「俳句読本」に掲載した俳句集[冬の部]
立冬から立春まで
十一月の俳句
季題・行秋 行秋の一人の起居にも馴れて 星野 立子
行く秋やはらから老を憚らず 梅澤 キミ
・暮の秋 帰り来て父母なき山河暮の秋 佐藤 慈童
・晩秋 晩秋や愛の渇きに人恋ふる 斎藤 ふじの
・秋深む 晴耕に雨読に深みゆく秋ぞ 渡部 抱朴子
秋ふかみゆく身ほとりの草も木も 桂 信子
・冬近し カチューシャを妻が唄へば冬近し 松井 ふみを
・冬を待つ 冬を待つ用意かしこし四畳半 正岡 子規
・冬隣 林道のはや閉ざされて冬隣 藤井 玲
・十一月 牛減りて十一月の牧となる 森田 峠
あたたかき十一月もすみにけり 中村 草田男
今日よりは十一月の旅日記 星野 立子
雨が消す十一月の草の色 大島 早苗
白湯をつぐ湯呑に十一月の昼 桂 信子
・立冬、冬にいる 山の温泉に百姓あそび冬に入る 長谷川 浪々子
立冬の女生きいき両手に荷 岡本 眸
菊の香や月夜ながらに冬にいる 正岡 子規
あたゝかく冬に入りたることうれし 三澤 久子
・冬めく 欠航といふも冬めくもののうち 高野 素十
・冬来たる 冬来れば母の手織りの紺深し 細見 綾子
山の子が独楽をつくるよ冬が来る 橋本 多佳子
冬来るや銭の話にまた戻り 大野 林火
・初冬 初冬や竹切る山の鉈(なた)の音 夏目 漱石
惜別や初冬のひかり地に人に 赤城 さかえ
浪々のふるさと路も初冬かな 飯田 蛇笏
鴨の子のひく波ひかる初冬かな 飯田 龍太
子らならび跳び箱ならび冬はじめ 近藤 實
丸太積みあげて木曽路の冬はじめ 永田 トシ子
・小春 日々癒えてゆく恋の傷小春かな 中村 嵐楓子
小気味よき小鯛の当たり小春凪 塚原 游子
玉の如き小春日和を授かりし 松本 たかし
小春日や杖一本の旅心 村越 化石
鹿笛は天与の音色小春かな 倉田 しげる
水尾よぎる船も水尾曳く小春凪 山崎 冨美子
・凩(こがらし) 凩や海に夕日を吹き落す 夏目 漱石
木がらしや目刺にのこる海のいろ 芥川 龍之介
木枯しのあと大いなる訃がひとつ 堀米 秋良
路地住みの終生木枯きくもよし 鈴木 真砂女
凩や日も照り雪も吹き散らし 三浦 樗良
・初時雨 母子今日はフランス刺繍初しぐれ 楠本 憲吉
初時雨これより心定まりぬ 高浜 虚子
厨の火消すやほどなき初時雨 渡邊 千枝子
四条濡れ五条濡れざる初時雨 長谷部 信彦
鳶の羽も刷ひぬはつしぐれ 向井 去来
・時雨 母葬る土美しや時雨降る 橋本 多佳子
京は時雨嵯峨は夕日に竹を伐る 水落 露石
しぐるるや駅に西口東口 安住 敦
しぐるるや低き軒かる京の町 高木 久子
朝しぐれ月を残してゐたりけり 関口 恭代
・冬の雨 両国に古りし下駄屋冬の雨 勝又 一透
・初霜 初霜や物干竿の節の上 永井 荷風
・霜 音立てて産湯捨てらる霜の庭 鈴木 松山
・神の留守 境内に車一台神の留守 塚原 游子
通い路の一礼し行く神も留守 松本 たかし
神の留守縁談一つ握りをり 文挟 夫佐恵
しやぶしやぶと肉を揺らして神の留守 山田 靖子
願い事無くて詣れり神の留守 福島 安子
・神迎 神迎ふ一山六社みな灯り 草村 素子
・夜神楽 夜神楽や鼻息白し面の内 宝井 其角
・冬構 この雨がくればみちのく冬構 村上 三良
冬構赤城榛名の風に棲み 吉村 ひさ志
・北窓塞ぐ 北窓を塞ぎつゝある旅の宿 高浜 虚子
・十夜粥 運び来る僧皆若し十夜粥 原 石鼎
年寄におしゃれの勧め十夜僧 安浦 典子
・酉の市 酉の市ただ押し合ひて日本人 小池 一覚
・袴着 袴着に添へし母の手払はるる 増元 武
・帯解 帯解の二人が待てり写真館 井ヶ田 杞夏
・七五三 子が無くて夕空澄めり七五三 星野 麦丘人
命減らし産みし子ひとり七五三 石川 昌子
母の着し晴着子が着て七五三 板橋 喜美
七五三兄弟軍服着し記憶 田中 棟麻
・千歳飴 千歳飴地に曳きずって手離さず 有働 享
振袖の丈より長し千歳飴 石塚 友二
・北窓塞ぐ 北窓を塞ぎ海との情隔つ 仙道 房志
・千枚漬け 千枚漬け京の冷たき雨に会ひ 林田 脩
・酢茎漬 ふるさとを思へば遠し酢茎漬 村山 古郷
・茎漬 後添として茎漬の塩加減 岡本 麻子
茎漬のこの手に恋の日もありぬ 片桐 久江
・浅漬 浅漬けの秘伝といへる塩加減 谷口 公子
・熱燗 熱燗に息子の寡黙ほぐれそむ 足立 百合
・焼芋 焼芋を食うて政治の話かな 相島 虚吼
・湯豆腐 湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 久保田 万太郎
湯豆腐のをどり出でたる白さかな 加藤 晃規
湯豆腐や使い古りたり夫婦箸 小野 桃水
湯豆腐や男の嘆ききくことも 鈴木 真砂女
・おでん 胸のすく毒舌おでん酒に酔ふ 岡本 春人
・鋤焼 鋤焼きやくろがねの鍋にほひたつ 加藤 晃規
牛鍋や同級生の二割欠け 武田 伸一
・石狩鍋 ミラノから石狩鍋を食ひに来ぬ 田口 彌生
・冬瓜汁 さばさばと生き来て熱き冬瓜汁 波羅 綾子
・けんちん汁 けんちん汁母となる子とぬくめ合ふ 浅見 紀美子
妻留守の夜はぬくめてけんちん汁 加藤 武夫
けんちん汁母ありし日は貧しかり 松崎 鉄之介
・のっぺい汁 国訛り寄りて忌日ののっぺい汁 山本 青壺
・風呂吹 風呂吹にとろりと味噌の流れけり 松瀬 青々
夜はそぞろ風呂吹などもよかるべし 石坂 友二
風呂吹に機嫌の箸ののびにけり 石田 波郷
・根深汁 根深汁老いてうなずくことばかり 大石 白夢
乱雑に年とるばかり根深汁 沢木 欣一
根深汁長子やさしく頼りなく 大平 芳江
・なめこ汁 なめこ汁朝昼晩とうまかりき 山田 みづえ
・三平汁 海峡を望みてすする三平汁 源 鬼房
・粕汁 粕汁にぶち切る鮭の肋かな 石塚 友二
・葱鮪鍋(ねぎまなべ) 葱鮪鍋いつこく者を父に持ち 丸山 しげる
・夜鳴蕎麦 更くる夜の愛しきものに夜泣きそば 中村 春逸
・鍋焼うどん 寡婦ふたり鍋焼うどんに舌こがす 東郷 喜久子
・牡蠣(かき) 牡蠣鍋の葱の切っ先そろひけり 水原 秋桜子
牡蠣くはすマルセイユまで此処発ちし 京極 杞陽
本心を突かれて牡蠣の酢にむせぶ 山中 宏子
夕食の酢牡蠣に夫と酌み交す 和野 幸子
風邪熱の解けし夕餉の牡蠣の味 江口 竹亭
・きりたんぽ きりたんぽ焼くやどの子も憎からず 縄田屋 朗々
きりたんぽ秋田訛がよくて食ぶ 小原 啄葉
・沢庵> 夫婦の距離埋るかやけに噛む沢庵 鷹島 牧二
・芽キャベツ 芽キャベツをころころ茹でて母若し 北島 智子
・鯛焼 鯛焼きや姉妹病みても笑いぐせ 安井 昌子
鯛焼の一つが言へず三つ買ふ 間客 あや子
・紅葉酒 母と来て京に一夜の紅葉酒 岩井 久美恵
・麦まき 麦を蒔く風強ければ躬(み)を曲げて 中島 斌雄
麦蒔やいつまで休む老一人 高浜 虚子
遠山に雲ゆくばかり麦を蒔く 桂 信子
・大根引き 大根引き馬おとなしく立眠り 村上 鬼城
吾も老いぬ汝も老いけり大根馬 高浜 虚子
大根引く岬の灯台点るまで 赤松 徳二
大根引くけふを峠といふ日和 林 のぶ子
日の当る向きに富士あり大根干す 加々美 鏡水
大根の器量あしきは切干に 赤迫 文女
鉢まきをとれば若衆ぞ大根引 志太 野坡
・達磨忌 晩學にして不退轉達磨の忌 吉井 莫生
・鶴 鶴来るや新藁の香の納屋に満ち 大岳 水一路
渡り来しばかりの鶴の高鳴けり 古川 弘子
・鷹渡る 白峰の焼くる朝空鷹わたる 三浦 悟礼子
雲走り鷹の渡るをうながせり 田村 一翠
・鴨 見張り鴨鳴けば百羽の羽音立つ 中島 京子
・白鳥 白鳥のつぎつぎとつく身を反らし 鷹羽 狩行
・鰤(ぶり) 品書きに鰤かきたして鰹消す 鈴木 真砂女
・鰰(はたはた) 大樽に鰰寿司を仕込む海女 阿部 月山子
・柳葉魚(ししゃも) 望郷や子持柳葉魚の子を噛めば 木内 彰志
・野沢菜 到来の野沢菜朝の餉にそえて 清沢 房男
・石蕗の花 静かなる月日の庭や石蕗の花 高浜 虚子
・帰り花 帰り花人の愁ひに添ふごとく 塚原 麦生
一歩退いて世に処する齢返り花 福井 君影子
海を見に父をつれだす返り花 野木 桃花
裁かれて汚職居直る狂い花 藤平 静々子
・柊の花(ひいらぎのはな) 柊の花や魚屋入りし木戸 野村 喜舟
・茶の花 茶の花や杓子離れのよき姑 安藤 吐月嶺
茶の花やほとりにいつも師の一語 石田 波郷
茶の花や母の形見と着ず捨てず 大石 悦子
・山茶花(さざんか) 山茶花や雀顔出す花の中 松岡 青蘿
・木の葉散る 木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ 加藤 楸邨
・冬紅葉 沈む日を子に拝ませぬ冬紅葉 長谷川 かな女
気を張れば病を忘れ冬紅葉 星野 立子
・紅葉散る 盃を止めよ紅葉の散ることよ 高野 素十
散るのみの紅葉となりぬ嵐山 日野 草城
・落葉 母恋しければ落葉被り掃く 長谷川 かな女
白き手の病者ばかりの落葉焚 石田 波郷
被爆地や鳩と落葉と乳母車 野見山 ひふみ
子は母に右手あづけて夕落葉 中村 汀女
からからと落葉追ひ来て追ひ越しぬ 星野 立子
川澄むや落葉の上の水五寸 炭 太祇
・ななかまど ななかまどわが家の方へ山幾重 相馬 遷子
・葱 葱洗ふよき夫たらむ古稀なれば 木元 誠一
・蒟蒻(こんにゃく) 蒟蒻堀夫婦足延べ休みをり 清水 山彦
どさと置く蒟蒻芋の土煙 岩田 由美
昆弱と柿とうれしき草の庵 松尾 芭蕉
・金柑 家々に金柑實り島日和 杞 未行
・干し柿 柿干して日当りのよき家ばかり 松本 たかし
柿干して晩年のなほ無策なり 小島 照子
・新海苔 新海苔の炙り工合を説きてをり 金井 典子
朝市に新海苔匂ふ海苔どころ 斎藤 道子
十二月の俳句
季題・十二月
主婦の座に定年欲しき十二月 塙 きく
人込みに白き月見し十二月 臼田 亜浪
欲しきもの買ひて淋しき十二月 野見山 ひふみ
住所録座右に置きて十二月 本田 三千代
十二月笑顔のうつる鏡買ふ 一ノ木文子
・冬めく ベッドより遠くが見えて冬めきぬ 菖蒲 あや
・冬至 かんばしき薬のみたる冬至かな 増田 龍雨
冬至粥京の千枚漬のあり 杉森 干柿
暖かに冬至の宵を小買物 星野 立子
・師走 人込みに居て我孤独街師走 塚原 游子
・年の暮 耳も目もたしかに年の暮るるなり 阿部 みどり女
継がぬ子の家業手伝ふ年の暮 佐野 たけ子
終りなき主婦の仕事や年の暮 丸谷 恵子
・大年 子ら揃ひ来て大年の夜となりぬ 大洞 真砂
大年にかぎつて雪の降りにけり 小林 一茶
・大晦日 やゝ早き退院許可や大晦日 谷川 紫竹
・除夜 あたたかく人と別るる年の夜 山田 みずえ
除夜祭の巫女の溜りへ蕎麦とどく 遠藤 勝亮
除夜の序の一韻老母在すなり 池上 樵人
ひとひとりこころにありて除夜を過ぐ 桂 信子
除夜の鐘搗くしんがりに並びけり 南木 美保子
・短日 短日の名画座で逢ひそれつきり 木村 佳寿江
短日や母に告ぐべきこと迫る 中村 草田男
聴診器われを離さず暮れ早し 新明 紫明
・底冷 底冷えの京の一日昏れにけり 小堀 華子
・冬日 地下鉄を出て冬の日の既になし 佐藤 漾人
・冬ぬくし 邂逅の心集へば冬ぬくし 稲畑 汀子
・冬霞 いまありし夕日の跡の冬霞 野沢 節子
・冬の空 荼毘の音この凍空へ弟よ 松本 草戊
・冬の月 足曲げて眠る子に添ふ冬の月 保坂 敏子
・冬の雨 垣越しの一中節や冬の雨 永井 荷風
・冬の夜 冬の夜や一人遊びの万華鏡 公江 輝子
・山眠る 落石の余韻を長く山眠る 片山 由美子
安房上総山が眠れば海が吠え 鈴木 真砂女
狼に逢はで越えけり冬の山 正岡 子規
・北風 北風や浪に隠るゝ佐渡ヶ島 青木 月斗
・空風 人間の嘘生きはしる空っ風 能村 登四郎
比叡おろし駅伝走者ごぼうぬき 石田 修岳
・隙間風 すぐ寝つく母いとほしや隙間風 清崎 敏郎
・初雪 初雪をすこし被りて妻帰る 清水 甚吉
初雪のすでに大雪注意報 久門 南
初雪に逢ひたき人の訪れし 高濱 年尾
うしろより初雪降れり夜の町 日野 草城
初雪が大雪となるよき年か 伊藤 政美
・寒夜 老の背に余る夜寒の子の無心 松山 和子
・霜夜 犬の子の鳴くに目ざめし霜夜かな 森 鴎外
誤診かも知れず霜夜の道かへる 小坂 螢泉
終い湯にひと焚き欲しき霜夜かな 北川 千鶴子
・霜柱 戦没の友のみ若し霜柱 三橋 敏雄
・枯野 犬らしくせよと枯野に犬放つ 山田 みづえ
この枯れに胸の火放ちなば燃えむ 稲垣 きくの
・雪野 その奥に水ひびきあふ雪野かな 野木 藤子
・冬田 晩年の母ひとり打つ冬田かな 堀 雅子
・冬日向 一人子のおもちゃで遊ぶ冬日向 山根 きぬえ
・歳暮 お歳暮の雉子の尾長吊りながめ 皆吉 爽雨
・冬休 何回も壁にさかだち冬休 江藤 文子
・社会鍋 社会鍋僅かの銭をそっと入れ 塩川 雄三
後戻り一施の少女社会鍋 安部 睦代
・サンタクロース 街を来るサンタクロースビラ配る 小川 武夫
・クリスマス 聖夜劇髭のサンタは教師の役 樋笠 文
寺の子が主役となりて聖夜劇 高原 喜久郎
雪降らす役を貰ひし聖夜劇 伊保 彩雨
雪が降りクリスマスイブらしくなる 渡辺 登志子
当直医ひとりのために聖菓切る 柴原 一陽
太陽が廊下を渡るクリスマス 鴇田 智哉
あれを買ひこれを買ひクリスマスケーキ買ふ 三村 純也
・忘年会> 月まぶし忘年会を脱れ出て 相馬 遷子
愚直なる生き方でよし年忘 藤井 玲
上座より下座愉しき年忘 古賀 幹人
鍋物によろしき小部屋年忘 森田 峠
・年の市 二人してこまごまと買ふ年の市 村上 鬼城
新婚の嫁と連れ立つ年の市 池田 博子
いち早く小屋がけ出来て年の市 高濱 年尾
・古暦 一日もおろそかならず古暦 高浜 虚子
重き日々ゆくにまかせて暦果つ 松永 珠
・古日記 嫁たりし日の古日記燃やしけり 永山 比沙子
古日記挫折屈折いとほしき 大熊 峰子
・日記買う 生きるべく十年日記買ふ重し 塚原 游子
日記買ふまだ見ぬ吾子へ思ひ寄せ 中村 純代
何時までの餘生と思ひ日記買ふ 杉森 干柿
来年は嫁ぐ日記の厚き買ふ 久米 三汀
・賀状書く 目の悪き友に太字の賀状書く 沼尻 ふく
賀状書くだけの縁を大事とす 片岡 光子
久闊の一言加え賀状書く 村井 杜子
・年惜しむ 年惜しむひとりに墳墓あたたかく 石原 舟月
・年送る 年送る幾年同じ厨事 松山 和子
・煤払い 上野より富士見ゆる日や煤払い 沢木 欣一
煤掃の済みたる寺の鐘響く 川澄 祐勝
煤逃げの校長いまだ帰校せず 小林 呼溪
・煤籠 午後からは洋間とかはる煤籠 土井 淳
・注連飾る 遠く住む子の空き部屋に注連飾る 宮田 富昭
人込みに車押し入れ飾売 大橋 鼠洞
孫を待つチャイルドシート注連飾る 篠崎 太嘉男
・年用意 何にでも老のかけ声年用意 小松 月尚
もの捨つることより始め年用意 藤陵 紫抱
冷蔵庫もう一ぱいや年用意 楠井 光子
年用意米寿の母が取りしきる 多田 悦子
・餅つき 餅搗きし父の鼾声(かんせい)家に満つ 西東 三鬼
餅搗や合いの手の腰ひけてをり 加藤 晃規
餅搗きし杵より絲の如き湯気 荒木 思水
・掛乞 掛乞に出かける髪を結ひにけり 曽我部 ゆかり
・御用納 真顔して御用納めの昼の酒 澤木 欣一
掛け替へて暦めでたし用納 佐藤 眉峰
・札納め 妻に蹤き俄か詣や札納め 村上 鬼城
・針供養 どこへでもつき添ふ母や針納 鈴木 花蓑
・ボーナス 暫くを手触れずにをり子の賞与 中尾 孝子
懐にボーナスありて談笑す 日野 草城
ボーナスの夜や雑踏の中にをり 塚原 游子
・衾(ふすま) 肩衾母にならひて着る夜かな 金子 翠羽
・柚子風呂(ゆずぶろ)
柚子風呂に妻をりて音小止みなし 飴山 実
柚子湯出て夫の遺影の前通る 岡本 眸
・炬燵(こたつ)
夜の炬燵いつも母ゐて入りやすし 増田 達治
・蒲団 冬蒲団妻のかをりは子のかをり 中村 草田男
いとし子のうもれてまろき蒲団かな 長谷川 春草
・炉 炉の番のこの子なかなか法器かな 河野 静雲
・湯湯婆(ゆたんぽ) みたくなき夢ばかりみる湯婆かな 久保田 万太郎
・負真綿(おいまわた) たはむれに被てより夜々の負真綿 山田 孝子
亡き母に似ると言はれて負ひ真綿 永田 青嵐
・ショール
相別れショールに埋む顔なかば 鷲谷 七菜子
・着ぶくれ 着ぶくれて強情・頑固・石頭 西宮 舞
着ぶくれて浮世の義理に出かけけり 富安 風生
・寝酒 手さぐりの寝酒の量をあやまたず 鷹羽 狩行
・鰭酒(ひれざけ) 鰭酒や逢へば昔の物語 高浜 年尾
鰭酒や終生とれぬ佐渡言葉 生田 政春
・玉子酒 嫁してより家族は二人玉子酒 荒井 英子
・熱燗 熱燗やだれもかれもを好きになり 大原 貴彦
熱燗や女なかなか負けてゐず 下村 梅子
ふるさとは今夜も雪か燗熱く 水島 直光
・おでん ひろまりし内緒話やおでん酒 栗原 郁子
おでん煮てありますとメモ妻の留守 西上 禎子
おでんやをでたまであとは覚えなき 岩井 野風男
・納豆汁 外国を巡りをはりて納豆汁 下杉 良子
妻の味亡き母味納豆汁 佐々木 踏青子
納豆の糸靡かせて嫁の座に 倉田 しをり
・雑炊 雑炊の喋り過ぎたる舌を焼き 田辺 レイ
・鍋焼 鍋焼や泊まると決めて父の家 篠田 悌二郎
鍋焼や猫舌もまた父ゆづり 大橋 敦子
・牛鍋 牛鍋や性懲りもなく人信じ 岡本 眸
・粕汁 粕汁や夫に告げざることの殖ゆ 大石 悦子
・蕪汁 ひとり居も馴れれば楽しかぶら汁 永井 荷風
・風呂吹 風呂吹や妻の髪にもしろきもの 軽部 烏頭子
ふろふきの味のとろりと地酒酌む 糸賀 吉蛙
・葛湯 已むを得ぬ一人ぐらしの葛湯かな 岡本 眸
・薬喰 龍神の湯にくつろぎて薬喰 福本 鯨洋
・焼き鳥 やきとりを手に宵闇の路地曲る 川澄 裕勝
・焼芋 焼芋屋知り尽くしたる路地廻る 藤巻 朋子
・鯛焼 幕あひや鯛焼とどく楽屋口 水原 秋櫻子
・べったら漬 べつたら漬ばりばり噛んで誕生日 林 萬壽美
・海鼠腸(このわた) 海鼠腸の仔細は聞かず啜りけり 能村 研三
・晦日蕎麦 子の遠きことにも馴れて晦日蕎麦 小林 希世子
・榾(ほた) ユーカラを聞く白樺の榾を足し 松原 智津子
・炭 小説も下手炭つぐことも下手 久保田 万太郎
・埋火(うずみび)
埋火や夫婦異なる習ひ事 有山 城麓
・暖房 暖房車発車す窓を叩き合ひ 右城 暮石
・冬灯(ふゆともし) カルテにも終章のあり冬灯 橋本 喜夫
・火事(火事は年中あるが冬に多いことから冬の季題)
有線の声の吃りて火事を告ぐ 西浦 一滴
火事見舞あかつき近く絶えにけり 西島 麦南
風向きを見守っている近火かな 高橋 春灯
・冬座敷 結納の品品飾る冬座敷 小野 三紫
・冬ごもり 出不精も神のこころや冬ごもり 蒲生 院鳥
三軒家生死もありて冬籠 村上 鬼城
・柚子風呂(ゆずぶろ)
柚子風呂に妻をりて音小止みなし 飴山 実
柚子湯出て夫の遺影の前通る 岡本 眸
・炬燵(こたつ) 夜の炬燵いつも母ゐて入りやすし 増田 達治
・蒲団 冬蒲団妻のかをりは子のかをり 中村 草田男
いとし子のうもれてまろき蒲団かな 長谷川 春草
蒲団ほす家の暮しのみられけり 西島 麦南
・炉 炉の番のこの子なかなか法器かな 河野 静雲
・日向ぼこ ふところに手紙かくして日向ぼこ 鈴木 真砂女
富もなし名も無し独り日向ぼこ 塚原 游子
じつと見て何も見てゐず日向ぼこ 西山 睦
日向ぼこ只今の今あるばかり 岡部 蕉露
・風邪 夫醫師吾の風邪などとりあわず 嶋田 摩耶子
風邪の子の客よろこびて襖あく 星野 立子
人妻の風邪声艶にきこえけり 高橋 淡路女
・秩父夜祭り 秩父夜祭り御神馬幣をたてがみに 内野 美和子
・義士祭 義士祭や若死したる父母思ふ 山形 理
義士の日や何に触れても静電気 福永 法弘
・寒曉、冬の朝
寒曉の汽笛行手の海祓ふ 山口 誓子
・一茶忌(陰暦十一月十九日)
一茶忌や父を限りの小百姓 石田 波郷
・水鳥 先頭の水鳥威儀を正しけり 内田 霊泉
・鳰(にお)
去り難し江に浮き沈む鳰を見て 徳永 山冬子
・鴨(かも)
鴨下げて休診の札はづしけり 雨宮 虹月
・千鳥 千鳥見てをり学童と同じ窓 中村 契子
・ゆりかもめ ゆりかもめ預けし赤子抱きにゆく 森賀 まり
・鶴 村人にこゝろ許して田鶴遊ぶ 山口 水士英
雪に影落として鶴のひるがえる 下村 非文
・梟 山の宿梟啼いてめし遅し 高浜 虚子
・鯨 鯨潮船かたむけて南進す 柴田 白葉女
・寒鯛 冬の鯛遠き海よりきて紅し 百合山 羽公
・鱈 鱈ちりやもとより酒を熱くして 片山 鶏頭子
・鰤(ぶり) 本物は世に出たがらず寒の鰤 加藤 郁乎
・鮟鱇(あんこう)
鮟鱇の骨まで凍ててぶち切らる 加藤 楸邨
わが友に富める者なし鮟鱇鍋 五味 三千歩
・河豚(ふぐ)
極道に生まれて河豚のうまさかな 吉井 勇
河豚煮るやひとり呟く愛憎劇 石田 波郷
・金糸魚(いとより) 生きがたし金糸魚の身のほろほろと 辻 桃子
・塩鮭 塩鮭の塩きびしきを好みけり 水原 秋櫻子
・海鼠(なまこ)
着流しの男厨に海鼠切る 曲田 泰子
海鼠喰ふ私も進化しそこねて 笠間 圭子
それとなく器量で選ぶ海鼠かな 山脇 睦久
・新海苔 新海苔の艶はなやげる封を切る 久保田 万太郎
・銀杏落葉 銀杏散る童男童女ひざまづき 川端 茅舎
・枯葉 降り積めば枯葉も心温もらす 鈴木 真砂女
・枯葦 枯れ葦やはたはたと立つ何の鳥 寺田 寅彦
・枯野 過去は運にけふは枯野に躓けり 鈴木 真砂女
・草枯れ 子等のものからりと乾き草枯るゝ 中村 汀女
・冬木 逢う人のかくれ待ちゐし冬木かな 野見山 朱鳥
・蜜柑 夜勤への引継帳に蜜柑置く 広瀬 一朗
・千両 いくたび病みいくたび癒えしき実千両 石田 波郷
・八つ手 父に勝るものに背丈や八つ手咲く 神蔵 器
・龍の玉 掃いてゆく箒の先に龍の玉 渋沢 雨亭
・沢庵漬く 沢庵のうまくつかりて日々好日 岩崎 甲子郎
・大根 流れ行く大根の葉の早さかな 高濱 虚子
・人参 人参の豊なる紅シチュー煮る 長坂 由香理
・グリーンネックレス 亡き人の椅子揺れグリーンネックレス 鈴木 晶子
一月の俳句
季題・一月 一月や去年の日記尚机辺 高浜 虚子
・去年今年(こぞことし) 去年今年貫く棒の如きもの 高浜 虚子
・元日 元日や汝れが長寿を喜ばん 藤田 耕雪
まだ会はぬ何十億人千代の春 桑原 三郎
・五日 五日まだ賀状整理に更くる妻 水島 濤子
・松過 松過ぎの又も光陰矢の如く 高浜 虚子
・女正月、小正月
女正月つかまり立ちの子をみせに 中野 三允
女正月厳父の慣れぬ厨ごと 伊阪 美弥子
夜をこめて大根を煮る小正月 細見 綾子
母が家に母のもの着し女正月 山本 洋子
悪口もおのろけのうち女正月 深沢 暁子
・初日 初日まつ心しずかにたかぶりぬ 富安 風生
天悠々地寂々と初日かな 渡部 抱朴子
・お降り(おさがり・三が日に降る雨や雪をいう)
お降りにはなやぎ濡れて巫女往き来 岡部 田鶴子
・成人の日 成人の日の晴着着て墓参り 清崎 敏郎
盛装のままの献血成人日 塚田 正観
成人の日をありがたく老の身も 山口 青邨
成人の晴着の群れに道譲る 原村 進一
・屠蘇 我に過去君には未来屠蘇を酌む 亮木 滄浪
屠蘇干してわれはまさしく高齢者 鈴木 真砂女
・雑煮 患者診しあとの雑煮となりにけり 下村 ひろし
二日目は母の国ぶり味噌雑煮 柳田 涼子
飽食の世にも雑煮はうまかりし 小澤 英子
殖えてまた減りゆく家族雑煮喰ふ 大橋 桜坡子
・賀状 賀状うづたかしかのひとよりは来ず 桂 信子
まだ生きているぞ賀状の面構え 蔵 巨水
犬の名も連ね子無しの賀状来る 桜井 祥子
・年玉 お年玉ちらと見くらべ姉いもと 中山 きりを
お使いの口上上手お年玉 星野 立子
年玉や古く悲しく親の恩 高橋 睦郎
貯蓄型浪費型ありお年玉 山田 弘子
・初電話 無事に年越せしと告ぐる初電話 吉田 きみ
・書初 書初めや負けん気の子の文字太し 新国 園枝
・仕事始め 電話早吾を待ちゐし医務始 五十嵐 播水
司書若し和服に慣れず事務始 加倉井 秋を
謹慎の生徒さとすが初仕事 土屋 尚
石切場仕事始の発破鳴る 阪上 史琅
・蔵開き 蔵開き質屋の女房あずき煮て 三浦 薫子
・新年会 夜は夜の顔ぶれとなり新年会 菊池 共子
語らへば夢の大きく新年会 新村 卓之
・初句会 お悔やみとめでたき話初句会 塚原 游子
・出初式 港町出初のポンプ海へ噴く 岡部 蕉露
海消ゆるほどに放水出初式 中村 正代
街道をせばめて峡の出初式 砥上 白峰
・寝正月 人々のなさけに謝して寝正月 山口 青邨
・七種(ななくさ) 人恋し春の七種数ふれば 加倉井 秋を
あをあをと春の七草売れのこり 高野 素十
・七草粥 七草粥形見の箸を揃へけり 角川 照子
・鏡餅 可も不可もなく生きて割る鏡餅 福田
・万歳 万歳の烏帽子かしぐは酔へるかな 野村 喜舟
・獅子舞 獅子舞の素顔が雨の中を来し 椎津 虚彦
・猿曳き 猿曳や猿に着せたる晴小袖 正岡 子規
・初暦 初暦母となりたる日は去年に 金田 志津枝
未知の日々神に委ねる初暦 景山 筍吉
・初釜 楚々と来て帯の軋みや初茶の湯 前田 靖子
初釜の干菓子紅白千代結び 広瀬 江女
・初写真 初写真長幼序在り一家族 伊藤 松宇
・歌留多(おもに小倉百人一首で遊ぶ)
かるた切る心はずみてとびし札 高橋 淡路女
歌留多読む恋は女のいのちにて 野見山 朱鳥
・破魔矢 病室へ入り来破魔矢の鈴鳴らし 右城 暮石
・初夢 初夢の思ひ出せねどよきめざめ 三浦 恒礼子
初夢の父来てわれを肩車 木田 千女
・初芝居 あの役者この役者なし初芝居 久保田 万太郎
・初稽古 道場に女下駄あり初稽古 高橋 淡路女
・寒稽古 一礼に初心忘れず寒稽古 吉井 莫生
・切山椒 切山椒人の齢を数えつつ 久保 島孝
・小豆かゆ 寝忘れて小昼時分や小豆がゆ 篠原 温亭
・藪入り 母と寝て母を夢むる藪入りかな 松瀬 青々
藪入のことさら母の泣きにけり 細川 加賀
・大寒 寒厳しともすればすぐ涙出て 高濱 年尾
・寒の内 遠来の友あり寒もゆるみけり 藤松 遊子
寒の内子等健やかであれば足る 高木 晴子
しもふりの肉ひとつつみ寒見舞 上村 占魚
・三寒四温 山間の四温を待てる机かな 石川 桂郎
立てかけし橇(そり)に四温の雫かな 原田 青児
知恵の輪のくるりと解けて四温晴 川口 巌溪
老二人三寒四温に身をまかせ 赤松 しづ
・日脚伸ぶ 幼子の又芸の増え日脚伸ぶ 本田 洋子
下校時の背に茜の日脚伸ぶ 工藤 せき子
日脚伸ぶ夕空紺をとりもどし 皆吉 爽雨
海鳴りの夜々を重ねて日脚伸ぶ 水島 直光
けふも撞く時報の鐘や日脚伸ぶ 隣峰寺 好子
・春待つ 春へもう一息の田を登校児 草間 時彦
少年を枝にとまらせ春待つ木 西東 三鬼
我が病癒ゆると思ふ春を待つ 塚原 游子
春待つや掃除身支度かひがひし 中村 汀女
病む父のための子のための春を待つ 深見 けん二
・春隣 春隣闇がふくらみ来るなり 柴田 白葉女
里人の寄り合ひ多き春隣 小林 景峰
産科とふ名札はたのし春隣 中村 汀女
春隣旅の誘いのあれこれと 手塚 涼子
・節分会 夜に入りて訪ふ誰彼や節分会 星野 立子
節分の春日の巫女の花かざし 五十嵐 播水
受験子の部屋に多めの豆を撒く 小西 瑞穂
・山眠る 眠る山或日は富士を重ねけり 水原 秋桜子
山眠る村半分を影に入れ 山田 牛歩
・霰(あられ) 霰打つ暗き海より獲れし蟹 松本 たかし
振袖を打ちはじめたる霰かな 日野 輝子
・霙(みぞれ) 霙うつ夜見の砂丘の汽笛かな 加藤 楸邨
五輪塔のかなたは大野みぞれせり 宮沢 賢治
野をわれを霙うつなり打たれゆく 藤沢 周平
・雪 降る雪や明治は遠くなりにけり 中村 草田男
豪雪の山鳴りて馬ひきもどす 今 鴎昇
雪墜ちて深雪ににぶき音うまる 桂 信子
眉に雪止めて缺航掲示読む 岸原 枯泉
朝市の魚に塩ふるように雪 深沢 暁子
雪の水車ごつとんことりもうやむか 大野 林火
・雪崩 満月の峡押してくる雪崩音 武田 杏人
・雪掻 往診を待ついく度も雪を掻き 松本 菊生
昨日より今日明るしと雪を掻く 木村 敏男
・雪下し 命綱屋根に振り分け雪おろす 細川 葉風
青空に声あらはれて雪卸す 落合 水尾
雪卸し能登見ゆるまで上りけり 前田 普羅
・雪女郎 雪女郎おそろし父の恋おそろし 中村 草田男
・風花(かざはな) 風花や錦絵めきて眼鏡橋 下村 ひろし
・吹雪 地吹雪の駆け降りてくる段々田 森田 かずを
・息白し 泣きしあとわが白息の豊なる 橋本 多佳子
・雪見 船頭の唄のよろしき雪見かな 齋藤 梅子
休日の窓開け放ち雪見酒 佐藤 秀
・雪焼け 酒酌むや雪焼けしるき出羽の人 三島 隆秀
・雪達磨 雪達磨怒らせてわが幼顔 加藤 知世子
会へるとき会っておかねば雪だるま さきのこなみ
雪達磨眼を喪ひて夜となる 角川 源義
雪だるま星のおしやべりぺちやくちやと 松本 たかし
・雪合戦 雪合戦茂吉の歌碑がその楯に 長谷川 耿子
雪合戦わざと転ぶも恋ならめ 高浜 虚子
・雪沓 雪沓を持ちて迎へに来てくれし 近藤 いぬゐ
・雪まろげ 雪まろげ非番看護婦も加わりぬ 星野 麦丘人
もてあます女力や雪まろげ 内藤 鳴雪
・雪投げ 女教師も出て雪投げの大いくさ 牛尾 泥中
・除雪 除雪夫へ未明の熱き飯握る 丸山 哲郎
夜の屋根に女声わき雪おろし 加藤 楸邨
星空の父を呼ぶなり雪卸 中澤 康人
・雪晴 雪晴というまぶしさを歩きたく 稲畑 汀子
・冬虹 冬の虹消えんとしたるとき気づく 安住 敦
・氷 月食の夜を氷上に遊びけり 山口 誓子
叩きたる氷の厚さ子等楽し 中村 汀女
・氷柱(つらら) 山小屋のオンザロックの氷柱かな 成澤 零
軒氷柱ぐるりに垂るる宿に着く 里川 久美子
朝日かげさすや氷柱の水車 上島 鬼貫
・凍る 石狩川流るゝさまに凍結す 大塚 千々二
・霜柱 亡き友は男ばかりや霜柱 秋元 不二男
・冬の月 耳鳴りは宇宙の音か月冴ゆる 林 翔
・寒月 寒月の熱海の宿に遅く着き 車谷 弘
寒月をまたぐに惜しき潦 桂 信子
・寒燈 検査終へ手術告げらる寒燈下 塚原 游子
寒燈の消へてナースの声低し 塚原 游子
・寒の星 リサイタル帰路の昂奮寒の星 岡部 蕉露
寒星のしば瞬くを子と仰ぎ 松尾 立石
歓楽の火を地にしきて冬星座 飯田 蛇笏
・冬銀河 そこに子の冥界あらん冬銀河 松尾 立石
・冬の旅 冬の旅胸に菩提の数珠をかけ 松尾 みち子
・冬の雲 淡路島よぎる冬雲きりもなし 山下 ひろし
・雪起こし(北国で雪の降る前に鳴る雷)
雪起し遠し今宵は加賀境 本多 静江
・冬霞 山幾重妻棲む方や冬霞 大島 四月草
・冬虹 反りかへる冬虹われにも恋ありし 益子 たみ
・初場所 子角力や初番付を一抱へ 吉野 左衛門
・寒声 寒声を使ふ始めは低うして 藤本 美和子
・寒灸(かんやいと)
眉寄せて女将耐え居る寒灸 泉 泉子
・探梅 しんがりが好き探梅も人生も 木田 千女
・関西震災忌 沈黙といふ祈りあり阪神忌 池田 琴線女
・マスク マスクして念入りにする目の化粧 年森 恭子
・セーター セーターをほどき思い出だけ残す 足立 八重子
・ねんねこ ねんねこの子に吊革のよく揺れる 千原 叡子
・長火鉢 長火鉢底に明治の灰有りぬ 井ヶ田 杞夏
・湯湯婆 ふるさとの湯たんぽの湯に顔洗ふ 鳥井 真理子
足伸ばす湯婆のあとのぬくみかな 佐藤 肋骨
・懐炉 懐炉背にIT時代生きており 久本 一栄
・火事 海に置く燭台のごと船の火事 向田 重樹
かけつけて言葉とならず火事見舞い 越智 繪美子
火事近く母は佛に灯すなり 鯨波
流れゐる水をまたぎて火事見舞 神田 夢城
泣く人の連れ去られゐし火事明り 中村 汀女
・焚き火 ふりむけば父のきてゐる焚火かな 伊藤 伊那男
・炬燵 みな違ふことをしてをり炬燵の間 藤岡 幸子
・橇(そり) 橇でゆく長き別れを惜しみけり 合田 波一郎
橇たのし狐走らせ雉子翔たせ 湯浅 桃邑
・春支度 子らの間に座つて居りぬ春支度 長谷川 かな女
・受験子 受験子のもみあげのびて愛しさよ 軽部 烏頭子
・竹馬 竹馬に乗ればオットトと倒れけり 塚原 游子
竹馬の子のおじぎしてころびけり 星野 立子
・手毬 板の間は母に近くて手毬つく 岡本 眸
・焼き餅 厚かりし父のてのひら餅を焼く 小野 喜代次
・雪見酒 出ずにすむ定年たのし雪見酒 河野 頼人
・玉子酒 医者嫌ひ祖母の伝授の玉子酒 茂木 ひろし
玉子酒すすめて君を帰さじな 石原 初子
吾背子の来べき宵なり玉子酒 尾崎 紅葉
・葛湯 葛湯吹きいよよ無口の夫となりぬ 肥田 埜恵子
・寒卵 寒卵わが晩年も母が欲し 野澤 節子
・焼芋 音ばかりして焼藷屋まだ見えず 野路 斉子
・煮凝(にこごり) 煮凝や昼をかねたる朝の飯 松尾 いはほ
煮こゞりや想い出す顔出せぬ顔 富崎 梨郷
煮凝りの魚の目玉も喰はれけり 西島 麦南
煮こごりや父の記憶の酒器ひとつ 稲野 博明
・凍豆腐(しみどうふ・高野豆腐) 凍豆腐煮て佳き酒を尽くしけり 水原 秋桜子
・鯛焼 鯛焼のまず尾の餡をたしかめし 能村 登四郎
・縄飛び 校長の入りきて縄飛び大波に 嘴 美代子
・初戎 福笹をかつげば肩に小判かな 山口 青邨
商ひも恋もたのみて宵戎 島谷 征良
・初不動 信心に末法はなし初不動 山口 笙堂
明王に会うてみたしや初不動 金井 利信
・初天神 初天神日当る方へ絵馬を吊り 竹田 昭子
・寒詣 信心の厚き下町寒詣 高橋 春灯
・寒念佛 子の頭さすりて過ぎぬ寒念仏 齋田 鳳子
・寒曉 寒の曉ツィーンツィーンと子の寝息 中村 草田男
・厄落(やくおとし) 厄落す火の粉とび散る雪の上 福田 甲子雄
厄捨てし戻り声するめでたさよ 阿波野 青畝
・柊挿す(ひいらぎさす・昔節分の夜、戸口に柊や 鰯の頭を挿し魔よけとした)
柊を挿すやふるさと去りがたく 今井 つる女
・豆撒き 髪の毛に豆のひとつぶ厄払い 齋藤 耕牛
病む妻の裾に豆撒く四粒ほど 秋元 不死男
病室に豆撒きて妻帰りけり 石田 波郷
・白鳥 白鳥といふ一巨花を水に置く 中村 草田男
・寒雀 寒雀顔見知るまで親しみぬ 富安 風生
・鰤 寒鰤の刺身醤油を弾きけり 蓮見 栄
・寒鮒 もてなさる焼きし寒鮒さらに煮て 中村 草田男
・福寿草 妻の座の日向ありけり福寿草 石田 波郷
福寿草家族の如くかたまれり 福田 蓼汀
暖炉たく部屋暖かに福寿草 正岡 子規
・蕪 大鍋に煮くずれ甘きかぶらかな 河東 碧梧桐
・葱、一文字 碁敵の葱をさげくる日和かな 立松 佳子
一もじの丈俎にあまりけり 高田 蝶衣
・青梗菜 炒めもの強火がよしと青梗菜 大塚 安江
・寒いちご 寒いちご親子四人の匙の音 福永 みち子
・水仙、雪中花 むせる程水仙咲きて島日和 山下 美典
水仙や来る日来る日も海荒れて 鈴木 真砂女
水仙や黄ばみし祖父の聴診器 福島 延子
良寛の終の庵の雪中花 文挟 夫佐恵
水仙の香やこぼれても雪の上 千代女
・冬薔薇 姉逝きし若き日の姉冬薔薇 塚原 游子
冬薔薇や仕事で逢ひて好きな人 岡本 眸
・藪柑子(ゆぶこうじ)
神官の沓に名前や藪柑子 辻 桃子
・寒牡丹 人影の去りてさゆらぐ寒牡丹 石原 八束
七十は遊びざかりよ寒牡丹 青木 綾子
・寒菊、冬菊
寒菊や母のようなる見舞客 石田 波郷
冬菊の捨てんとすれば匂ふなり 樋笠 文
・寒木瓜(かんぼけ)
寒木瓜に老二人住み静かなり 宮城 静子
寒木瓜や色なき庭の華やげり 工藤 せき子
・寒梅 芸のことたゞ芸のこと寒の梅 花柳 章太郎
・臘梅、蝋梅(中国原産のロウバイ科の落葉低木、 葉の前に小さな黄色い花が咲く)
臘梅を手に雪国の客帰る 依田 富子
唐梅の香に触れ鎌倉日和かな 志摩 知子
・実千両、千両
いくたび病みいくたび癒えき実千両 石田 波郷
・室の花 つゝしむは暖衣飽食室の花 開田 花華
・蜜柑 叱るほか言葉を知らず蜜柑むく 木村 燕城
「俳句読本」に登場した「俳諧師達」と「発句集」その一「元禄期まで」
「俳句読本」に登場した「俳諧師達」と「発句集」その二「元禄期以降」