カテーテル治療のリスク
私は2006年10月に心房中隔欠損症のカテーテル治療を受けました。(この時はカテーテル治療が認可されたばかりで、私は日本で100番目ぐらいの患者でした。)しかし、翌年の3月(治療から5ヶ月後)に意識を失い、倒れました。原因は心臓に入れた閉鎖栓(アンプラッツアー)が大動脈に穴を開け、そこから血液が漏れたことです。どの臓器にも臓器を包む膜があります。心臓にもあります。その膜と心臓の間に漏れた血液が溜まり、心臓を圧迫しました。(心タンポナーデ)その結果、心臓の動きが小さくなり、十分に血液を送ることができず、意識を失ったのです。
現在、日本でおよそ2000人治療した中、私も含めて2人が治療後に閉鎖栓を取り出しています。つまり、1000人に1人の割合で重大な不具合が起こっているということです。そのうえ、原因はまだわかっていません。重大な不具合でなくても、治療を受けた患者の中には片頭痛や視力、視野の異常などの症状を訴えるようになった人もいるそうです。また、治療後1年以上経って原因不明の熱が1ヶ月以上続いている方もいると聞いています。私の場合は、片頭痛と軽い不整脈が起こりました。
それから、この1年で、治療中にアンプラッツアーが外れる事故が3件起こりました。そのうち1件はその場で開胸して外れた閉鎖栓を取り出し、残る2件は、特殊な器具を使って、開胸せずに取り出したそうです。取り出した後、最初に入れた物より大きなアンプラッツアーを入れ直した人もいるそうです。この3件も合わせると、カテーテル治療を受けた患者の内、400人に1人が閉鎖栓を取り出しています。
※ただし、医師は、治療中の事故によって閉鎖栓を取り出すことになる確率は200人に1人、治療後にアンプラッツアーが心臓や大動脈を傷つけたりする確率は500〜1000人に1人ぐらいだろうと説明されているそうです。さまざまな不具合や事故などが起こっており、実際の成功率はどのくらいなのか疑問に思われる方も多いと思います。しかし、確率というのは調べるデータが多くなければはっきりとわからないのです。
人間の男女の生まれる確率はほぼ等しいことは皆さんご存じでしょう。だからといって、子供が4人いる家庭では男2人、女2人というわけではありません。調べる子供の人数を増やせば増やすほど、男女が生まれる割合は五分五分に近づいていきます。
治療の成功率の話もこれと同じで、データが少ないため、はっきりとはわかりません。現時点での成功率の値は、今後多くの患者さんがカテーテル治療を受け、データが増えることによって、変わってくると思います。
データなら、海外での治療記録を使えばよいと思われるかもしれませんが、日本と海外の成功率には差があります。その理由は、人種によって体のつくりに違いがあるからです。また、体のつくりが違えば、治療の仕方が違ってくることもあります。
例えば、日本人は欧米人に比べ、欠損孔の位置が中央からずれている人が多いそうです。アンプラッツアーを入れる際、穴の周りの壁をはさみますが、この壁が狭いとうまく挟めません。そこで、穴の位置が大動脈に近い場合、大動脈ごと挟むことも多いそうです。(これはアメリカでの話ですが、欠損孔の位置が中央にあり、大動脈を挟まずに治療した患者が不具合を起こして閉鎖栓を取り出した例が2件あるそうです。ですから、欠損孔の位置が悪いために失敗したとは一概には言えません。)
カテーテル治療は開胸手術とは違い、胸に傷が残りません。治療自体も短時間で終わり、当然体の負担も小さくて済みます。入院期間も一週間ほどと短く、保険も利きます。まさに夢の治療法のように思えますが、今のところ、1000人に1人の割合で、命に関わる重大な不具合が起こっています。
これから治療を受けられる方は「まさか自分が」と、思っているのではないでしょうか。これは運の悪い他人の話で、自分には関係ないと思っていませんか?それは間違いです。この治療を受ける限り、これは自分にも起こる可能性が十分にあると考えるべきだと思います。
そうは言っても、私も治療の説明を受けたとき、リスクの話はほとんど聞き流していました。そんなものは他人事だと思っていたからです。その考えが 間違っていると気付いたのは、命を失いかけてからでした。開胸手術にリスクがないとは言えませんが、カテーテル治療のような「未知の」リスクは少なく、より確立された治療法だと思います。もし、治療の前に戻ることができるのなら、私は開胸手術を受けます。
心タンポナーデ