「俳句読本」に掲載した俳句集[夏の部]
立夏から立秋まで
五月の俳句 季題・五月       朱欒咲く五月となれば日の光        杉田 久女
      童顔の警官五月の街に立つ         谷 和子
      巫女の緋の吹かれ吹かれて宮五月       岡部 田鶴子
      朝刊とパンとコーヒー風五月        浅野 右橘
      飛燕鳴き山村五月事多し          水原 秋桜子
      子の髪の風に流るる五月来ぬ        大野 林火
      藍々と五月の穂高雲を出づ         飯田 蛇笏
      虚と実の中にまことや聖五月        松本 夜詩夫
  ・初夏       思ひ切りルージュ色変へ初夏迎ふ      東雲 泰子
      初夏が好き森羅万象我とあり         塚原 游子
      申分なき日和得て初夏の旅         高浜 年尾
      鳥の声流して初夏の給油店         村田 軍司
  ・夏来たる       路地に子がにはかに増えて夏は来ぬ     菖蒲 あや
      プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ     石田 波郷
      田水よく流れて村に夏が来し        松本 巨草
・八十八夜       逢ひにゆく八十八夜の雨の坂        藤田 湘子
  ・薄暑       皆が見る私の和服パリ薄暑          星野 立子
      旅行生電車にあふれ街薄暑         塚原 游子
      あぶらとり一枚もらう薄暑かな       日野 草城
      触太鼓薄暑の川を渡りけり         兼藤 光
  ・麦の秋       フランスに来てフランスは麦の秋      多田 裕計
      往診といふ道があり麦の秋         川上 季石
会ふや又別れて遠し麦の秋         成田 千空
      獣医来て馬と話すや麦の秋         吉田 悦花
  ・小満       小満や根づきし色の大棚田         古市 枯声
  ・母の日       母の日や遍路の旅の母の文         塚原 まさし
      カーネーション少年患者に若き母      村山 古郷
      母の日も子の残したるもの食べて      福永 鳴風
      母の日や母恋ふことに終りなし       山崎 泰代
  ・愛鳥週間       愛鳥週間おんな同士のよく喋り       成瀬 桜桃子
      庭先に図鑑持ち出す愛鳥日         松沢 佐多子
  ・初幟(はつのぼり)       五女ありて後の男や初幟          正岡 子規
  ・端午(たんご)       兄と読む一つ絵本や端午の日         高田 風人子
      二人子を預けて病める端午かな       石田 波郷
  ・鯉幟       鯉幟風に折れ又風に伸び          山口 誓子
  ・粽結う(ちまきゆう)       粽結う母に被爆の家のこり         中尾 杏子
  ・柏餅       転校の子に友出来て柏餅          長崎 小夜子
      柏餅さげて子供を見せにくる        三木 智子
  ・更衣(昔は陰暦四月一日に衣服や調度品を夏用に改めた)       卒寿にもいささかの夢更衣         保津 操
  ・筍飯       筍飯無事退院の夫に炊く           蕪木 啓子
  ・豆の飯       姑白寿我金婚の豆の飯            田中 美智代
      母の忌に身内ばかりの豆の飯        木田 真佐恵
      初七日はうちわばかりの豆御飯       横井 迦南
      戦争を知らぬ子ばかり豆の飯        木田 千女
  ・茶摘み       向きあうて茶を摘む音をたつるのみ     皆吉 爽雨
  ・新茶       新茶汲む母の齢をはるか越え        中村 苑子
      新茶買ふ発車のベルの響くなか       武田 香
      夕映えて海女とらへけり新茶売り      石田 波郷
      新茶汲みたやすく母を喜ばす        殿村 莵絲子
  ・古茶       女夫仲いつしか淡し古茶いるゝ       松本 たかし
  ・葛餅       宵は灯の美しきとき葛桜          森 澄雄
  ・五月病       隣まできれいに掃いて五月病        辻 桃子
  ・田掻く       田掻馬あがるや仔馬かけよりぬ       木村 蕉城
  ・苗売り       苗売りの荷をのぞき見の歩を合せ      下田 実花
  ・菜殻火(ながらび)       菜殻火の刻々消ゆる高嶺かな         野見山 朱鳥
  ・夏場所       川風に幟はためき五月場所         小宮 典
      夏場所のはねの太鼓に端居かな       富安 風生
  ・草笛       草笛で呼べり草笛にて答ふ         辻田 克已
      草笛を吹くとき父に似し顔に        田辺 虹志
・麦笛       麥笛や四十の恋の合圖吹く          高浜 虚子
      麦笛の吹けばよく鳴るさびしさよ      中村 汀女
  ・草矢       大空に草矢飛ばして恋もなし        高浜 虚子
・祭       戻り住む親子に神田祭来る         池上 不二子
      加茂祭馬上の姫の幼くて          萬田 孝子
大団扇三社祭を煽ぎたつ           長谷川 かな女
      祭笛吹くとき男佳かりける         橋本 多佳子
      赤き緒の藁沓なりし葵稚児         横山 嘉子
      左右より化粧直され祭稚児         森田 峠
      飾られてからは打たれず祭牛        有山 八州彦
      神田川祭の中をながれけり         久保田 万太郎
  ・薪能(たきぎのう)       薪能めらめら古き闇燃ゆる         大串 章
  ・袋角       見おぼえのある顔をして袋角        後藤 夜半
  ・山女       奥阿蘇に山女田楽よき地酒          虎尾 房
      昼の星見ゆ幽谷に山女釣          松浦 真青
      熊出れば出た時の事山女釣る        原田 柿青
  ・目高       目高飼ふベッドの母の目の高さ       南 恵子
  ・鱚(きす)       船酔はかなし鱚よく釣れながら       小汐 大里
      船頭の小言多くて鱚釣れず         田島 秩父
  ・鯵       子の釣りし小鯵囲めり一家族        阪田 昭風
  ・鯖       皆食うて一人が鯖に中りたる        三林 純也
      しめ鯖の骨ぬいてをり雨催ひ        中野 陽子
  ・虎魚(おこぜ)       貌に似ぬ珍味おこぜの薄づくり       古賀 幹人
  ・飛魚       飛魚の群れの光りて線となり        下見 伯水
      飛魚とぶや日本海の紺を抜け        大橋 敦子
      飛ぶ夢をみたし飛魚食べにけり       杉浦 範昌
      飛魚の波高ければ高く飛ぶ         関 圭草
  ・初鰹(かつお)       絶つほどの酒にはあらず初鰹         鷹羽 狩行
      鰹釣る胴の間に飯噴きこぼれ        樟 豊
      初鰹兄弟揃ふ日なりけり          高田 賢舟
      天寿なほ伸びよと母へ初鰹         新井 吉枝
      江戸っ子の中の神田や初松魚        島田 五空
  ・烏賊       啄木の泣きたる濱に烏賊を干す       広中 白骨
  ・鮑       太陽へ海女の太腕鮑さげ          西東 三鬼
  ・海酸漿(うみほおずき)
      ぶいぶいと海酸漿や得意顔          塚原 游子
      海ほほづき鳴らして旅を恋ひにけり     加藤 三七子
  ・鷺       白鷺の風を抱えて降りにけり        西山 睦<br>   ・仏法僧       樹々眠り仏法僧は地霊呼ぶ          野村 洛美
  ・時鳥、郭公(ほととぎす)       父征きし日も逝きし日も時鳥        宮崎 弥生
      郭公一声夏をさだめけり          大島 蓼太
  ・水鶏(くいな)       水鶏なく日曜夫を母へ帰す          磯辺 洋子
  ・燕の子       燕の子宙六尺を泳ぎつく          相馬 遷子
・螢       その人に從ひゆきて螢の夜         下田 實花
亡き夫と積もる話を螢の夜         名取 桂子
      ハンケチに洩れる蛍火贈らるる       高木 松栄
      迷い子の泣き泣きつかむ蛍かな       堀 麦水
  ・金亀子       死んだ振り長く続かず金亀子        大野 伊都子
  ・菖蒲(しょうぶ)       菖蒲浮く昔ながらの楽屋風呂        市川 団右衛門
      菖蒲湯を出てかんばしき女かな       日野 草城
  ・あやめ       かくれ喪にあやめは花を落しけり      鈴木 真砂女<br>   ・余花       余花に逢ふ再び逢ひし人のごと        高浜 虚子
      一本の余花の明りや雑木山         井上 三良
  ・花卯木       顔入れて馬も涼しや花卯木         前田 普羅
      音もなく母寝て卯の花月夜かな       古賀 まりこ
  ・葉桜       老が老看取る日重ね花は葉に         岡部 蕉露
      葉桜の中の無数の空さわぐ         篠原 梵
      葉桜や門に出を待つ鼓笛隊         野村 貞子
  ・桜の実       桜の実垂れて暮れざり母の町        大野 林火
      良き事のありて買い足すさくらんぼ     平野 千江
  ・牡丹       白牡丹といふといへども紅ほのか      高濱 虚子
      夜の色に沈みゆくなり大牡丹        高野 素十
      見る人の手を拱くや牡丹畑         宗屋
  ・薔薇       母に添う歩幅小さく薔薇の園        加藤 晃規
      バラ持ちて老いらくの恋夢みたり      高原 寂水
      バラの香か今行き過ぎし人の香か      星野 立子
      薔薇の花買って看取りの糧とする      藤田 靜子
  ・石楠花       石楠花を咲かせ定年きらきらす       中山 和子
  ・蜜柑の花       うたたねをわが許されて蜜柑咲く      中村 汀女
  ・踊子草       踊子草木漏れ日を得て踊りけり       西本 一都
  ・花いばら       花いばらどこの巷も夕茜           石橋 秀野
  ・水木の花       花水木流行らぬと云へ名医なり       若山 実
・罌粟(けし)       罌粟ひらく髪の先まで寂しきとき      橋本 多佳子
  ・ライラック       どの家もライラック咲く大路かな      広瀬 一朗
  ・アカシア       アカシアの香のわが街を覆ひたる      納谷 浩一
  ・海芋(かいう、カラー)       看る母の手のみが応ふ花海芋        山口 卓也
  ・麦の波       教会の尖塔見へて麦の波           塚原 游子
      麦焼の阿修羅の如き火をくぐり       山口 青邨
  ・麦刈       麦刈て近江はいよよ水の国         湯浅 みちえ<br>   ・麦打       いたはりて病後の妻と麥を打つ       清田 松琴
  ・麦藁(むぎわら)       麦藁の上に憩ひて故郷かな          池内 たかし
  ・若葉       若葉宿老後の話題はてしなく         足立 悦子
      傘に透けて擦りゆく雨の若葉かな      杉田 久女
      あきらかに雀吹かるゝ若葉かな       原 石鼎
      木の精がゐそうな樟の若葉かな       塚原 游子
      町いまがいちばんきれい若葉風       黒川 悦子
      リハビリといふ門出あり柿若葉       森 裕子
  ・新緑       新緑にひたる贅沢職を辞す         林 良子
  ・若楓(かえで)       子を生みに子が来てゐるや若楓       安住 敦
      弟子達が弓の稽古や若楓          中村 吉右衛門
      身のうちのストレス抜ける若楓       塙 きく
  ・新樹       我が恋は失せぬ新樹の夜の雨        石塚 友二
      大いなる新樹のどこか騒ぎをり       高浜 虚子
  ・樟落葉       奥宮は不開の扉樟落葉             岡部 蕉露
  ・万緑       万緑の中や吾子の歯生えそむる       中村 草田男
  ・金銀花       森に摘む薬酒づくりの金銀花        冨山 青沂
  ・苺       悪女かも知れず苺の紅つぶす        三好 潤子
  ・グレープフルーツ       グレープフルーツ初恋の味滴れり      本多 千代子
  ・空豆       そら豆や四十は未だ指やさし        坂間 晴子
  ・筍(たけのこ)       時かけて初筍のひとり酒           石田 波郷
      筍を煮しめて妻の二日旅          加藤 武夫
      筍の光放つてむかれたり          渡辺 水巴
      物いわず筍をむく背おそろし        西東 三鬼
  ・新馬鈴薯       新じゃがをほかほかと食ひ今日を謝す    大野 林火
  ・ひなげし(虞美人草、ポピー、コクリコ)       虞美人草只いちにんを愛し抜く       伊丹 三樹彦
  ・八重葎       八重葎児童疎開の寺朽ちて         塩田 藪柑子
  ・一人静       一人静殖えてしづかに咲き揃う       山田 みづえ
六月の俳句
季題・六月       六月を奇麗な風の吹くことよ        正岡 子規
  ・梅雨入り       兄弟の墓に梅雨入りの山河あり       長谷川 かな女
    梅雨に入るいく日も雨降りし後       山口 波津女
      二夜三夜傘さげ会へば梅雨めきぬ      石田 波郷
  ・芒種       朝粥や芒種の雨がみずうみに        秋山 幹生
  ・夏至       禁煙す夏至の夕べのなど長き        臼田 亜浪
      夏至の雨山ほととぎす聴き暮らし      田村 木国
  ・白夜       火を焚くや白夜の森のバラライカ      有馬 朗人
      蹄よくひゞく白夜の石畳          平松 三平
  ・短夜       短夜やうそと知りつゝ聞く話        川口 松太郎
      短夜や術後の痛み生を知る         塚原 游子
      短夜の看取り給ふも縁かな         石橋 秀野
短夜の予約録画の動き出す         山本 美紗
      明易きひかりを玻璃に手術了ふ       下村 ひろし
  ・梅雨入り       梅雨に入る身のあちこちに貼り薬      砂糖美代女
  ・梅雨の月       通夜の客少し途切れて梅雨の月       塚原 路子
      重そうな梅雨満月と歩みをり        川島 白園
  ・夏嵐       夏嵐机上の白紙飛び尽す          正岡 子規
  ・青嵐      青嵐カーテン我に絡み付く         塚原 游子
      長雨の空吹出せ青嵐            山口 素堂
  ・薫風       薫風や肩でかじ取る一輪車         村井 桂子
  ・梅雨       底知れぬ淋しさにあり梅雨の獄       死刑囚某
      梅雨ふかし戦没の子や恋もせで       及川 貞
      梅雨の家子連狼来て荒す          安住 敦
      あひふれしさみだれ傘の重かりし      中村 汀女
      空梅雨の畑仕事に疲れけり         竹花 ヨシエ
  ・出水       皆案じくれし出水禍越えて来し       谷口 まち子
  ・水喧嘩       水喧嘩恋のもつれも加はりて        相島 虚吼
  ・梅雨晴間       梅雨晴間とるに程よく草のびて       遠藤 はつ
      退院も一つの別れ梅雨晴間         須藤 かね子
  ・雨乞       雨乞ひの空の広さをもて余す        黒川 花鳩
  ・雹(ひょう)、氷雨
      取りあへず苗一籠や雹見舞         俳 小 星
  ・夏山       夏山に呼び合へり若き父と子と       石橋 辰之助
造船の鉄の音飛ぶ青嶺かな         谷角 美砂
  ・雪渓       雪渓を青き点々登り行く          塚原 游子
  ・父の日      父の日の若き遺影を父と呼ぶ        山田 孝子
      父の日や父は戦に征つたきり        高柳 淳
      父の日や父よりうけし後生楽        行方 克巳
  ・沖縄忌       野に流る校歌しずかに沖縄忌        山田 静水
      遺骨なき兄は何処に沖縄忌         知念 弘子
      慰霊の日生き残り来て孫を抱く       仲曽根 潔子
      こめかみに残る怒りや沖縄忌        稲瀬 奈加枝
  ・袷(あわせ)       良妻と人には言はれ古袷           三溝 沙美
  ・更衣       恋心押さへ押さへて更衣           吉田 遊人
      かなしみをもたぬ人なし更衣        山口 波津女
      看護婦にころがされつゝ更衣        小山 耕一路
      更衣定年といふ始発駅           鶴岡 しげを
  ・夏衣       入れかへて箪笥ゆるやか夏衣        小原 壽女
  ・写真の日       花時計入れて撮りあふ写真の日       山口 恵子
  ・祭       利家も利長も来る祭かな          南 秋草子
      札幌の祭アカシア並木の灯         益田 青嵐
  ・乾草      乾草の匂いに染みて母若し         金子 兜太
  ・蚊帳(かや)       蚊帳の中に親いまは亡し月あがる      村上 鬼城
  ・香水       白衣とて胸に少しの香水を         坊城 中子
  ・田植歌       田植歌山を越ゆればまたたがふ       縄田屋 花文
  ・田植機       田植機の腕一斉に植ゑ始む         岩田 美蜻
      明日植ゑる田へ田植機を預けおく      松倉 ゆづる
  ・田植       みちのくの田植は寒し旅衣         山口 青邨
      裏富士を写す田植の濁り水         沢木 欣一
      鳥海の雪映る田を植えのこす        水原 秋櫻子
早乙女のみな教え子でありにけり      赤堀 五百里
      田を植うるきのふの葬のはや遠く      小笠原 紀子
      田植縄妻が手を挙ぐ向ふ畦         小池 奇杖
      投げ苗のつぎつぎつくる水輪かな      毛笠 清風
  ・早苗       一日の晴が早苗を立ち上がす        津田 清子
  ・植田       ふるさとは植ゑしばかりの田の色に     山田 弘子
      伊勢神楽植田へ朝の笛流す         三島 玉枝
  ・早苗饗(さなぶり)       さなぶりや祖霊をやどす酒器の艶      佐川 広治
      早苗饗や朝から沸かす薬風呂        森脇 恵香
・籐椅子
      籐椅子にならびて掛けて恋ならず      富安 風生
      籐椅子を立ちて来し用忘れけり       安住 敦
  ・葭簀茶屋(よしずちゃや)       家稀に葭簀繕ふ茶屋主           高浜 虚子
  ・夜焚舟       島の灯のいよいよ遠き世焚舟        藤井 昌治
  ・焼酎       焼酎のただただ憎し父酔へば        菖蒲 あや
  ・麦湯(麦茶)       語り合ふ病歴ながし麦湯濃し        目迫 秩父
  ・伽羅蕗       伽羅蕗を煮返す妻や今日も雨        増田 龍雨
  ・袋掛       湯の客の労ひゆける袋掛          岩島 妙子
  ・草矢       ふりむかぬ少女に草矢飛ばしけり      三浦 青芝子
      戻らぬ日戻らぬ人へ草矢打つ        杉江 みずき
・ほととぎす、谺(こだま)       谺して山ほととぎすほしいまゝ        杉田 久女
  ・老鶯(ろうおう、春過ぎて鳴くうぐいす)
      老鶯や日光は町中も杉            菅 裸馬
      老鶯や臥して童女の心なる         乾 燕子
乱鶯のこゑ谷に満つ天の日も        飯田 蛇笏
  ・時鳥       父征きし日も逝きし日も時鳥        宮崎 弥生
  ・螢       ゆるやかに着てひとと逢ふ螢の夜      桂 信子
  ・螢火       死刑囚の掌に蛍火のいのち燃ゆ       死刑囚某
  ・鵜       疲れ鵜の互に嘴をかみ合はす        伊藤 敬子
      火の波に透きて潜れる荒鵜かな       野見山 朱鳥
      疲れ鵜の鵜匠の簑を噛みてをり       尾池 和夫
  ・河鹿       暁の河鹿また佳し旅枕           井桁 蒼水
      通夜更けて河鹿のことを誰か言う      味元 昭次
・雨蛙       枝蛙病臥の妻に灯をともし         鈴木 五鈴
  ・鮎       幾く年もこの場所一人鮎を釣る       寒川 逸司
      ふるさとはよし夕月と鮎の香と       桂 信子
鮎釣りの人声近く露天風呂         伊阪 美弥子
      朝の鮎釣るにも乙女帽深く         宮川 和巳
      父跳びし順に岩跳ぶ鮎の川         山口 いさを
      酒旗高し高野の麓鮎の里          高浜 虚子
      セーラー服帳場にかかり鮎の宿       井本 農一
  ・岩魚(いわな)       石狩の岩魚を炙る石積めり         長谷川 かな女
      越えて来し山語りつつ岩魚酒        渡辺 勝
      化粧塩焦がして岩魚の串ならぶ       広田 喜美子
  ・飛魚       飛魚や船が逆立つうねり波         大谷 秋葉子
  ・石鯛       石鯛の縦縞沖の波の縞           阿部 月山子
  ・黒鯛(ちぬ)       ちぬ釣りやまくらがりなる頬被       吉岡 禅寺洞
      ちぬ釣りの月光竿をつたひくる       米澤 吾亦紅
  ・穴子       待ちし甲斐ありし茶店の穴子飯       稲畑 汀子
      穴子裂く大吟醸は冷やしあり        長谷川 櫂
  ・鱧       鱧食べて我も浪速の祭人          矢津 羨魚
  ・烏賊       人泊めて烏賊切る音も夕厨         山本 くに子
  ・鮑       海鳴りの夜をこきこきと鮑食ふ       中島 正夫
  ・優曇華(うどんげ)       優曇華やしづかなる世は復と来まじ     中村 草田男
  ・蟻(あり)       蟻が曳く蝶の折々翅を立て         死刑囚某
      死ぬはいや蟻がむらがる蝶を見て      死刑囚某
      戦争の人馬征くごと蟻の列         保阪 加津夫
  ・守宮(やもり)       独り居の灯に下りてくる守宮かな      篠原 鳳作
  ・蛇       ぶらさげて青大将の長さ見す        成瀬 正とし
  ・蜥蜴(とかげ)       歯朶にゐて太古顔なる蜥蜴かな       野村 喜舟
  ・蜘蛛       蜘蛛多芸なり逆上り尻上り         大橋 敦子
  ・蝿虎(はえとりぐも)       蠅とれぬ蠅虎と時過ぎぬ          加藤 楸邨
  ・蜻蛉生まる       蜻蛉生れ阿蘇千枚田水鏡          小浜 光吉
  ・燕の子、夏燕       旅日記つばめの子だけ画いて寝る      下坂 淑峰
      トーストで済ます朝食夏つばめ       羽吹 利夫
  ・鹿の子(かのこ)       廻廊を鹿の子が駆くる伽藍かな       山口 誓子
  ・万緑       万緑やマリアのごとく子を抱き       日比野 睦子
・青葉       ドアに我青葉と映り廻りけり        篠原 梵
  ・緑蔭       放課後や一緑蔭に一楽器          杉村 踏青
      緑蔭の車椅子みな眠り椅子         山口 速
      緑陰や矢を獲ては鳴る白き的        竹下 しづの女
  ・夏木立       夏木立故郷近くなりにけり         正岡 子規
  ・木下闇(こしたやみ・夏に木々が茂り木陰が薄暗くなっていることをいう)       送られて別れてひとり木下闇        正岡 子規
      木下闇野仏空を恋ふ瞳して         篠原 みち
  ・夏草        夏草や兵舎の跡は空堀に          大宮 良夫
      夏草や墓は母国の文字を彫る        野見山 朱鳥
  ・竹伐る       竹伐やいかづち雲の嶺に生る        岸 風三郎
  ・青梅       青梅や樹上から呼ぶ友の顔         大井 雅人
      二の腕をあらわに巫女の実梅椀ぐ      森脇 宮美江
      逆はず黙して梅の実をかぞふ        及川 貞
青梅や餓鬼大将が肌ぬいて         小林 一茶
  ・ゆすら梅       嫁ぎてもあまへに来る娘ゆすら梅      松尾 いはお
  ・楊梅(やまもも)       農繁期楊梅に子らのよじのぼる       阿波野 青畝
  ・苺       忍び来て摘むは誰が子ぞ紅苺        杉田 久女
  ・桜桃       恋文の起承転転さくらんぼ         池田 澄子
      娘には甘き父なりさくらんぼ        成宮 紫水
  ・杏       杏落つ喪のかさなりし妻の肩        細川 加賀
  ・花菖蒲       花菖蒲一群づつに色変る          横田 和子
      舟で来る菖蒲祭の禰宜と巫女        井原 久子
  ・杜若、燕子花(かきつばた)       杜若語るも旅のひとつかな         松尾 芭蕉
  ・水芭蕉       彼方より水芭蕉より呼ぶ声す        不破 博
      花と影ひとつに霧の水芭蕉         水原 秋櫻子
      渡り歩く歩板のきしみ水芭蕉        竹節 春枝
  ・枇杷(びわ)       磯の香に峙(そばだ)つ山も枇杷のころ    水原 秋櫻子
      癒えて旅せんとよ枇杷をすする兄      鈴木 公二
  ・蕗(ふき)       蕗を剥く勝手見えゐし宿親し        斎藤 朗笛
  ・花柘榴(はなざくろ)       五月雨にぬれてやあかき花柘榴       志太 野坡
  ・蜜柑の花       全山に蜜柑花つけ通過駅          齋藤 おさむ
      花みかん匂ふ各駅停車かな         宇山 久志
  ・朱欒の花       花朱欒こぼれ咲く戸にすむ楽し       杉田 久女
  ・茄子の花       亡き人のものの減りゆく茄子の花      片山 由美子
  ・茉莉花(まつりか)       濃く淡く茉莉花咲いて寡婦となる      小串 歌江
  ・さつき       満開のさつき水面に照るごとし       杉田 久女
  ・鴨足草(ゆきのした)       悪筆をこの頃恥じず鴨足草         草間 時彦
      晩年の計もいまだや鴨足草         塩谷 はつ枝
  ・捩れ花       くらす会にマドンナ二人捩れ花       北尾 彰郎
  ・どくだみ(十薬、どくだみの異名)       十薬や傷吸ひ呉れし母のこと        梅木 たろう
      どくだみや真昼の闇に白十字        川端 茅舎
  ・サルビア       サルビアを咲かせ老後の無計画       菖蒲 あや
  ・鈴蘭       すゞらんに憩ひ雄阿寒まのあたり      高浜 年尾
  ・青芝       青芝に吾子の小さきかげ走る        稲畑 汀子
  ・黒百合       黒百合を悲恋の花として摘まず       阿部 慧月
  ・ひまわり       ひまわりに反戦絵本読みきかかす      高橋 直子
  ・合歓の花       ひめゆりの塔に葉を閉じ合歓の花      塚越 志津枝
      昨夜の雨上がりし合歓の花明り       坂井 貴子
  ・紫蘇       青紫蘇を四五枚摘みて夕支度        鈴木 はじめ
      おくれて死ぬつもりの妻と紫蘇をもむ    神宮司 茶人
     七月の俳句
季題・七月       七月の青嶺まぢかく溶鉱炉         山口 誓子
  ・半夏生       生涯を素顔で通し半夏生          出口 善子
  ・白夜        尖塔が目印となる白夜かな         前田 野生子
・土用       すっぽんの身は養はん土用かな       松根 東洋城
  ・暑さ       かたまりて大阪弁の暑さかな        須佐 薫子
  ・酷暑       百歳の不定愁訴の酷暑かな         田中 美智代
  ・灼く       灼くる碑や「水々」と乞ひし水手向く    中島 斌雄
  ・夏空       夏空へ雲の落書き奔放に          富安 風生
  ・雲の峰   勝利への一投一打雲の峰          塚原 游子
      夫の骨軽し行く手の雲の峰         鵜飼 直子
      離陸機の翼下湧き立つ雲の峰        塙 きく
      一病を得て息災や雲の峰          角川 春樹
  ・梅雨の月       あやとりの橋かけなほす梅雨の月      遠藤 タミ子
      故郷に住みて無名や梅雨の月        相馬 遷子
  ・夏の月       なほ北に行く汽車とまり夏の月       中村 汀女
夏の月だけが覗くや野天風呂        崎田 美智子
  ・夕凪       夕凪や船客すべて甲板に          五十嵐 播水
  ・夕立       夕立もやみたる頃の迎へ傘         高橋 淡路女
      夕立のやんで始まる佐渡おけさ       島屋野 久子
  ・虹       我母へかけ橋となる虹消えて        死刑囚某
      虹消えて医師と患者に戻りけり       阿部 タミ子
  ・雷       遠雷や冗舌の子の今寝息          塚原 游子
次の雷来る身構へとなってゐし       橋川 かず子
      決断を促すごとく日雷           ましお 湖
  ・御来迎       ご来迎雲押し上げて湧き出る        鶴見 加奈
  ・夕焼け       我子恋えば獄の夕焼け美しく        死刑囚某
      預かりし子は泣くばかり大夕焼       石井 直子
  ・日盛り       日盛の畳つめたき永平寺          小野 慶秋
  ・炎天       炎天の空美しや高野山           高浜 虚子
  ・赤富士       赤富士に真向かひ刻を惜しみけり      酒井 みゆき
・夏野       駆ける子の両手は翼大夏野         新渡辺 流木
  ・青田風       青田風生まれ来る児の産着縫う       広瀬 ヒデ子
      虹の中人歩きくる青田かな         松本 たかし
  ・噴水       噴水の千変万化音までも          塚原 游子
・泉、掬(すく)う       富士映る泉のありて皆掬ふ         久保 草風
  ・滝       滝の上に水現れて落ちにけり        後藤 夜半
  ・夏休み       ふるさとの無い夏休み静かなり       亀山 幽石
      夏休み冗舌の孫はや来る          塚原 游子
      給食の大鍋干され夏休み          松田 桐花
      黒板にわが文字のこす夏休み        福永 耕二
      こんなにも近所に子供夏休         対馬 迪女
・帰省(夏休みに学生や社会人が故郷へ帰ることをいう)
      帰省して母亡き家の広さかな        斎藤 君子
      帰省子にまず山川のにほひけり       田口 冬生
  ・キャンプ       火を使ふことを習ひてキャンプの子     大橋 敦子
  ・森林浴       沢音の絶えぬ森林浴の径          山田 節子
  ・暑気中り       言へば悔言はずとも悔い暑気中り      勝田 享子
      休診もならず医師の暑気中り        本多 美勝
  ・水虫       水虫の異人に草履よろこばれ        阪東 春歩
  ・海の日   島を去る海の日の海荒れてをり       黒田 萓子
      海の日や赤紙に兄攫われし         大野 今朝子
  ・原爆忌
「水を水を」声なほ耳に原爆忌       宮田 えき女
      浦上忌一家爆死の小さき墓碑        宮田 えき女
      消えぬ怒り消えぬケロイド原爆忌      下村 ひろし
      原爆忌命日同じ墓ばかり          齋藤 朗笛
      白髪の世話人多し原爆忌          波出石品女
      うら若き兄の写真や原爆忌         山本 暁鐘
      鎌置きて畦に祈れり原爆忌         草野 宮子
      ふんだんに水出る蛇口原爆忌        小川 裕子
      原爆忌いのち素直に髪洗ふ         中尾 杏子
      原爆忌生きて自愛の卵割る         中村 孝一
  ・巴里祭       巴里祭モデルと画家の夫婦老い       中村 伸郎
      古きよき雨の映画やパリー祭        鷹羽 狩行
  ・朝顔市       捌(さば)かれて押されて朝顔市を見る    宮岡 計次
      明けゆくや朝顔市に水打たれ        水原 秋櫻子
  ・酸漿市       夫婦らし酸漿市の戻りらし         高浜 虚子
  ・山開き       六帖に十人泊る山開き           満田 玲子
      先達の錫杖鳴らし山開           松垣 久美子
      山開き北壁になほ雪残る          塚田 恵美子
  ・海開き       海の幸供へて島の海ひらく         佐藤 信子
      禰宜病みて海女が弊振る海開        高橋 好音
      まだ白き肌のまぶしき海開         井口 とよ
  ・富士詣        富士詣雲の中まで人うねり         塚原 游子
  ・博多祇園山笠       たたかひの主役は美男飾り山笠       倉重 千鶴子
      追山笠や父なつかしき肩車         小島 隆保
  ・祇園囃子(ぎおんばやし・京都)
   ゆくもまたかへるも祇園囃子の中      橋本 多佳子
      鉾の稚児目だけが動く厚化粧        清田 喜代子
      祇園会の鉾をへだてて人と逢ふ       龍神 悠紀子
  ・太鼓山車(たいこだし・小倉祇園太鼓)
      太鼓山車曲がる太鼓を打ちながら      藤 広文
  ・天満祭       一船に稚児のあふれて天満祭        ほんだ ゆき
  ・佞武多(ねぶた)       送り絵の美女ばかりなる佞武多かな     増田 手古奈
狂乱も一人の笛もねぶたかな        三上 北人
  ・竿灯       竿灯を額に支へて美青年          清水 萬里子
  ・七夕       七夕や父口ずさむ祖母の唄         星野 立子
  ・星祭       短冊に健と大きく星祭           北村 しんや
      百歳の姑看る縁星祭る           田中 美智代
  ・風鈴       風鈴の鳴らねば淋し鳴れば憂し       赤星 水竹居
  ・羅(うすもの)
      羅や人悲します恋をして          鈴木 真砂女
  ・甚平       甚平で訪ふ気安さの将棋かな        酒井 句浄
  ・草刈       道問ふに停めてくれたり草刈機       亀田 虎童子
  ・夏料理       素もぐりの話を添へて夏料理        村上 喜代子
      箸割れば杉の匂ひや夏料理         福原 紫朗
  ・海女   海女潜り白き衣の帯となり         塚原 游子
  ・梅干 金婚の近づく梅の夜干しかな        村岡 悠
         ・白玉       白玉や愛す人にも嘘ついて         鈴木 真砂女
      白玉粉練るは秘薬を練る如く        井上 宗雄
      白玉や今日娘の家に客となり        大和久 智恵子
  ・みつ豆       みつ豆や仲がよすぎてする喧嘩       稲垣 きくの
      蜜豆が来てお喋りの一寸止み        勝浦 文堂
  ・氷水       青春のいつかは過ぎて氷水         上田 五千石
      氷菓飛ぶやうに売れ爆心地         石崎 多寿子
  ・葛切       くず切りや心かよへばなほ無口       及川 貞
      葛切や昼を音なく母と居り         古賀 まり子
      葛餅や味も愛想もなき人よ         藤間 与志
  ・麦こがし       いもうとに母のおもかげ麦こがし      小田 利恵子
  ・夕涼み       今日のことすつかり忘れ夕涼み       河野 扶美
  ・打水       水打つてそれより女将の貌となる      鈴木 真砂女
  ・水貝       水貝に一箸つけし病余かな         百合山 羽公
  ・鴫焼       鴫焼きに偲ぶや故郷の死者生者       石崎 素秋
・沖膾       船酔ひの少し残りて沖膾          森田 君子
  ・冷奴       無為にして雌伏といふや冷奴        佐藤 青陽人
      夕膳に主一人や冷奴            齋藤 小俳星
  ・冷麦       冷麦に氷残りて鳴りにけり         篠原 温亭
  ・心太       陰口も愚痴も流して心太          大森 玲子
  ・ラムネ       呑みほしてラムネの玉を音にする      小島 花枝
  ・ビール       ビール酌む話はいつか亡き人に       松永 邦子
      缶ビール配りて旅の始まりぬ        森田 照江
  ・夏祭り       恐山石積み供養夏祭り           花田 功
  ・団扇(うちわ)       渋団扇もてあふがれて蜑(あま)を診る    井上 静香
      蜑(漁夫)       背の子へ団扇でおくる子守唄        百井 芳枝
  ・夏帽子       君だつたのか逆光の夏帽子         金澤 明子
  ・夏暖簾       一徹を通す蕎麦屋の夏暖簾         内藤 洪基
  ・日傘       砂山に泳がぬ妹の日傘見ゆ         日野 草城
      挨拶の傾け合へる日傘かな         篠原 温亭
・ヨット       薔薇色の海はヨットを淋しくす       野見山 朱鳥
  ・端居       端居してただ居る父の恐ろしさ       前田 普羅
  ・籠枕       雨やむを待ちて仮寝の籠枕         鈴木 花蓑
  ・陶枕       陶枕や昼うすれゆく朝の悔         大屋 達治
  ・日焼       人形のように育てて日焼の子        奈良 葉
  ・昼寝       潮変り三尺寝より覚めし海女        千田 一路
      遊ぶ児に踏まれもせずに昼寝かな      小杉 余子
ちらと笑む赤子の昼寝通り雨        秋元 不死男
  ・浴衣(ゆかた)       浴衣着て水得し花のごとくなり       中田 葉月女
      浴衣着て死刑囚とも思われず        死刑囚某
  ・寝茣蓙       抱きあげる幼の頬に寝ござ跡        徳重 怜子
  ・水鉄砲 ちちははを水鉄砲の的に呼ぶ        井沢 正江
  ・夏芝居
      騙(だま)されてみたき男や夏芝居      片山 由美子
  ・遊船       遊船の手を振りあふも旅の情        岡部 蕉露
  ・風鈴       風鈴のわがつぶやきにこたへけり      鈴木 真砂女
  ・日覆       紅茶濃し日覆朱きカフェテラス       佐々木 幸
  ・庭涼み       勉強の灯を見上げつつ庭涼み        松浦 敬親
  ・夏のれん       生涯を妻たるを得ず夏のれん        鈴木 真砂女
  ・夏座敷       思ひ思ひに外を見ている夏座敷       細見 綾子
  ・香水       香水の一滴づつにかくも減る        山口 波津女
      香水を変へて女の転機かな         菅原 くに子
  ・汗       塁上に死す砂まみれ汗まみれ        村上 沙央
  ・曝書(ばくしょ)、虫干し
      書をさらす獄に妻子の文なども       死刑囚某
  ・夏痩(やせ)       物や思ふと人の問ふまで夏痩せぬ      夏目 漱石
  ・花火       花火散り実らぬ恋に似たるかな       安済 久美子
      大花火大観衆の夢が散る          塚原 游子
      手花火を持たせて膝に抱き取りて      三村 純也
      暗く暑く大群衆と花火待つ         西東 三鬼
  ・遠花火       遠花火入院の日々思ひ出し         塚原 游子
      死にし人別れし人や遠花火         鈴木 真砂女
  ・走馬灯       走馬燈こゝろに人を待つ夜かな       高橋 淡路女
  ・岩魚       奥つ瀬に岩ひとつ占め岩魚釣        小倉 秀男
  ・虎魚(おこぜ)       鬼おこぜ神の誤謬の貌を上ぐ        中村 正幸
  ・鮑       逢へばすぐ酒となる友鮑蒸し        小野 博
  ・鮑取(あわびとり)       鮑捕る海女の眉目よき潮めがね       西沢 十七里
  ・鰻(うなぎ)
      鰻食ぶ先師贔負の蒲焼屋          早崎 明
      鰻食べて少しうれしき誕生日        奈良 比佐子
      臨月の胎動に手を鰻食う          大下 芙沙
  ・夜光虫       赤紙が父に来た日の夜光虫         室生 孝太郎
      夜光蟲燃えて赤道無風帯          山本 暁鐘
  ・水すまし       草の葉をもるる夕日に水すまし       長谷川 櫂
  ・孑孑       孑孑や夢もて生きる時短か         神尾 久美子
  ・毛虫>       毛虫とるたびに声出し男呼ぶ        鈴木 六林男
  ・蠅虎(はえとりぐも)       モナリザに蠅虎も近づける         藤田 湘子
  ・百足(むかで)       にくしみを人にはいはず百足打つ      木下 春
  ・蠍(さそり)       月光の仏塔はるか蠍這う          阿保 恭子
  ・天牛(かみきり)       天牛の世を嘆きての歯ぎしりか       檜 紀代
・蝉
初蝉やしずかにをりぬ老夫婦        山口 青邨
蝉の声生賛歌とも挽歌とも         塚原 まさし
      点滴につなぐ玉の緒蝉時雨         角川 源義
      蝉鳴くや父病み初めし日にも似て      山下 康博
  ・空蝉(うつせみ) 空蝉の爪のくいこむ被爆の木        助田 素水
  ・木下闇(夏に木々が茂り木陰が薄暗くなっているのをいう)       木下闇野仏空を恋ふ瞳して         篠原 みち
  ・合歓の花       九時すぎてなほ明るしや合歓の花      加藤 楸邨
      昨夜の雨上がりし合歓の花明り       坂井 貴子
  ・蓮の花       蓮の花ひとりになる日考へず        木野 愛子
  ・はまなす       はまなすや破船に露西亜文字のこり     原 柯城
      はまなすや親潮と知る海の色        及川 貞
  ・月下美人       寝惜みて月下美人を描きつづく       下村 非文
  ・夕顔       風呂沸いて夕顔の闇さだまりぬ       中村 汀女
   夕顔や父母の意にそひ只の主婦       小松原 みや子
      夕顔の咲く見て別れ来りけり        深見 けん二
  ・待宵草(まつよいぐさ)       囁くは男女待宵草の蔭           須崎 美恵子
  ・向日葵(ひまわり)       向日葵や起きてすぐ妻母の顔に       森 澄雄
      向日葵の花一列に過疎の村         大久保 武司
  ・糸瓜       駅長の糸瓜咲かせて日本海         村上 婦美子
  ・茄子       茄子漬けて厨仕事の終りとす        大月 多恵子
      茄子胡瓜母の育てしものを食ふ       大串 章
  ・胡瓜       団欒は楽し一夜の胡瓜漬          谷川 大川
  ・辣韮(らっきょう)       辣韮を漬けてころりと睡りけり       黒田 杏子
  ・西瓜       過去よりも短き未来西瓜食う        引治 正吉
  ・メロン       めろんの香夫のしらざる世を生きて     中村 貞子
・百日紅(さるすべり)       百日紅母のカレーの匂ひくる        繁昌 和洋(中学三年)
    百日紅園児ねむりの刻来る         飯田 龍太
      良きことの予感百日紅咲けり        葉山 敦子
  ・夾竹桃(きょうちくとう)
      夾竹桃おなじ忌日の墓ならぶ        朝倉 和江
  ・百合       仏壇の中の暗きに百合ひらく        菖蒲 あや
  ・薄雪草(エーデルワイス)       別れはや高嶺薄雪草咲くに         野見山 朱鳥
     

「俳句読本」に登場した「俳諧師達」と「発句集」その一「元禄期まで」

「俳句読本」に登場した「俳諧師達」と「発句集」その二「元禄期以降」


「俳句読本」に掲載した俳句集[春]

「俳句読本」に掲載した俳句集[秋]

「俳句読本」に掲載した俳句集[冬]


「西国山人のつれづれ草」
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