瓜白し老い母老いし父を守り 有働 亭
・独活 独活きざむ白指もまた香を放ち 木内 彰志
・水雲(もずく) 日本海とどろく卓のもずく味噌 下田 稔
四月の俳句
・四月 メモしつゝ早や四月よとひとりごと 星野 立子
一枚の転居通知の来て四月 大橋 麻沙子
四月始まる豁然と田がひらけ 相馬 遷子
・春暁(春の夜明け) 春暁の目覚め安けし母の家 望月 田鶴子
・春の夜 救急車春夜睡れぬ者のこす 目迫 秩父
・麗らか うららかや一本指のピアノ音 足立 悦子
・永き日 永き日の餓ゑさへも生いくさすな 中村 草田男
永き日やみな憂ひもつ患者の目 古賀 まり子
寺二つ訪うて日永の京にあり 山田 桂梧
春惜しむ最終便の巷の灯 塚原 路子
春惜しむ亡き父母の部屋そのままに 山根 きぬえ
人も旅人我も旅人春惜しむ 山口 青邨
・花冷 花冷や念の為とは内視鏡 田畑 祐一郎
花冷はかこちながらも憎からず 富安 風生
・春深む 旅したき心に春は深みゆく 岡部 田鶴子
春深き月光触るる椅子にあり 中島 斌雄
一つ家に二つの余生春深し 立石 ただし
・八十八夜 きらきらと八十八夜の雨墓に 石田 波郷
音立てて八十八夜の山の水 桂 信子
・行く春 眼帯のはずれぬまゝに春逝けり 塚原 游子
旅せんと思ひし春もくれにけり 高濱 虚子
・春惜しむ 惜春のベンチや我に広々と 岡部 蕉露
人も旅人われも旅人春惜しむ 山口 青邨
・夏隣 地搗歌終へしさざめき夏隣 小島 一覚
・春の日 病者の手窓より出でて春日受く 西東 三鬼
・春光 春光のてつぺんにあり観覧車 佐野 すすむ
・春空 高山の春空高く山車揃ふ 森田 忠秋
・風光る マナー良き金髪左官風光る 塚原 路子
・霾(つちふる) エレベーターつちふる街を垂直に 玉城 一香
・別れ霜 晩学のすぐもの忘れ別れ霜 池山 浩山人
・花曇 ゆで卵むけばかがやく花曇 中村 汀女
見知り顔名前浮かばず花曇り 伊藤 徹
・春の海 春の海竜のおとし子拾ひけり 幸田 露伴
夫還る舟を待ちをり春の海 藤田 直子
・十三詣 十三詣の子の振袖も花の風 平松 泉
ふり向いてならぬ橋あり智恵詣 北川 せいち
・四月馬鹿 四月馬鹿病めど喰はねど痩せられず 加藤 知世子
エイプリルフールに非ず入院す 荒川 あつし
子に願ふ文武両道四月馬鹿 寺岡 捷子
嘘一つつけて夫ゐて四月馬鹿 東川 弘子
・メーデー 巨き船造られありて労働祭 山口 誓子
ねむき子を背負ひメーデーの後尾ゆく 佐藤 鬼房
・春の連休 子に病まれ春の連休らちもなし 今村 幸子
・どんたく 旅の歩をどんたくしゃぎりに切替へる 橋本 多佳子
どんたくのひょつとこ面が話掛く 的野 冷壺人
・憲法記念日 ワイマルを忘れず憲法記念の日 米村 合歓花
手毬咲きぬ山村憲法記念の日 水原 秋櫻子
・ゴールデンウィーク 妻ふくれふくれゴールデンウィークの過ぎ 草間 時彦
・入学 黒板にまず名前書く新教師 高野 清美
入学の子の顔頓に大人びし 高浜 虚子
入社式紺一色に犇めけり 相馬 沙緻
・遠足 遠足児途中にて樹にぶらさがる 新田 一望
遠足の女教師の手に触れたがる 山口 誓子
遠足の子としばらくは歩を合はせ 菖蒲 あや
・花衣 花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ 杉田 久女
・桜餅 少女等はからだで笑ふ桜餅 篠塚 しげる
病人にいふ気やすめの桜もち 稲垣 きくの
・花菜漬 花菜漬夫の知らざる石重し 殿村 莵絲子
顧みて子なきもよしや花菜漬 新上 一我
・木の芽和 アパートがつひの棲家か木の芽和 鈴木 真砂女
・鮒膾 船人の近江言葉よ鮒膾 高濱 虚子
父亡くて父居るごとし鮒膾 増田 斗志
・目刺 縁談の途切れたる子に目刺焼く 堤 高嶺
・初花 初花を見つゝ来にけり豆腐売り 松瀬 青々
・桜 夜桜に寄せオートバイまた熱し 奥坂 まや
一天を占めて富士あり朝桜 保坂 伸秋
・山桜 花の中太き一樹は山ざくら 桂 信子
・花 我が病行方も知れず花の舞 塚原 游子
皇子越えへし吉野の山は花の道 小野 慶秋
花下の母「さくらさくら」をみどりごに 林 翔
看護婦の手が出て花の窓を拭く 畠山 譲二
夜桜や介護の人の少し酔ひ たか おさむ
花の宴果ててなほ飲む未練酒 野崎 昭子
島に島かさねて瀬戸の花曇 柳田 芳子
・花吹雪 看取らるゝせつなさ思ふ花吹雪 田中 美智代
命得て立つ爆心の花吹雪 築城 百々平
今頃は桜吹雪の夫の墓 飯島 晴子
・花見 手術待つ寡黙の夫の花見かな 塚原 路子
憂きことに耐へて花見の紅を刷く 鈴木 千恵子
病窓のひとりひとりの花見かな 木本 光晴
・花筏 絵巻物さながら長き花筏 吉原 一曉
・花疲れ 灯の下に尼も有情や花疲れ 植田 浜子
花疲れ眠る子抱いて眠りけり 高橋 うめ子
・種卸 田が暮れてまだ声のこる種卸 秋山 幹生
・茶摘み 茶摘み手間借り田植手間返しけり 山中 一土子
富士晴れて裾野茶摘みの一斉に 今枝 貞代
・一番茶 一番茶終り日焼けの女衆 沢木 欣一
・磯遊び 磯遊びして他の一家我一家 上野 泰
磯遊びする子が走り波走る 上野 泰
・潮干狩り 潮干狩り夫人はだしになり給ふ 日野 草城
話しゐし間もひろごりし汐干潟 有働 木母寺
山の児の遠足いつも汐干狩 山田 四十一
・観潮(渦潮を見物すること) 観光船呑まんと潮が渦を巻く 永尾 喜美江
・鞦韆(しゅうせん・ぶらんこ)
鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし 三橋 鷹女
・花御堂 尼寺の畳の上の花御堂 松本 たかし
・花祭り 象の鼻少し不出来や花祭り 相原 雨稲
花まつり母と相合傘さして 成瀬 桜桃子
甘茶仏幾世経にけむ減り給うふ 山口 青邨
・朝寝 充電をすると言ふ子の大朝寝 塩川 祐子
・春眠 春眠をむさぼりて悔なかりけり 久保田 万太郎
・春愁 春愁の昨日死にたく今日生きたく 加藤 三七子
人のそしり知っての春の愁ひかな 鈴木 真砂女
春愁や草を歩けば草青く 青木 月斗
・春淋し 春淋し波にとどかぬ石を投げ 鈴木 真砂女
・花会式 花会式村びとすこしつどいたる 水原 秋桜子
・桜祭り 桜祭りの賑はひよそに昼寝かな 稲葉 百年
・凧(たこ) 去るわれに長崎人の凧を揚ぐ 上村 占魚
切れ凧に親も交じりて駆け下りぬ 塚原 游子
木の下に幕や打ちけり凧の陣 田中 田士英
・春の高山祭 からくりの翁の手振り春祭り 石 寒太
・落花 遠くより湧きたち来る落花かな 野村 泊月
散る桜空には夜の雲愁ふ 石田 波郷
散り急ぐ花にこころのあるごとく 岡部 蕉露
・名残花 陵(みささぎ)に名残の花の降りてゐし 小野 慶秋
・柳絮(りゅうじょ) 柳絮飛び別れ来し人思ひけり 韓 瑞穂
大空にあらはれ来る柳絮かな 高浜 虚子
・法然忌
こえごえに御詠歌和讃法然忌 加藤 晃規
尼の地位今なほ低し法然忌 穂北 燦々
・落し角
山裾や草の中なる落し角 高浜 虚子
・雀の子 雀子や走りなれたる鬼瓦 内藤 鳴雪
小雀の無心に遊ぶ爆心地 高橋 克郎
・蛙 昼蛙どの畦のどこ曲ろうか 石川 桂郎
遠蛙起きて書き足す追悼記 坊野 早苗
分校に居残り教師夕蛙 島田 みつ子
・囀り 囀りや産湯の中の手足伸ぶ 佐藤 悦子
囀の脚見えている梢かな 秋山 夢
・桜鯛 魚信より船酔い早し桜鯛 細谷 定行
一品はうしほに仕立てさくら鯛 坊城 としあつ
・鰊 鰊群来叫びし父の夢に覚む 加藤 未英
・いかなご いかなごにまず箸おろし母恋し 高濱 虚子
・目張 旬といふ目張を煮詰め子に喰ます 野島 重美
・蛍烏賊 網引くや闇に瑠璃なす蛍烏賊 池田 笑子
甘く煮て仏の母へほたる烏賊 金子 三樹
・睦五郎(むつごろう)
睦五郎睦十郎も泥試合 阿波野 青畝
・桜貝 ひく波の跡美しや桜貝 松本 たかし
・蛤 蛤の一椀結婚記念日に 藤井 智子
蛤の汁懐かしや母の味 近藤 直美
・鮑 海底も上天気よと鮑海女 山中 一土子
・栄螺(さざえ) おみやげに買ひて小粒の栄螺かな 水本 汀
・潮招 汐まねき呪文の踊りくりひろげ 野見山 朱鳥
・海胆(うに) 重そうに下げた網より海胆の棘 塚原 游子
・蝶 方丈の大庇より春の蝶 高野 素十
・桃の花 牡蠣のひびへりつつ浦は桃咲けり 宮下 翠舟
・梨の花 現れし砂丘や梨の花の上 田村 一三男
・杏の花 一村は杏の花に眠るなり 星野 立子
・菜の花 菜の花の沖は紺碧日本海 塚田 恵美子
筑後川ゆるき流れと菜の花と 平井 千代美
夢に来し母を追ひゆく花菜径 河本 好恵
味噌汁に菜の花浮かぶ島の宿 松本 公夫
・花大根 大原や日和定まる花大根 飯田 蛇笏
・躑躅(つつじ) 躑躅わけ親仔の馬が牧に来る 水原 秋櫻子
山つゝじ照る只中に田を墾く 飯田 龍太<br> ・石楠花(しゃくなげ) 石楠花の向ふ屋久鹿貌のぞく 岡田 日郎
・たらの芽 タラの芽やほろりろ苦い恋の味 後月 美華
・菫 をとめの日すでに遠しや菫摘む 高木 石子
・土筆 まま事の飯もおさいも土筆かな 星野 立子
・霞草 乳母車通ればそよぐ霞艸 石原 八束
・明日葉 明日葉のみどりにに元気貰ふ旅 大田 光子
・山葵(わさび) 雪もなし臀向けあひて山葵堀 石田 波郷
・春の草 逆立の子にかぐわしき春の草 引地 春美
・桑 岐れ道いくつもありて桑の道 高浜 虚子
朝早しみな桑負うて行会へる 及川 仙石
・杉の花 花粉症昨日の脳が錆びるなり 鈴木 八駛郎
・柳 原爆ドーム柳の岸へ影倒る 中西 舗土
風の渦もつれもせずに糸柳 川野 秋恵
・春の暮 日曜もなき商売や春の暮 鈴木 真砂女
・山吹 濃山吹墨をすりつゝ流し目に 松本 たかし
童女とて愁ひ顔よき濃山吹 倉橋 羊村
蕎麦すする夕山吹のなつかしき 渡辺 水巴
・春落葉 園の茶屋訪へば休日春落葉 岡部 田鶴子
・こでまりの花 こでまりに嫁ぐ日の娘のまだ素顔 片山 亀夫
・パンジー パンジーの畑蝶を呼び人を呼ぶ 松本 たかし
・チューリップ それぞれにうかぶ宙ありチューリップ 皆吉 爽雨
乾杯のごと触れあへりチューリップ 清水 忠彦
・アネモネ アネモネや男美容師指名して 川口 未来
・シクラメン シクラメン虚飾の言葉風に乗る 鷲谷 七菜子
・ライラック 騎士の鞭ふれてこぼるゝライラック スコット 沼蘋女
・菜の花 菜の花に高き舞台や壬生踊 坂本 四方太
・ゆすらうめ 一人居の時の長さよゆすら梅 細見 綾子
・二人静 夫の忌や二人静は摘までおく 大山 綱女
・勿忘草(わすれなぐさ)
勿忘草夫に贈りし日は遠く 堀内 民子
・薊(あざみ) あざみ濃し芭蕉もゆきしこの道を 星野 立子
夢なりし城も薊も野となりぬ 阿波野 青畝
・藤 藤房のまだ稚くて団子茶屋 西山 葉子
藤垂れて病室まぎれなく匂ふ 飯田 龍太
・松露 小風呂敷粋にかぶりて松露掘る 大橋 桜坡子
・鹿尾菜(ひじき) 母よりも薄き味付けひじき煮る 富松 ひふみ
「俳句読本」に登場した「俳諧師達」と「発句集」その一「元禄期まで」
「俳句読本」に登場した「俳諧師達」と「発句集」その二「元禄期以降」