「俳句読本」に掲載した俳句集[秋の部]
  立秋から立冬まで
八月の俳句
季題・   ・夜の秋       隣家の灯洩れて親しや夜の秋        岡部 田鶴子
  ・涼み       こころいま世になきごとく涼みゐる     飯田 蛇笏
      夕涼み妻より先に死ぬつもり        名和 未知男
  ・文月(ふづき、ふみつき)
      月山の夕空の澄む文月かな         齋藤 郁子
  ・八月       八月や太白ひくし海の上          正岡 子規
      八月の大病院の迷路かな          中込 誠子
      八月の行方や稲に波走り          米澤 吾亦紅
  ・赤富士       赤富士の雲紫にかはりしも         阿波野 青畝
・原爆忌       天上に火のまぼろしや原爆忌        老川 敏彦
      原爆忌今年父の名加へられ         小笹 浅水
      原爆忌青空哀し黙祷す           後月 美華
      原爆忌棒のごとくに人立てり        荒田 千恵子
      原爆忌その語り部も老いにけり       松本 雅子
「水を水を」声なほ耳に原爆忌       宮田 えき女
      浦上忌一家爆死の小さき墓碑        宮田 えき女
      消えぬ怒り消えぬケロイド原爆忌      下村 ひろし
      原爆忌命日同じ墓ばかり          齋藤 朗笛
      白髪の世話人多し原爆忌          波出石品女
      うら若き兄の写真や原爆忌         山本 暁鐘
      鎌置きて畦に祈れり原爆忌         草野 宮子
      ふんだんに水出る蛇口原爆忌        小川 裕子
      原爆忌いのち素直に髪洗ふ         中尾 杏子
      原爆忌生きて自愛の卵割る         中村 孝一
  ・七夕       子を連れて子が来る七夕竹伐らな      大石 悦子
  ・ビール       夕富士へビールのジョッキ突き挙ぐる    柳田 芳子
  ・秋       行く我にとどまる汝に秋二つ        正岡 子規
      秋の航一大紺円盤の中           中村 草田男
      眼がのぞく秋の蜂の子売られけり      加藤 知世子
  ・秋立つ、立秋 秋立つや今朝の散歩は道変へて       塚原 游子
      石に水びしびし打って今朝の秋       高井 邦子
      秋たつや川瀬にまじる風の音        飯田 蛇笏
      横雲のちぎれてとぶや今朝の秋       立花 北枝
  ・処暑       処暑の富士雲脱ぎ最高頂見する       岸風 三楼
  ・残暑       バスを待つ残暑の会釈老同志        河野 静雲
      大残暑点滴ぽとりほとりかな        松田 千佐代
      髪とけば陽の匂ひして残暑かな       丸山 すみ
      降り足らぬ残暑の雨や屋根の塵       永井 荷風
  ・秋めく       秋めくと猫に眉毛を描く女         飯田 綾子
      高原はすでに秋めく花と人         青柳 志解樹
      高原の秋めく日ざし子雷          星野 立子
      秋めくとすぐ咲く花に山の風        飯田 龍太
  ・初秋       鎌倉をぬけて海ある初秋かな        飯田 龍太
      初秋や軽き病に買ひ薬           高浜 虚子
  ・秋暑し       秋暑し人とあふ間も衿をぬり        水谷 八重子
      梢まで来ている秋の暑さかな        各務 支考
      秋暑し亡き子の墓に水ざんざ        伊藤 知子
  ・暑気中り       老いしかな過信の吾も暑気中り       兼平 よしえ
  ・日射病       日射病頂上見えて倒れけり         森田 峠
      気がつきし瞳に緑葉日射病         中村 狭野
  ・新涼       新涼の初心に帰るための旅         福田 花仙
      茶の味のありて新涼快し          河野 静雲
      新涼や白きてのひら足のうら        川端 茅舎
・八月尽       年金の手続き終へて八月尽         沢辺 孝一
  ・秋の雲       流れゆく真白き雲に潜む秋         塚原 まさし
  ・秋の空       秋天の果を浄土と疑はず          滝川 名末
  ・初嵐       なんの湯か沸かして忘れ初嵐        石川 桂郎
  ・野分       我が声の吹き戻さるゝ野分かな       内藤 鳴雪
  ・秋の雷       人送る座の華やぎに秋の雷         饗場 米子
      癌はいや呆けもつといや秋の雲       妹尾 圭子
  ・七夕        七夕のゆたかなる尾を地に垂らす      塩川 雄三
  ・夜店       父の手を奪ひあう子や夜店見る       森田 峠
  ・花火       手花火を命継ぐごと燃やすなり       石田 波郷
      迷ひ子の放送はさむ大花火         中井 啓子
  ・迎鐘       金輪際わりこむ婆や迎鐘          川端 茅舎
      金輪際(こんりんざい)
  ・不知火(しらぬい)       亡き父母も見し不知火を一目恋ふ      上村 占魚
   不知火を見る丑三つの露を踏む       野見山 朱鳥
  ・草の市       身うちみな仏になりて草の市        中 勘助
  ・阿波踊       十万の下駄の歯音や阿波踊         橋本 夢道
  ・よさこい祭       よさこいの汗青春をしたたらす       原 嘉子
  ・火祭り       火の祭り富士の夜空をこがしけり      角川 源義
  ・盆支度       来年は米寿母する盆支度          松本 秩陵
      妻連れて友の盆具の買ひあつめ       杉山 岳陽
・苧殻(おがら)       若死にの父のあはれや苧殻折る       橋本 鶏二
  ・踊り       四日間踊る阿呆の夫とゐて         藤 治代
      ぬきん出て踊り上手や島育ち        荻田 千鶴子
  ・迎火       子二人の迎ひ火を焚き妻老いぬ       大泉 抱二
      迎火や焚いて誰待つ絽の羽織        夏目 漱石
      風が吹く仏来給ふけはひあり        高浜 虚子
  ・灯籠       祖母在ますごと灯籠を吊りにけり      臼田 亜浪
      水に置けば浪たたみくる燈籠かな      高浜 虚子
      原子野に万燈流す声しのび         多田 祐計
  ・盆       病む母に盆殺生の鮎突けり         新井 盛治
      どつと来てどつと帰りし盆の客       閑野 芙慈子
      長崎はお伽絵のごと盆三日         森 冬比古
  ・墓参       己にて絶ゆる血筋や墓参          宮部 寸七翁
      ちちはははの墓はわが墓洗ふなり      森 総彦
  ・魂祭       魂祭我は親より老いにけり         内藤 鳴雪
  ・生身魂       生身魂七十と申し達者なり         正岡 子規
  ・門火       門火焚き迎へし父よそして母        阿部 豊
      母にのみ見ゆる浄土や門火焚く       福士 景月
  ・送火       送り火や墓所異りて父と母         大場 美夜子
      送火の地をはなれゆく一列車        広田 真一
      送り火を焚き兄弟のまた老ゆる       神蔵 器
  ・精霊船       銅鑼一つ打ち精霊船担ぎ出す        中村 孝一
  ・敗戦忌       ひめゆりの塔の香煙敗戦忌         岩田 須磨子
      敗戦を語らぬ夫や敗戦忌          松原 みき
      この空を奈落より見き敗戦日        岡田 卓峰
  ・大文字       ひた走る大文字の火の一の筆        岡本 眸
      大文字や父母在りし日の京遠く       五十嵐 櫻
      大文字第一画の衰へそむ          山口 誓子
  ・地蔵盆       脛白き休日の父地蔵盆           岡本 眸
      子が慕ふ下宿学生地蔵盆          大串 章
  ・千燈会       千燈会いまだ暮れざる空の澄み       佐野 美智
  ・盆踊       かの人のうなじ追ひゆく盆踊        武田 貞太
      帰り来し死者も見にゆく盆踊        谷野 予志
  ・盆芝居       出しものは船幽霊や盆芝居         平谷 破葉
  ・流燈       ゆくことをためらふごとき流燈も      岡部 蕉露
  ・盆の月       嫁ぎきしここが故里盆の月         塚原 春枝
      故里を発つ汽車に在り盆の月        竹下 しづの女
      訃に急ぐ我が旅空の盆の月         田代 欣一
      人の世の濁世照らして盆の月        小原 青々子
  ・流れ星(夜這星、流星)       この世あの世つないで切れて夜這星     堀切 千代
      流星やたびの一夜を海の上         下村 ひろし
      わが心妻は覚らず流れ星          景山 筍吉
      星とぶや路に置きたる茄子の馬       長谷川 かな女
      死が近し星をくぐりて星流る        山口 誓子
      さそり座を憶えし吾子に星流れ       稲畑 汀子
  ・天の川       天の川礼節人にうすれつつ         松岡 悠風
      東京の空には薄し天の川          高浜 虚子
      子を負うて肩のかろきや天の川       竹下 しづの女
      寝袋に顔一つづつ天の川          稲田 眸子
  ・稲光       稲光屋久杉古代の貌となる         石河 義介
      いなびかり北よりすれば北を見る      橋本 多佳子
      稲妻に近くて眠り安からず         夏目 漱石
      稲妻や非常ベルなるナース室        村井 信子
  ・秋出水       土手に立つ農夫と鴉秋出水         和田 暖泡
  ・夏風邪       夏風邪の咳を怺えて長電話         加納 美代
  ・冷奴       夕膳に主一人や冷奴            松本 雅子
  ・蜩(ひぐらし)       蜩や被爆修女の碑の新た          宮田 えき女
      かなかなやどの家も父のゐる夕餉      鈴木 栄子
      かなかなや看護りて父の死のちかき     吉武 玲子
      ひぐらしや農婦藁もて足洗ふ        酒井 大岳
      かなかなの鈴降る雨となりにけり      久保田 万太郎
      かなかなの声入相の森に来ゆ        関口 一秀
      蜩や行く先ちがふ旅仲間          五所 平之助
  ・法師蝉       村は今夕雲赤し法師蝉           齋藤 友栄
      風のごと孫ら来て去る法師蝉        那須 乙郎
      その時もつくづく法師鳴いてゐし      鈴木 杏一
      また逢ふ日ありや遠くに法師蝉       那須 乙郎
      法師蝉いくばく残る子の休暇        下村 ひろし
  ・蜻蛉       青蜻蛉筑波に雲もなかりけり        正岡 子規
      赤蜻蛉ともに進むや乳母車         山口 正高
  ・太刀魚       抜身めく太刀魚提げし蜑に遭ふ       斉藤 朗笛
  ・裂膾(さきなます)       居酒屋の木椅子に凭れ裂膾         佐藤 定峯
  ・はったい       はったいにむせては齢重ねしか       有働 亨
・泰山木       泰山木咲いて祈りの鐘八方         松野 自得
  ・西瓜       泣いてをり肘に西瓜の種つけて       中島 鬼谷
      過去よりも短き未来西瓜食う        引地 正吉
  ・白桃       白桃に入れし刃先の種を割る        橋本 多佳子
      白桃やかりそめならぬ今の幸        岡田 和子
      白桃を洗ふ誕生の子のごとく        大野 林火
      病む夫の甘え上手へ桃をむく        北村 昌子
  ・棗(なつめ)の実       棗の実薬酒のびんに母の文字        中村 みよ子
      天空の一枝引き寄せ棗もぐ         篠原 一秋
  ・瓢箪       形よき瓢もとめて仰ぎ寄る         軽部 烏頭子
  ・梅酒       わが死後へわが飲む梅酒遺したし      石田 波郷
  ・サイダー       サイダーを一息に飲む水平線        今瀬 剛一
  ・冷素麺       速達の庭から着きて冷素麺         矢野 誠一
  ・たばこの花       わが旅路たばこの花に潮ぐもり       阿波野 青畝
      日田越えの峠の小村花たばこ        吉田 南窓子
・朝顔       朝顔に子の早起きは二日ほど        千才 治子
      堪ゆることばかり朝顔日々に紺       橋本多佳子
      咲き残る朝顔の紺衰えず          白井 良治
  ・おしろいの花       おしろいは父帰る刻咲き揃う        菅野 春虹
  ・桐一葉       桐一葉日当りながら落ちにけり       高浜 虚子
      桐一葉夕焼すでに地を離れ         岡本 眸
  ・芙蓉       紅芙蓉むすめ細身になりたがる       小松 松風
雲の端のまだ明るくて酔芙蓉        伊藤 忠
  ・木槿(むくげ・アオイ科の落葉低木、インド中国原産で観賞用に生垣や       庭木として植える)
      昼過ぎし蕎麦屋の閑や花木槿        森 澄雄
      子だくさん今は昔に木槿咲く        中村 しげ子
秋あつき日を追うて咲く木槿かな      高井 几董
      白極め木槿今にも散りそうな        林 かね
  ・芭蕉葉       芭蕉葉の雨音の又かはりけり        松本 たかし
      腰かけて人顔青し芭蕉かけ         高浜 虚子
  ・カンナ       老いしと思ふ老いじと思ふ陽のカンナ    三橋 鷹女
      肉灼けしあの日の丘にカンナ咲く      宮田 えき女
      眼帯のうちにて燃ゆるカンナあり      桂 信子
      カンナ燃ゆ生涯学習といふ講座       高尾 まもる
  ・鳳仙花       朝晩は涼しくなりぬ鳳仙花         富安 風生
      鳳仙花危ふかりしよこの児癒ゆ       川畑 火川
  ・稲の花       校名に村の名残る稲の花          高橋 悦男
      これよりはお天気まかせ稲の花       横田 彌一
      あとは風まかせの稲の花ざかり       青柳 志解樹
  ・新豆腐       新豆腐固まりかけてゐるところ       長谷川 櫂
      新豆腐といふふれこみに買はさるる     上村 占魚
  ・小豆       小豆干す縁側広き尼の寺          後藤 節子
  ・枝豆       枝豆の一皿で足る夫の酒          中西 登志子
  ・刀豆       刀豆の鋭きそりに澄む日かな        川端 茅舎
  ・藪からし       藪からし売地の札の古りにけり       栗山 妙子
         九月の俳句
 季題・九月       教室へ九月の廊下光りけり         植松 安子
      九月來箸をつかんでまた生きる       橋本 多佳子
   ・葉月       みどり児を籠で提げゆく葉月かな      金澤 良枝
   ・八朔       八朔や犬の椀にも小豆飯          小林 一茶
  ・白露       一会また神に給ひし白露かな        河野 扶美
      病み抜きし夫健やかにけふ白露       阿部 寿美
  ・水澄む       史跡みな湖底にありて水澄めり       竹中 弘明
  ・二百十日、厄日       二百十日パン売り残り店終う        嵩地 あつし
      厄日過ぐ父退院の手配して         高橋 悦男
      旅がらす二百十日も船支度         松尾 芭蕉
      風の音に覚めたる二百十日かな       青木 月斗
      枝少し鳴らして二百十日かな        尾崎 紅葉
  ・休暇明け       また元の家の秩序や休暇明         徳永 夏川女
  ・震災忌       関東は父のふるさと震災忌         宮崎 洋代
      わが知れる阿鼻叫喚や震災忌        京極 杞陽
      江東にまた帰り住み震災忌         大橋 越央子
      われを負ひ逃げし母老い震災忌       加藤 かずを
      火の宙を駈ける馬見き震災忌        宮下 翠舟
      里山に津波の碑あり震災忌         武政 礼子
  ・風の盆       風の盆三日三晩を徹しけり         磯野 充伯
      先触れに辻の踊や風の盆          瀧 春一
      日ぐれ待つ青き山河よ風の盆        大野 林火
      踊りの手ひらひら進み風の盆        福田 蓼汀
      ひらひらとてのひらばかり風の盆      井口 荘子
      風の盆恋の一字の帯しめて         坂井 あかり
母がゐて嫁がゐて越中風の盆        細見 綾子
  ・気比祭(けひまつり)       北限のユーカリ幽(くら)し気比祭      信田 扶石
  ・秋澄む           秋澄むや松を離るる鳶の笛         最上 義満
  ・新涼       新涼や尾にも塩ふる焼肴          鈴木 真砂女
  ・爽やか       過ちは過ちとして爽やかに         高浜 虚子
        何もせで一日ありぬ爽やかに        高浜 虚子
      爽やかや死を賜りし母のかお        葛籠 堅助
      爽やかや小銭ばかりが残りたり       鎌田 俊雄
      爽やかや風の言葉を波が継ぎ        鷹羽 狩行
      爽やかに旅への顔の揃ひたる        塩川 雄三
  ・秋涼し       母のもの似合ふ齢や秋涼し         恩田 秀子
  ・そぞろ寒       度忘れの一語に執しそぞろ寒        鴨志田 智恵子
  ・秋淋し       だらだらとだらだらまつり秋淋し      久保田 万太郎
  ・秋の暮       秋の暮大魚の骨を海が引く         西東 三鬼
      泣けば子が何故に泣くかと秋の暮      野見山 ひふみ
  ・秋の夜       秋の夜や人懐かしき焼りんご        永井 龍男
      子にみやげなき秋の夜の肩ぐるま      能村 登四郎
      秋の夜や膝の子にわが温められ       福永 耕二
秋の夜や病めば一途に人恋し        菖蒲 あや
      秋の夜や学業語る親の前          河東 碧梧桐
      子育ては楽し秋の夜また楽し        後藤 智子
  ・夜長       晩学の絵筆の進む夜長かな         高田 里江
      浅草や夜長の町の古着店          永井 荷風
      父母亡くておはぎ作りし夜の長き      吉野 雅子
      長き夜や退きてまだ見る職の夢       宇野 直治
      寝て起きて長き夜にすむひとり哉      炭 太祗
  ・秋燈       秋燈や夫婦互に無き如く          高浜 虚子
      嫁ぐ娘の部屋の秋灯いつまでも       塚原 路子
  ・燈火親しむ       燈下親しわがためにのみ老ひし父母     安宅 信一
      燈下親し一書に妻と子の栞         神林 信一
      燈火親し一つの眼鏡使ひ合ひ        下村 ひろし
  ・身に沁む       身に沁むやひらがなのみの母の文      牛尾 澄子
  ・菊日和       四五日の旅行く妻に菊日和         石塚 友二
      菊日和大工に留守を頼みけり        井手口 俊子
  ・秋暁       秋暁や胸に明けゆくものの影        加藤 楸邨
  ・秋の雲       秋の雲大仏の上に結び解け         高浜 虚子
      ままごとや鏡にうつる秋の雲        迫 幸枝(十一歳の折、吟)
      遠きほど雲は秋なり津軽富士        今留 治子
  ・秋の空       まず来る鶴の一羽や空の秋         川端 康成
      秋空にさしあげし児の胸を蹴る       福田 蓼汀
  ・鰯雲       いわし雲いつも誰かが呼んでいる      塚原 春枝
      別れ住めば子は妻のもの鰯雲        島村 利南
      鰯雲二人で佇てば別れめく         岡本 眸
      病む友に嘘ばかり言ふいわし雲       林 民子
      宗谷より知床までの鰯雲          無着 成恭
      鰯雲一駅歩いてしまいけり         池田 澄子
  ・台風       颱風に城守早出早仕舞           赤迫 雨溪
      颱風へ固めし家に児のピアノ        松本 進
      めちやくちやなどぜうの浮沈台風来る    秋元 不死男
      一灯に家族寄り合ひ台風下         吉村 あや子
  ・秋出水       秋出水蛇居て去らぬかまど口        萩原 麦草
      鳥籠を二階に移す秋出水          磯崎 美枝
  ・野分       旅好きの終の旅立ち野分かな        飯田 和子
  ・秋風       吹きおこる秋風鶴をあゆましむ       石田 波郷
      秋風や発病の日に似て凪げる        中塚 一碧楼
      秋風や鮎焼く塩のこげ加減         永井 荷風
      振り向けば秋の風立つ千枚田        野木 桃花
      秋風に出て見よ老も美しき         小林 康治
      秋風や逢ひたき人はみな故人        結城 昌治
      秋風やふたゝび職を替えんとし       安住 敦
      櫛入れて秋風通ふ旅の髪          菖蒲 あや
      淋しさに飯をくふなり秋の風        小林 一茶
      木からもののこぼるる音や秋の風      千代女
  ・色なき風       山寺の色なき風に父祖の声         最上 義満
  ・流れ星       星流れ明日は良きことありそうな      佐野 雪子
  ・三日月       三日月や夕餉は話題多きとき        坊城 董子
      踏み渡る暗き野水や三日の月        青木 月斗
・待宵       待宵の縁に毬つく童女かな         宮下 翠舟
      待宵や水を動かす白き鯉          長谷川 かな女
・良夜       生涯にかかる良夜の行度か         福田 蓼汀
  ・夕月夜       雑踏の名残り猶あり夕月夜         中口 飛朗子
  ・月       竹藪の空ゆく月も十四日          松本 たかし
      子の高き母低き声月の坂          工藤 真智子
      長病みの妻物言はず月を指す        寺尾 義慎
      満月に心の鬼も踊り出し          塚本 みや子
      戦死せし父を泣きたる月の友        辻 桃子
      背負はれて名月拝す垣の外         富田 木歩
      名月の美しすぎて世の乱れ         南 千枝子
      名月や君かねてより寝ぬ病         炭 太祇
      十五夜や母の薬の酒二合          富田 木歩
  ・十六夜       十六夜の母亡きことに父慣れず       高村 恵治
      いざよひや五十年目の新表札        丸山 佳子
      十六夜の月近々と山の宿          中島 知椅子
  ・無月       一人行く無月の道のくらからず       皿井 旭川
  ・霧       白樺と幽(かす)かに霧のゆく音か      水原 秋櫻子
      ヴェネチあの細道小道霧笛鳴る       奥山 俊子
  ・露       一番機翼の露や七色に           下見 伯水
      別れはふい万朶の露に立ちつくす      不 詳
人の如草葉の露の瞬けり          高浜 虚子
      白露や死んでゆく日も帯しめて       三橋 鷹女
      白露や茨の棘にひとつづつ         与謝 蕪村
  ・秋の水(冷たく澄み切った秋の水をいう)       老残の我を映すや秋の水          塚原 游子
      眠りたる目を洗はばや秋の水        向井 去来
  ・水澄む       一村を沈めてダムの水澄めり        岡野 洞之
  ・秋の波       来ぬ人を待つしかなくて秋の波       河 英美
  ・秋の浜       さいはてと人のうたひし秋の浜       富安 風生
  ・秋の宿       朝ぼらけ漁船の行き来秋の宿        塚原 游子
  ・花野       君を訪ふて雨の花野を帰りけり       徳田 秋声
      好きな人嫌いな人も花野中         鈴木 真砂女
  ・落し水       千枚田巡りめぐりし水落す         伊藤 憲雪
  ・重陽(ちょうよう)       重陽の酒贈るべき人減りて         きくち つねこ
  ・草相撲       宿の子をかりのひいきや草相撲       久保 より江
      八百長の一つや二つ草相撲         亀田 虎童子
  ・秋祭り       子相撲に親が勇みし秋祭り         本田 洋子
      豆腐屋が寄付を集めに秋祭         阿部 みどり女
      秋祭誘いに寄りてまだ待つ子        中村 汀女
  ・秋扇       秋扇しずかにたゝみ旅信かく        羽柴 鏡女
      好き嫌い顔に出ている秋団扇        石原 八束
  ・秋団扇       秋団扇たまたまあれば使ひけり       成瀬 桜桃子
  ・秋日傘       秋日傘そっとしのばせ旅に発つ       山本 真砂子
  ・秋の風鈴       くろがねの秋の風鈴鳴りにけり       飯田 蛇笏
  ・竹伐る       一日や竹伐る響き竹山に          松本 たかし
  ・喧嘩地車(けんかだし・岸和田だんじり祭)
      喧嘩地車太鼓が腹の底で鳴る        竹腰 八柏
  ・敬老日       席譲りまた譲らるる敬老日         築城 京
      患者より医者いたはられ敬老日       築城 百々平
      美しく老い來しつもり敬老日        伊東 澄子
  ・秋彼岸       門前に供華売る八百屋秋彼岸        伊藤 文子
      賑やかに秋の彼岸の見舞客         石田 波郷
      秋彼岸つい口に出るどつこいしょ      伊藤 なづな
故ありてあづかる位牌秋彼岸        亀田 月庭
      羅漢像父似をさがす秋彼岸         山本 康代
      姉弟の老いて仲良し秋彼岸         塚原 游子
      秋彼岸夫の生家へひとり来て        密門 令子
      秋彼岸詣り合はせてみな親し        深見 けん二
      少年のバッグに子犬秋彼岸         八木 林之助
      ひとごゑのさざなみめける秋彼岸      森 澄雄
  ・南州忌       国乱れ噴煙やまぬ南州忌          下見 伯水
  ・秋遍路       潮騒や女ばかりの秋遍路          河本 好恵
  ・馬肥ゆる       馬肥えて祭の武者を振り落とす       冨山 青沂
  ・温め酒       ぬくめ酒夢をもたねば老いやすし      広兼 清視
  ・濁り酒       味噌可なり菜漬妙なり濁り酒        坂本 四方太
  ・夜食       所望して小さきむび夜食とる        星野 立子
  ・芋煮会       月山の見ゆと芋煮てあそびけり       水原 秋桜子
  ・夜鍋       嫁ぐ娘に老いたる母の夜なべかな      中田 隆子
  ・障子貼る       臥す母のどこからも見え障子貼る      上田 薫
  ・蜻蛉(とんぼ)       とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな     中村 汀女
      赤とんぼ風をとらへて気ままなり      塚原 游子
      愚直なる教師一代鬼やんま         長澤 つねお
      肩に来て人懐かしや赤蜻蛉         夏目 漱石
      指立てて蜻蛉を誘ふ児の真顔        菊池 万里
      赤蜻蛉分けて農夫の胸進む         西東 三鬼
  ・虫の声       虫の声月よりこぼれ地に満ちぬ       富安 風生
  ・虫時雨       うれしくて何か悲しや虫しぐれ       星野 立子
      喪の家に灯ばかり多し虫時雨        高木 大舵子
  ・こおろぎ(ちちろ)       一心に啼くこほろぎと一つ風呂       真下 喜太郎
      ちゝろ鳴き一人となりし通夜の客      岩岡 明子
      母の忌の宵のまろび寝ちちろ虫       古賀 まり子
      眠られぬ一夜ちちろにあづけをり      飯山 修
      こほろぎや小鍋に洗ふ明日の米       鷲谷 七菜子
  ・鉦叩       亡き人の書架のあたりか鉦叩        宮本 淑子
  ・鈴虫       マンションに鈴虫泣かせ老夫婦       高橋 達子
      鈴虫のよく泣くことよ朝掃除        本城 あざみ女
      鈴虫や鳴きやすむなり虫時雨        松本 たかし
  ・蚯蚓鳴く       蚯蚓鳴くこと延々と不意に止む       山西 雅子
      子と繰りし古きアルバム蚯蚓鳴く      小林 幸子
  ・地虫鳴く       省みて我に非のあり地虫鳴く        三村 純也
  ・蜉蝣(かげろう)       蜉蝣のとまれる障子十日月         斎尾 采王
  ・法師蝉       流鏑馬の一矢飛びゆく法師蝉        川嶋 喜美代
  ・秋の蝶       山門をぬけて濁世へ秋の蝶         千原 叡子
      見失ひ又見失ふ秋の蝶           高浜 虚子
  ・蝗(いなご)        岡海老と言ふ信濃路の蝗食ふ       田中 輝山
  ・鯊(はぜ)       鯊日和夫の遺愛の竿を干す         白井 一江
      鯊釣りや不二暮れそめて手を洗ふ      水原 秋櫻子
      鯊釣れて座したる椅子を忘れ来し      牛山 みつゑ
      揚げたてを船上で食う鯊日和        吉澤 史子
  ・秋刀魚       秋刀魚焼く煙は何故に人恋し        塚原 路子
      火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり     秋元 不死男
      秋刀魚焼くきのふも今日も隣かな      岡村 柿紅
      年金の引き算ぐらしさんま焼く       吉田 安子
  ・太刀魚       トロ箱に太刀魚銀の尾を垂らす       内藤 満子
  ・鰯(いわし)
      てづかみに量る小鰯浦日和         森田 五月
      平凡に生きる幸せ鰯煮る          岡部 田鶴子
      骨ごとに鰯食ぶ父指太し          太田 香嶺       鰯焼く妻と云ふ名の五十年         武田 光子
      鰯引く親船小船夕やけぬ          石田 波郷
  ・鮭       鮭漁の頃の賑わひ一漁村          鈴木 貞二
      望郷や遡行の鮭を見るにつけ        太田 光子
      川全て鮭の光となりにけり         佐藤 緑芽
      もの影のごとくに鮭のさかのぼる      阿部 慧月
  ・木犀       木犀の香を過ぎ青き海を見に        多田 裕計
  ・龍胆       龍胆や朝はきらめく白馬岳         水原 秋桜子
  ・風船蔓       風船蔓四十路のこころ揺れどおし      石倉 すみれ
  ・赤のまんま       赤まんま幼なじみの柩ゆく         副島 十代子
  ・秋の七草       馬でゆく秋の七草ふんでゆく        長谷川 素逝
  ・とんぶり(箒木の実)       とんぶりを食ふ山旅のコップ酒       皆川 盤水
  ・花すすき・芒       少年に愛す沼あり花すゝき         五所 平之助
      芒の穂ばかりに夕日残りけり        久保田 万太郎
      仏たち暮れてひかりの芒山         鷲谷 七菜子
      なにもかも失せて薄の中の路        中村 草田男
      山は暮れ野は黄昏の薄かな         与謝 蕪村
  ・曼珠沙華(まんじゅしゃげ)、彼岸花
      我が心菩薩か夜叉か曼珠沙華        塚原 游子
      西国の畦曼珠沙華曼珠沙華         森 澄雄
      病よき丘の潮騒曼珠沙華          小池 文夫
      捨てきれぬもにふるさと曼珠沙華      鈴木 真砂女
  ・鍾馗蘭       水匂ふ秘密の場所の鍾馗蘭         山本 定子
  ・女郎花       耐へるたび人の世が見え女郎花       橋爪 あきを
  ・吾亦紅       老ゆる日のためのジョギング吾亦紅     矢口 由紀枝
      山裾のありなしの日や吾亦紅        飯田 蛇笏
  ・白粉粉の花       おしろいは父帰る刻咲き揃ふ        菅野 春江
  ・鶏頭       鶏頭に口惜しき涙払ひけり         梶山 千鶴子
      鶏頭に秋の日のいろきまりけり       久保田 万太郎
  ・コスモス・秋桜
      コスモスや雲忘れたる空の碧        松根 東洋城
      許すとは忘れることよ秋桜         藤本 さなえ
      コスモスの花あそびをる虚空かな      高浜 虚子
      しーそーの父空にあり秋桜         中野 真奈美
      コスモスや妻がやさしく子がやさしく    日野 草城
      コスモスの花ゆるがせて鼓笛隊       大河原 一石
      コスモスにのり入れ吾子の乳母車      加藤 三七子
  ・菊       頂上や殊に野菊の吹かれをり        原 石鼎
  ・紫苑       隣り家は紫苑のさかり我が家も       三橋 鷹女
      紫苑といふ花の古風を愛すかな       富安 風生
  ・柘榴(ざくろ)       柘榴もぎ呉れて歯のない口笑ふ       伊丹 三樹彦
      仏壇に置きし柘榴の光りけり        伊藤 道明
    ・蓮の実       蓮の実も添へて黄檗普茶料理        岡村 しげる
  ・ねこじゃらし       みな先にいってしまひしねこじゃらし    島田 六峯夫
  ・数珠玉       数珠玉のかちりと夕日返しけり       大嶽 青児
  ・桃       桃の木へ雀吐き出す鬼瓦          上島 鬼貫
      柔らかき桃の皮剥く聞き上手        日野原 千百合
  ・マスカット       マスカット母との刻のゆるり過ぎ      野沢 節子
  ・葡萄       老いてゆく恋人よ葡萄棚の下        今井 杏太郎
      少年がつまむ少女の掌の葡萄        藤岡 築邨
      黒きまで紫深き葡萄かな          正岡 子規
      朝刊を大きく開き葡萄食ふ         石田 波郷
      葡萄の種吐き出して事決しけり       高浜 虚子
  ・梨       通夜の梨さくさく噛んで人少な       上村 占魚
      梨食べてきのふのことのもう淡し      八牧 美喜子
      仏壇に日射の届き梨ふたつ         松林 慧
      闘病の子に手に重き梨を剥ぐ        吉田 芳
      梨むくや甘き雫の刃を垂るゝ        正岡 子規
      小刀の刃に流るるや梨の水         毛 条
      老成も若さも遠し梨をむく         深谷 義紀
  ・青蜜柑       嫁がねば長き青春青蜜柑          大橋 敦子
  ・甘藷       兄弟の多かりし世のさつまいも       保坂 加津夫
  ・萩       地に還るもののしずけさ萩白し       実籾 繁
      白萩のしきりに露をこぼしけり       正岡 子規
      低く垂れその上に垂れ萩の花        高野 素十
  ・木犀       木犀や巫女の下り立つ神の庭        片岡 奈王
  ・葛の花       限りなく流るゝ雲や葛の花         市川 東子房
  ・玉蜀黍       もろこしを食ぶ牧の木椅子に母とゐて    広田 恵美子
  ・砂糖黍       砂糖黍かじりし頃の童女髪         杉田 久女
  ・蕎麦の花       そばの花山傾けて白かりき         山口 青邨
  ・草の花       亡き犬の好みし道や草の花         小田 暘子
  ・菱取る       子の盥うしろに曳きて菱をとる       森 土秋
  ・生姜       朝市のほりたて生姜匂ふかな        戸田 こと
  ・胡麻       人遠く胡麻にかけたる野良着かな      飯田 蛇笏
  ・秋茄子       秋茄子の煮物嬉しき患者食         吉田 種子
      秋茄子の紫重し親遠し           石橋 秀野
  ・山葡萄       おほかたは猿の取分山葡萄         松村 茂
      青葡萄ひとつぶごとの反抗期        宮里 晄
  ・衣被(きぬかつぎ)       子にうつす故里なまり衣被         石橋 秀野
      婚の膳通夜の夜食に衣被          甘田 正翠
  ・露草       露草や父に老後の庭十坪          高橋 悦男
      露草や小さき母のふみ机          伊阪 美祢子
      露草のあいにひっしめく露の玉       河野 情雲
  ・貝割菜       ひらひらと月光降りぬ貝割菜        川端 茅舎
   十月の俳句
季題・十月       十月の雲より薄し朝の月          今瀬 剛一
      十月が来てしばらくは山静か        石井 浩
      十月の山深閑と牛を飼ふ          古賀 まり子
湯にひたる顔の寒さも十月ぞ        太田 鴻村
      十月の空より薄し朝の月          今瀬 剛一
  ・晩秋       晩秋や愛の乾きに人恋ふる         斎藤 ふじの
  ・秋の朝       砂の如き雲流れ行く朝の秋         正岡 子規
  ・秋の暮       ふりむきもせぬ子見送る秋の暮       石塚 和子
      去年より又淋しいぞ秋のくれ        与謝 蕪村
  ・肌寒       湯の名残今宵は肌の寒むからん       松尾 芭蕉
  ・秋の夜       永劫の如し秋夜を点滴す          日野 草城
  ・夜長       塩辛に夜長の酒を酌みにけり        鵜飼 登美子
      それぞれの家の夜長の灯かな        岡部 蕉露
  ・身に入(し)む さり気なく聞いて身にしむ話かな      富安 風生
      身にしむや嫁ぎたる娘の嘆き文       中島 好宣
      身に入むやいくたり触れし点字なる     平尾 みさお
      身に入むや会話途切れるもの忘れ      江口 博美
  ・そぞろ寒 湯わかしの鳴り出すまでやそぞろ寒     大石 テイ
      ポストまで百歩ばかりのそぞろ寒      竹内 しげ
・朝寒       朝寒や胸につかへし茹玉子         田中 美沙
・夜寒       あはれ子の夜寒の床を引けば寄る      中村 汀女
      征きし子の部屋そのままの夜寒かな     北 山河
      夜寒の灯小さく点しひとり酒        加藤 武夫
      夜寒しと言うて命を惜しむなり       後藤 夜半
      缺々て月もなくなる夜寒かな        与謝 蕪村
      掻きあはす夜寒の膝や机下         杉田 久女
      朝寒のけふの日南や鳥の声         上島 鬼貫
  ・秋思、愁思       愁思濃きロンドン塔の雀たち        大木 さつき
      秋思ふとベンチの憩ひやや久し       木村 燕城
  ・秋惜しむ       川に出て舟あり乗りて秋惜しむ       上村 占魚
数珠買ひて伊予路の秋を惜しみけり     竹中 しげる
      秋惜しむビルの谷間のカフェテラス     林 康子
      晩学の過ぎゆく一日秋おしむ        新井 庄作
  ・秋深し       手術待つ妻の冗舌秋深し          塚原 游子
      病窓の小さき窓も秋深む          塚原 路子
      看護婦は教え子なりき秋深む        尾形 愁思
      秋深し何処まで届く山の鐘         松田 美子
      病状の人訪ふたびに秋深し         高浜 虚子
      秋深し物故と印す校友簿          須山 重信
  ・行く秋       行く秋の虹の半分奈良にあり        広瀬 直人
      行秋や長子おれども家継がず        長谷川 零余子
      愛憎の夢も現も行秋ぞ           小畑 一天
行く秋やすぐたちやすき旅の刻       成瀬 正とし
  ・冬隣       冬隣母呼べば出る甘えごゑ         野沢 節子
      煎餅を焼く手くるくる冬隣         江原 博子
  ・秋日       龍踊りや社頭の秋日捲き込んで       下村 ひろし
      北へ帰る子に秋の日の消し難き       内海 はま子
  ・秋日和       縁側に母の居そうな秋日和         高石 敏子
      サハリンも見えさいはての秋日和      小島 海王
  ・天高し       天高く人生なんと恥多き          鈴木 真砂女
      天高し始業の鐘をつきにけり        井上 雪
      秋高し空より青き南部富士         山口 青邨
  ・爽やか       爽やかに娘にいひ負けて掃きつゞけ     星野 立子
  ・秋晴       秋晴れのどこかに杖を忘れけり       松本 たかし
      釣り船が島のまはりに秋晴るゝ       五島 直樹
  ・秋の空       秋の空高きは深き水の色          松根 東洋城
      行先の都の塔や秋の空           炭 太祗
      去るものは去りまた充ちて秋の空      飯田 龍太
  ・秋の山       ぶらり旅秋の山見て手相見て        杉浦 一枝
      女湯もひとりの音の山の秋         皆吉 爽雨
      山粧ふ一灯で足る露天の湯         菅崎 磨もる
      山彦とゐるわらんべや秋の山        百合山 羽公
      声あげて父母を呼びたし秋の山       阿部 みどり女
  ・待宵       待宵の伊予に着きたる遍路かな       星野 椿
待宵や孫来る頃と門に佇ち         近藤 牛歩
  ・月         名月やしばしこの世を透明に        高橋 幸子
  ・十三夜、後の月       遠ざかりゆく下駄の音十三夜        久保田 万太郎
      見納めが母の口癖十三夜          田邊 えりな
      子の不幸背負ひてやりたや十三夜      山本 公夫
      塾の子の影をつらねて十三夜        栗山 妙子
      円き石あれば腰掛け十三夜         原田 清正
      栗羊かん妻と食うぶや後の月        楠本 憲吉
  ・居待月       帯ゆるく締めて故郷の居待月        鈴木 真砂女
  ・寝待月       平均寿命過ぎれば余禄寝待月        的井 健朗
  ・更待月       子の帰宅いまだ更待月いまだ        作田 真代
  ・霧       忽ちの霧にまりもの色変り         谷口 雲崖
      露寒の齢いつはる髪を染む         大野 比呂子
  ・秋の雨       点滴の針あと蒼し秋黴雨          成田 郁子
      やまざとの瀬にそう旅路秋の雨       飯田 蛇笏
      秋の雨しづかに午前をはりけり       日野 草城
  ・秋の風       秋風のかがやきを云ひ見舞客        角川 源義
  ・色なき風       埴輪の目色無き風を通しけり        工藤 宏子
  ・秋の声       流木をあげし砂浜秋のこゑ         藤木 倶子
      秋の声くるしき息をひそむれば       石田 波郷
      秋声を聴けり古曲に似たりけり       相生垣 瓜人
  ・水澄む       水澄みて恋をする瞳がよくのぞく      加藤 知世子
      さゞなみをたゝみて水の澄にけり      久保田 万太郎
水澄むや忘れぬことを供養とす       牧川 晶子
  ・秋の山       山襞の一つ一つに秋の翳          塚原 まさし
      信濃路やとこ迄つゞく秋の山        正岡 子規
  ・秋の浜       秋の浜たくし上げたる脚白し        塚原 游子
  ・秋夕焼       校歌まだ歌えるふしぎ秋夕焼        渡邊 禎子
  ・赤い羽根       小走りの看護婦胸に赤い羽根        塚原 游子
      補助椅子や隣りも胸に愛の羽根       水原 秋桜子
      赤い羽根つけてどこへも行かぬ母      加倉井 秋を
      赤い羽根袈裟につけたるお僧かな      獅子谷 如是
      赤い羽根つけてほほえみ返される      横地 妙子
      回診の白衣の胸に赤い羽根         木元 光世
      赤い羽根つけたる夫と書肆に会ふ      小笠原 あや子
  ・体育の日       万歩計先ず買ひに行く体育日        山田 節子
  ・文化の日       文化祭八岐大蛇の尻尾の子         文挟 夫佐恵
  ・新米       一つまみ新米あげし祠かな         池内 たかし
      帰省せし顔新米の湯気の中         伊沢 正江
      新米のまことに白し有難し         岸 風三楼
      病む母の粥にまず炊く今年米        清水 道子
      赤飯に新米とある婚の宴          飯田 弘子
      縁談や土間の新米夜も匂ふ         鈴木 達弥
      神棚へまず新米の一と握り         羽吹 利夫
      新米にまだ草の実の匂ひ哉         与謝 蕪村
      米櫃を干して新米満しけり         加藤 あき江
  ・新酒、新走       新酒古酒みちのく人と酌み交す       高野 素十
      笑い皺ふかめし翁新走           長谷川 和子
  ・利酒(ききざけ)       妙齢にして利酒の好敵手          岡本 雅洸
  ・秋の酒       おい癌め酌みかはそうぜ秋の酒       江國 滋
  ・濁り酒(にごりざけ)       味噌可なり菜漬妙なり濁り酒        坂本 四方太
  ・温め酒(ぬくめざけ)       大祖母やひとりで酒を温むる        中田 みずほ
  ・栗飯       栗おこわほのかに母の匂ひせり       後藤 ハルエ
  ・きのことり       きのことり奥へ奥へとわらべ唄       加藤 知世子
      茸狩や山のなじみのはひり口        服部 土芳
      知り尽くす人に付きゆく茸山        西本 ゆき
      たけがりや見付けぬ先のおもしろさ     山口 素堂
  ・芋煮会       芋煮会昼酒の酔脚に来る          石山 芳亭
      月山の雲の犇めく芋煮会          後藤 杜見子
  ・夜食       帽おいて田舎駅長夜食かな         池内 友次郎
      人の顔見つつ食べゐる夜食かな       上村 占魚
  ・蕎麦掻       そばがきを吹きつつ喰べて人恋し      野々宮 綾子
  ・とろろ汁       物分かりよすぎて弱気とろろ汁       中村 苑子
      とろろ汁何かと齢のせゐにして       中村 菊一郎
      数年は生きるつもりのとろろ汁       秦 夕美
  ・茸汁       訥々と父の手紙や茸汁           芝原 美紀子
      合鍵で松茸飯を置いてきし         伊佐 利子
  ・冬瓜汁       母逝きて冬瓜汁の遠くなり         小松 弘枝
  ・しめじ飯       しめじ飯炊いて帰郷の子と夕餉       板谷 つゆ子
  ・零余子飯       兄姉も老いて母の忌零余子飯        笹倉 淑子
  ・柚味噌       手作りの柚子味噌母の味なりし       遠藤 幸子
  ・菊膾(きくなます)       ただ二字で呼ぶ妻のあり菊膾        平畑 静塔
      余生いま夢見にも似る菊膾         谷内 茂
・氷頭膾(ひずなます)       母あらば年に一度の氷頭膾         南 ひさ子
      招かれし顔ぶれ親し氷頭膾         三浦 八重
  ・新蕎麦、走り蕎麦       新蕎麦を打つとて老師襷(たすき)せり    高橋 安子
      新蕎麦や山の湯宿の昼餉にて        上条 築子
      相客もなき山の湯に走り蕎麦        金森 柑子
  ・鮎うるか       何よりも父の好みし鮎うるか        原 喜久
・きりたんぽ       食欲の秋に珍重きりたんぽ         菊池 さつき
      きりたんぽ焼け来し味噌の香りきし     堀内 順子
      きりたんぽ秋田訛がよくて食ぶ       小原 琢葉
  ・からすみ       酒のまぬ妻にからすみ分け惜しむ      福田 紀伊
      からすみや父と酌みしも懐かしき      清水 欣一
  ・衣被       里の子のよき名を持てり衣被        成瀬 栄一
  ・枝豆       枝豆をつまむ幼児と晩酌す         矢島 渚男
  ・べったら市       べったら市夜も匂ふなり麹樽        吉田 北舟子
      べつたらの甘かりし世も父母もなき     林 翔
  ・稲雀       皆飛ぶに未だ食うてゐる稲雀        雪 淑子
  ・案山子       其許は案山子に似たる和尚かな       夏目 漱石
案山子翁あち見こち見の芋嵐        阿波野 青畝
      嫁欲しき村に美男の案山子立つ       堀越 浦人
      父の物着る貫禄の案山子かな        町田 綾子
      吾よりも流行を著て案山子かな       高橋 頼子
  ・鳴子       嫁入りの行列囃せ鳴子引け         島田 青峰
  ・稲刈       稲負うて却って道をよけくれぬ       池内 たかし
      山影となりゆく稲を刈りにけり       小黒 葭波子
      明日は稲刈る話など露天の湯        和田 順子
  ・刈田       刈田の子とんぼがへりをして遊ぶ      白川 朝帆
      待ちかねて雁の下りたる刈田かな      小林 一茶
      近づけば野鶴も移る刈田かな        杉田 久女
  ・稲架(はさ、はざ)       稲架を組む男のおけさ夕日呼び       福田 甲子雄
      稲架組んで水郷の景新なり         高野 素十
      子ら刈つて先生稲架へ掛けてをり      西山 絹江
      稲架襖恋の襖となることも         斎田 鳳子
  ・ひつじ田       花嫁が行くひつじ田の晴れの日に      村山 古郷
  ・秋耕       秋耕におのれの影を掘起す         西東 三鬼
      富士とほくありて秋耕ひとりなり      松沢 白揚子
  ・秋祭       鬼の面とれば教え子秋祭          沼田 真紀
・おくんち(長崎くんち)       長坂に歓声飛び交ひくんち晴        牧島 桐子
      おくんちや締めてきりきり博多帯      成瀬 桜桃子
      蛇踊りの宙にあるときふくらめり      坂口 晴子
      おくんちの緋の毛氈に猫も居る       下村 ひろし
      シャギリ澄むくんち初日の朝まだき     下村 ひろし
      空が酔ふ笛の一節くんち来る        中尾 杏子
      龍踊りの楽よりも疾く玉を追ひ       岡部 六弥太
  ・時代祭       殿(しんがり)は時代祭の笙の笛       菖蒲 あや
      白雲に時代祭の毛槍飛ぶ          辻本 斐文
      惜しみなく地擦る束帯時代祭        西本 一郎
  ・鞍馬の火祭り       火祭りに揉まれ来し髪匂ひけれ       山下 喜子
  ・顔見世       顔見世やははの好みし雀鮨         植木 啓子
  ・村芝居       善玉も悪玉も酔い村芝居          吉田 鴻司
  ・障子貼る       良き使者を迎える障子貼りにけり      古川 すみ子
  ・鹿       老鹿の眼のただふくむ涙かな        飯田 蛇笏
      蕎麦太きもてなし振りや鹿の声       夏目 漱石
      四阿に入り来し鹿と雨宿り         浜中 柑児
      旅ごろもひつぱる鹿にあきれける      阿波野 青畝
  ・渡り鳥、小鳥来る、鳥渡る       人はみな旅せむ心鳥渡る          石田 波郷
      渡り鳥仰ぐ一生旅の思ひ          村越 化石
      小鳥来て何やら楽しもの忘れ        星野 立子
      小鳥来る森のテラスのオムライス      小野 智恵
      葬列や数人あふぐ渡り鳥          高柳 重信
      看取りにも平穏の日々小鳥来る       田中 あかね
      噴煙のある日は高く鳥渡る         圖市 星風
      波荒き襟裳岬や鳥渡る           中川 水歩
      鳥渡る老の目に見えかくれして       高橋 佐与
      小鳥来て午後の紅茶のほしき頃       富安 風生
      晩学に適ふ卓袱台鳥渡る          高野 福江
  ・鶴来る、鶴渡る       天の声空へひびきて鶴渡る         森 重昭
      朝空は鏡のごとし田鶴わたる        大橋 桜坡子
  ・雁       けふからは日本の雁ぞ楽に寝よ       小林 一茶
  ・鵯(ひよどり、ひよ、スズメ目ヒヨドリ科)
      遠まきに鵯の來ているうめもどき      八木 荘一
  ・鵙(もず)       父母を呼ぶごとく夕鵙墓に揺れ       飯田 龍太
      子がなくて白きもの干す鵙の下       桂 信子
  ・鷹       鷹渡る傷だらけなるこの山河        富樫 均
      梵鐘に残る弾痕鷹渡る           玉城 一香
  ・啄木鳥       啄木鳥を頭上に聞きて宮大工        寿賀 義次
  ・鶺鴒(せきれい)       鶺鴒や水際明りに二三匹          鈴木 花簑
      鶺鴒の尾を振りきそふ早瀬かな       尾崎 紅葉
・鯊(はぜ)       恨み顔とはこのことか鯊の顔        能村 登志カ
  ・鮭・はららご(いくら)       オホツクの夜々の海鳴り鮭の秋       小島 海王
      はららごの女の指をこぼれけり       黒田 杏子
      秋鮭を食べ人恋の重ね衣          手塚 美佐
  ・秋鯖       秋鯖やまだ日の高い酒となる        永井 啓夫
  ・蓑虫(みのむし)
      自販機に蓑虫揺るる無人駅         寒川 雅秋
  ・芒、薄       ちる芒寒くなるのが目にみゆる       小林 一茶
  ・野沢菜       到来の野沢菜朝の餉にそえて        清沢 房男
  ・紅葉       ほとほどに老いて紅葉の山歩き       能村 登四郎
      山彦の我れを呼ぶなり夕紅葉        臼田 亜浪
      一人さり一人の湯浴み紅葉宿        船坂 好弘
山の湯や紅葉を払う脱衣籠         太田 小夜子
      風ばかり渡る吊り橋谷紅葉         大原 一花
      父母の墓ありて紅葉の山親し        加々美 鏡水
      野仏の足元つつむ草紅葉          福嶋 照子
      蒲紅葉して静かなる大樹かな        高浜 虚子
      老いの村はげましつゝも紅葉狩       白石 天留翁
      石炭の尽きし山々紅葉せる         山口 誓子
      紅葉より滝ちる谷間々々かな        正岡 子規
      門前に寺あり酒あり夕紅葉         内藤 鳴雪
      道すがら拾ひし紅葉栞とす         高須 芳美
  ・楓紅葉       沼楓色さす水の古りにけり         臼田 亜浪
  ・銀杏黄葉       御堂筋北ゆくほどに銀杏の黄        宮本 藻屑
  ・蔦紅葉       教会の天まで這ひて蔦紅葉         菊島 登
  ・木の実       よろこべばしきりに落つる木の実かな    富安 風生
      木の実落つ別れの言葉短くも        橋本 多佳子
      林道や木の実を落す鵯の声         水原 秋櫻子
      一病を支へをりけり木の実酒        山川 掬水
      はやされてまだまだ廻る木の実独楽     松田 美子
      手招きて木の實拾はせ母たのし       今井 つる女
      美しき木の実なりせば墓に置く       菖蒲 あや
      暫しゐてまた木の実落つ父母の墓      草間 時彦
  ・団栗       逆上がり出来てどんぐりこぼしけり     岡村 紀洋
      団栗の己が落葉に埋れけり         渡辺 水巴
  ・菱の実       菱採りのわらべ手掻きの盥舟        下村 ひろし
  ・落花生       落花生抜く砂飛ばし九十九里        本川 晴代
  ・落穂       落人の墓に落穂を仏花とす         阿波野 青畝
      伸びてきし落穂拾ひの影法師        軽部 烏頭子
  ・萩       風の音や汐に流るる萩の声         幸田 露伴
  ・草虱       通るもの見逃さずつく草虱         右城 墓石
  ・藪虱       藪虱払ひ独りの試歩終る          藤沢 周平
  ・木犀       木犀の香や年々のきのふけふ        西島 麦南
  ・実紫(みむらさき、小紫の異名/クマツヅラ科の落葉低木)
      島影や実むらさきのみ色濃けれ       原田 種芽
  ・数珠子(ずずこ、じゅずだま)       思い出す顔皆少女数珠子採る        西谷 文子
  ・みせばや(ベンケイソウ科の多年草、タマノオともいう)
      みせばやのむらさき深き葉も花も      山口 青邨
  ・猫じゃらし・狗尾草(えのこぐさ)
      父の背に睡りて垂らすねこじゃらし     加藤 楸邨
      木曽に入る秋焦茶の猫じゃらし       森 澄雄
  ・瓢箪(ひょうたん)       几帳面もときにうとまし青瓢        永井 みどり
  ・通草(あけび)       町の子に山の子がとる通草かな       川口 利夫
  ・烏瓜       落日の落し子ここに烏瓜          但馬 美作
      提げ来るは柿にはあらず烏瓜        富安 風生
      蔓引けば手応え遠く烏瓜          岡部 蕉露
      荒れ庭や烏瓜三っ浮くごとし        下見 伯水
  ・菊       わが老をわがいとほしむ菊の前       富安 風生
      菊の鉢廻転ドアに抱き悩む         吉屋 信子
      湯壺から首丈出せば野菊かな        夏目 漱石
      菊の香や奈良には古き仏たち        松尾 芭蕉
      今更と思へど欲しき菊枕          古賀 まり子
  ・吾亦紅       故里に待つたれもなし吾亦紅        武田 金子
  ・鍾馗蘭       鍾馗蘭思ひもかけぬ人に会ふ        山尾 かずひろ
  ・石榴の実       石榴の實噛めば想い出遥かなり       高浜 年尾
・菱の実       菱採りのわらべ手掻きの盥舟        下村 ひろし
  ・紫蘇の実       紫蘇の実や母亡きあとは妻が摘み      成瀬 櫻桃子
  ・柚子(ゆず)       柚子の香や高級料理めかす妻        山口 青邨
      寺の子や手玉の如く柚子を出し       波多野 爽波
      柚子の香や秋もふけゆく夜の膳       永井 荷風
      柚味噌にさらさらまゐる茶漬かな      高浜 虚子
      柚子味噌やひとの家族にうちまじり     岡本 眸
      古家や累々として柚黄なり         正岡 子規
  ・馬鈴薯       ほこほこの馬鈴薯をバター滑り落つ     山口 澄子
  ・唐辛子       燃ゆる間がいのち女と唐辛子        三橋 鷹女
  ・酢橘(すだち)       青すだち愛でゐて旅の詩情育つ       加藤 知世子
  ・橙       橙をもぐや故郷へつづく空         武田 千津
  ・檸檬(レモン)       嘘を言ふ痛み紅茶に夜のレモン       池谷 彩
      絵葉書の巴里の青空レモン切る       下山 芳子
  ・苦瓜・ゴーヤ       夫植えし反戦ゴーヤ鈴生に         宮城 礼子
・栗   栗剥いて残業の娘の帰り待つ        岡村 喜代子
      栗多き母の栗飯変るなし          鈴木 栄子
      知らぬ子とあうてはなれて栗拾う      藤後 左右
      道問へば栗拾ひかととはれけり       赤星 水竹居
      茹栗や胡坐巧者のちいさい子        小林 一茶
  ・無花果       無花果剥き幼な馴染のたれやかれ      鷲谷 七菜子
  ・柘榴       柘榴熟れ村の噂は二た廻り         椎野 美代子
  ・朱欒(ざぼん)、晩白柚       霧の阿蘇晩白柚を剥く香りあり       加藤 楸邨
  ・青蜜柑       湯の小屋の前は海峡青蜜柑         梅村 達子
青蜜柑晩婚に悔なかりけり         池田 冨美
      紀の路行く山は蜜柑の吉野かな       宝井 其角
  ・金柑       金柑の一樹とありし少年期         宮地 玲子
      乳児泣きつつ金柑握り匂はしむ       加藤 楸邨
      金柑にひよどりさわぐ日和かな       田中 汀a
  ・林檎       牧の娘は馬に横乗り林檎かむ        小野 白雨
      我が恋は林檎の如く美しき         中川 富女
      くるくると林檎剥きをり聞き上手      高橋 由子
  ・柿       柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺        正岡 子規
      亡き夫の植ゑしが柿のたわわなり      斎藤 阿津子
      熟柿吸ふ行儀作法はさておいて       西村 澪
      老い母は噂の泉柿の秋           草間 時彦
      夜々冷えて柿甘くなる山の音        野沢 節子
  ・松茸       弁当の蓋に分かちて松茸飯         足立 幸信
      病み抜けし夫へ松茸飯を炊く        曽我部 多美子
      松茸の香を吹きあげて炊飯器        下山 宏子
  ・舞茸       舞茸を戸板に並べ山の市          佐々木 春子
  ・湿地(しめじ)       しめじ飯炊いて帰郷の子と夕餉       板谷 つゆ子
  ・松手入       鎌倉の寺つなぐ道松手入          松崎 鉄之介
  

「俳句読本」に登場した「俳諧師達」と「発句集」その一「元禄期まで」

「俳句読本」に登場した「俳諧師達」と「発句集」その二「元禄期以降」


「俳句読本」に掲載した俳句集[春]

「俳句読本」に掲載した俳句集[夏]

「俳句読本」に掲載した俳句集[冬]

「西国山人の徒然草」

「俳句読本」ホームページ