戸次鑑連初陣働


               戸次鑑連初陣 馬ケ嶽城(216m)
                         福岡県みやこ町犀川大谷付近より


   大永六年丙戌年(ひのえいぬ)(1522)のこと。豊前国の諸々の城主たちは、中国の大内義隆の誘いに載り、
   「佐野弾正」「間田豊前守」を大将として五千余人が豊前国「馬ケ嶽城」に立て篭もり、大友氏との合戦の
   準備を整えつつあった。
   このことを、宇佐神宮の神主より飛脚を使って「大友義鎮」に忠信が為された。「大友義鑑」は激高し直ち
   に討伐せよと「鑑連」の父「戸次親家」に大将を命じたのであった。しかしこの時、親家は重い病気に苦し
   み、到底出陣できる状態に無かった。一族の者や家老達はどのようにすべきか評議に評議を重ねていた。
   そこへ鑑連は進み出て、自分が父の名代として討伐に出向くと申し出た。「戸次親家」はこれを聞いて嬉し
   そうに病身を枕よりもたげ「汝、歳も若いのに健気(けなげ)なことをいうものだ、必ずや「戸次」の家を
   再興させる器である。お前の思うようにしたらよい。しかしなれど初陣のことでもあるので、戦の駆け引き
   については、老臣たちの申すことに随え」といい、この合戦に勝利することは疑いの余地がないと喜んだ。
   ただちに、武功のある老臣三人を侍大将にすえ、鑑連は父の名代として軍列を見事に調(ととの)え、総勢
   二千余騎、時を於かずに直ちに出陣した。
   この時「鑑連」は十四歳であったが、初めての軍立ての一切に勝れ、装いも華やかで緋糸威しの鎧に、水色
   の総(房)を角結びに下げ、白星の冑(かぶと)に八相(釈迦八相)の前指物、代々伝わる「尻鞘付けた太
   刀」を佩き(はき・帯き)戸次黒(べっきぐろ)と云う太く逞しい馬に金の紋を印した鞍を置き、スタメン
   (舶来の毛織物)の尻繋(しりがい)に厚手の房を掛け、身も軽やかにゆらりと乗り、静かに馬を進めた。
   鑑連がどのルートを行ったか分らないが、戦国時代初期には府内より高崎山城の麓を回り別府へ、別府より
   安心院竜王城(神楽岳城)、院内妙見嶽城を経由し、豊前椎田当りを抜け犀川に達したと見られる。
   鑑連軍は馬ケ嶽を前に山裾を隙間を作らず囲み、一斉に鯨波(ときのこえ)を揚げ攻め込んだ。馬ケ嶽城内
   では、よもや今日敵が攻めてくるとは思いもよらぬことであったので、城中の兵はうろたえて、右、左へと
   逃げ込んだ。
   鑑連は真っ先に馬を進め金色の麾(采配)を振り、不意を付くには此の時とばかりに「カカレ、カカレ」と
   下知した。この総大将の気合に、二千の兵は一斉に谷々を攻め登った。これに城中の兵も、城内に入れては
   ならぬと、取り敢えず五十余人ばかりが防戦するが皆、兜は乗せているだけ鎧もつけず、小手も刺さず、大
   半は裸であった。このため、立ち留まって怺(こら)えることも出来ずに切り散らされ、二の丸目指して
   退(しりど)いた。
   鑑連の軍勢は続いて三の曲輪へと切り込む。このような中、漸(ようやく)五百人ばかりが物具(もののぐ
   ・武装)して城門を開き、犇(ひしめき)あって切っ出た。これを戸次勢は事ともせず、マクリ立てマクリ
   立てして、火を放って戦った。
   これに総大将「鑑連」は、士卒を励まし攻めの手を弛めず「者共、時は今だ」と大声をあげて叫ぶと、戸次
   勢は軍卒を乱す気配一切無く、瞬く間に二の丸を破り敵大将の詰める本城(本丸)へと攻め込んだ。
   あわや落城と思えた時、敵将「佐野弾正親基」「間田豊前守重安」は弁の立つ使いを出し、様々に講釈して
   降参したいと乞うてきた。「鑑連」は即時に戦いを止め、速飛脚を以ってこの旨豊後の「義鎮」のもとへ伺
   いをたてた。
   豊後の返事は大将二人に、これに従った国士(くにざむらい)の実子を人質に取り、其のち囲みを解くとい
   うものであった。鑑連は命に従い、人質を受取り城内に残る将兵を追い払い軍勢を引いた。
   馬ケ嶽城には戸次氏一族の中から、名のある重臣を守将として留め置き意気揚々勇んで豊後府内に凱陣した。
   鑑連のこの度の初陣働きは、隣国はおろか諸国にも伝わり、未だ年端も若いのに、初めての合戦に天晴れな
   働きで、其の攻め様は智略のある勇敢な計略で、生まれつき二人とはいない性格を備えた武将である。行末
   は天下に名を馳せる勇将となるであろうと、感心しない者はいなかったと言う。
   この戦いで「
鑑連」は初陣ながらも、生まれ持った「勇将」の片鱗を見せたのである。

  


                                   
 参考資料:戸次軍談(戸次軍記・彦城散人)

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