#010 「アイス・ピック計画」

 

 3日後。早朝。アイスベース・セカンド南東方向の爆撃機集結地点への先制攻撃が開始された。

 第1陣はセルリアンのF/A−22ラプター9機。アラスカからの生き残りの全力だ。これまでであれば彼らの前方に、ワイルドウィーズルでF−15J/Eのセルリアン2ndチームが展開するのだが、3日前の攻撃で2ndチームの1機、セルリアン7のエンジン被弾による修理のため、ラプターが先陣を切ることとなった。

 第2陣はアクエリアスのF/A−18Eライノ15機。セルリアンは6機が地上攻撃、3機が上空警戒だが、アクエリアスは全機が対地攻撃仕様である。

 合計24機の攻撃により、爆撃機の集結する基地を壊滅させ、当面のベースの安全を確保し、本格的な地上侵攻の準備を行うことが今作戦の大まかな目的であり、今日はその仕上げの、そして陸上侵攻への始まりの日だった。

 第1陣の9機のラプターは、闇に閉ざされる季節の訪れを告げる黄昏の光の中、低空からの侵攻を行っていた。

「最終確認を行う。リードならびに11,13は上空警戒および迎撃機の処理、残りは滑走路の破壊を優先する」
「現地に標的がいなかったときは?」
「爆撃機がいなかったときは、先手を打たれて基地がやばい可能性が高い。直ぐに帰る。…以上だ。各機これ以上の発信を禁止する」

 永遠に続くような黄昏の中、ラプターはレッド・フォースからの接触を全く受けず、攻撃目標に近づき、その上空へ姿を現した。

「これは・・・」

 低空から急上昇し、目標地点上空に達したセルリアン・リード、ファルケ少佐が目にしたものは、広大な野戦滑走路に翼を休める、Tu-22ベアの群れであった。

 ベアは、爆撃機には違いないが、ブルー・フォースの恐れたバックファイアやブラックジャックなどのジェット爆撃機ではなく、ターボプロップの旧式機である。それも、どこから調達されたものか、胴体に赤い帯が描かれた核爆撃任務を解かれた訓練機や、飛ぶだけで精一杯と言った尾部機銃のないものなど、程度が悪い機体ばかり。
 がらくた同然の機体ばかりだ。

 そして、基地には人の気配が全くなく、対空砲火はおろか、空襲を告げる警報の音すら響いていなかった。響く音は全て、ラプターのジェットの羽音のみ。無人のジャンクヤードだ。

「セルリアン・リードよりベース。目標にいるのは囮だ。繰り返す、目標地点に標的なし。がらくたのベアだけだ」

 

 目標地点に標的なしの報は直ちにアイス・ベース・セカンドの司令部に届いた。

 司令部は、 ベースの南方に展開し、防空スクリーンを張っているイージス艦群に警戒を強めるようにする旨の指令を出した。同時に出撃寸前の第2陣のアクエリアス・チームの陸上攻撃兵装を対空兵装へ転換する作業が開始された。

 程なく、イージス艦群の更に南方を空中戦闘哨戒中のF/A-18より、南西方向より接近する多数の航空目標を探知したとの通報が入った。

 『ゲーム』開始からわずか半年で、前例のない氷結要塞を実働させるため、見かけや戦力とは裏腹にベース自体の構造はかなり脆い。
 基礎となる天然の氷山をNOAAのデータベースから探し出し、海中の氷を掘削して地表面の傾きを取り除く。
 その後、滑走路の形になるよう、氷山に歪みや亀裂を生じさせないように慎重にトレンチ(溝)を掘削し、その底に離着陸や着弾等の衝撃を吸収するダンパーを設置。トレンチ内に基地施設を建造する。建造は推進機関がないことを除けば、ドックの中で航空母艦を作る作業に似ていた。

 この様な成り立ちであるため、基地自体はある程度の攻撃に耐えられても、氷山自体は天然のまま。亀裂などが生じた場合、最悪基地が崩壊してしまう危険性があった。その為、カナダ沿岸では、氷自体に混合剤をまぜ、ある程度の衝撃にも耐えられる人工氷山の建造も始まっていた。

 試験的運用の意味合いが強いベースでは、重量のかさむ防空火器の装備は氷山自体の歪みや亀裂対策がなされるまで延期となり、代わりに複数のイージス艦や、最新鋭とされる戦闘爆撃機の配備が行われ、かつ基地の存在自体を攻撃隊の欺瞞針路等で隠蔽していたのである。

 よって、爆撃機による攻撃は、わずかな命中といえども基地の存続にかかわる可能性が非常に高かった。

「図られたか。……アクエリアスの武器転換はどれくらいで終わる?」
「6……5分ください」

 地上では、3本ある滑走路をフルに使って武器の転換が行われているはずだ。

「セルリアンのラプターは?」
「 20分はかかります」
「セルリアン2ndは?」
「 哨戒空域を離れ、南西方面へ急行中。……しかし、長距離ミサイルを装備していません」
「2ndはそのまま向かわせろ。イージス艦群に発令、南西より来寇する航空目標に対し迎撃を集中、一発も逃すなと」

 南西の爆撃機隊から、ミサイルが発射されたとの情報が入ってきた。

「ジェオルジ各機、ミサイル発射。南方に待避します」
「ブルー、イージス艦はミサイルへの迎撃体勢に入った模様」

 爆撃機隊「ジェオルジ」に併走していったTu-22M3Rから、ブルー・フォースの対応状況が入ってきていた。編隊合計で50発弱。目標の前面にスクリーンを張るイージス艦群にとって対処不可能な数ではない。

「はまってくれたな。よし、アイス・ピック1から3、全機、打ち上げ開始」

 轟音と共に、次々と白煙が上昇していく。

「アイス・ピック1から3、発射成功。飛行は正常」

「南西方向より接近中のミサイル、48発。ルクソール各艦へ目標配分。迎撃開始」

 ブルー・フォースのイージス艦群「ルクソール」は4隻のイージス艦、6隻のミサイル巡洋艦、その他補助艦艇で構成されていた。ルクソールの各艦は旗艦より配分された迎撃目標に対し、最も広い射角を取れるように針路を変更すると、次々にミサイルを発射した。

 48発のミサイルは、ルクソールにとって対処不能な数ではない。そして、ルクソールは来寇するミサイルに対する迎撃にはまり込んでいた。

「南方向に不明目標3、探知。急速に高度を上げ接近中」

 旗艦のCDCに、前方を哨戒中のF/A-18より不明目標の探知の報告が届いたのは、迎撃ミサイルを発射して10秒ほど後のことだった。

「ミサイルか。迎撃可能な艦は?」
「目標、おそらく弾道ミサイル。ルクソールA2、迎撃可能です」
「A2、不明目標を迎撃せよ」

 新たな目標を指示されたイージス艦、ルクソールA2は弾道弾迎撃用のスタンダード・ミサイルを発射した。わずか3発。外すことは考えられなかった。

「迎撃ミサイル、標的と交差します」

 戦況を示すディスプレイに、次々とレッドとブルーのミサイルシンボルが交差し、消滅していく。迎撃はおおむね成功していた。

「A2より、スタンダード全弾命中せず。……ジャミングを受けた模様とのこと!」
「ミサイルではないのか?……高度は?」
「およそ30,000ft」
「30,000? ジャミングシステム付きのミサイルか?!」
「不明目標、本艦の上空を通過します! ベースの方向に向かう」
「各艦、ありったけ撃て。なんとしてでも落とせ!」

 CDCの内部があわただしくなった。3つの赤いシンボルが、戦況表示ディスプレイの中央を通過し、北へ抜けて行っている。

「ベースに警報。緊急事態、弾道ミサイルと思われる目標が接近中と」

 間に合わないかもしれないと思いつつも、各艦は迎撃ミサイルを発射した。


「護衛部隊上空を通過。各機、着いてきているか?」

 地球の丸みが見えそうな高度を飛びつつ、宇宙服のような高々度与圧服に身を包んだアイス・ピック1の機長が呼びかけた。

「大丈夫です。今のところエンジンにも、機体にも支障なし」
「同じく異常なし。全く大した機体です」

 アイス・ピックが使用する機体は、Mig-31の爆撃機仕様のMig-31BMだった。
 これに固体燃料ロケットブースターを4機装備し、高々度を弾道飛行することで戦闘機による迎撃をかわし、翼端に取り付けた電子妨害装置により迎撃ミサイルを突破、目標を攻撃することを目的に造られた。

 Mig-31は、しかし前身のMig-25ほど高速を発揮するや高々度に昇ることを主眼に開発された訳ではない。そのため、アイス・ピックの3機はMig-25の様にチタンを使用した構造強化を行い、高度・速度共にMig-25を凌駕する性能と、低空での爆撃能力を持つ機体となった。

「まもなく目標が見えるはずだ。降下開始!」

 そういうとアイス・ピック1は機体をロール、背面飛行に入り機首を引き上げると、降下に移った。
 降下角度を確保し、編隊を維持すると再びロール、通常の飛行体勢に戻る。

「もうそろそろ・・・・見えた!」
「・・・ははっ、本当に氷山の上にある」
「でけえ・・・」

 ブルー・フォースが秘匿し続けてきたアイス・ベース・セカンドをレッド・フォースの人間が初めて目にした瞬間である。爆撃機を一時的に集中させ、迎撃部隊をすりつぶされながらも欺瞞し続け、多数の爆撃機を動員して護衛艦の戦力を逸らし、無理矢理弾道飛行を行うような機体を造り上げて、やっと、此処まで来られた。

 あと、やることは一つだけ。

「全機、ブースター排除。突入する!」

「不明目標は戦闘機!CIWS!迎撃!」
「弾幕薄いぞ!なにやってんの!」

 ベースの司令部は大騒ぎになった。南西の爆撃機を探知して僅かに12分。現代の戦争が如何にスピードを重視するのか、身をもって体験していた。
 数少ない近接防空火器、発射の反動が少ないバルカンファランクスが 火を噴いていたが、Mig-31BMは巧みに高度を変え、殆ど海面すれすれの高度を飛行しながらベースに接近していた。

 更に状況を悪化させたのが、爆撃第2陣の予定だったアクエリアスの武器転換だった。爆弾から対空ミサイルへの転換は終了し、次々と離陸体勢に入ろうとしていたものの、アクエリアスのライノの大半は誘導路に並んでいた。
 ライノから外された爆弾も、まだ半数以上が地上にあり、信管も付いたままのものも多数あった。

 無理に例えるなら「ミッドウェイ海戦の空母・赤城」のような状態に、アイス・ベース・セカンドは陥っていた。

「滑走路の交差しているところを狙え。…投下!」

 アイス・ピック1の機長の声と共に、3機のMig-31BMから、合計12発のBETAB-500ShP徹甲爆弾が投下された。投下されたBETAB-500ShPは次々とパラシュートを開いて減速、瞬く間にそれぞれの滑走路の交差部分に達するとパラシュートを切り離し、ロケットに点火、滑走路に突入した。

 連続した衝撃がベース全体を揺さぶった。僅かに遅れて内部から更に大きな振動と轟音が響き、更に地表付近から別の振動と音響が響いた。

「A、B、C各滑走路交差部に被弾! 第5層まで貫通、各所に火災発生!」
「ダメージコントロール、急げ!」
「地上で誘爆発生!アクエリアスに被害発生!」
「武器弾薬庫、隔壁閉鎖。緊急注水系ポンプ作動準備」

 振動の発生と共に、ベースの各所から被害状況の報告と、それに対する対応が取られて行っていた。誰も去っていったMig-31BMのことなど気にしていなかった。それは逃走経路にいるであろう連中の仕事である。

 あわただしく爆弾により発生した火災と格闘している司令部の要員は、しかし、次の瞬間静まりかえった。

 グーーーーッ

 何か思いものが軋るような音。司令部……ベース全体から聞こえてくる、重く、また何かがねじれるような音。

「………なんの音だ」
「ダメコン、音の原因は分かるか?」
「…………地上から見ると、氷に亀裂が発生しています。まさか、割れるんじゃ………」

「なんて事だ」

 自分は上空からベースを見渡し呆然とした。
 ダメージコントロールを行っているのだろうが、3本の滑走路からは黒煙が立ちのぼり、そして氷の表面にキロ単位の亀裂が入っていた。

「2、えらいことになりましたね」

 7が言ってきた。確かにえらいことだ。地上には大破した機体も見える。

「着陸は出来るか?」

 問い合わせてみたが、管制塔は通信が途絶えたまま沈黙していた。

 

F-15J 02-8801 "Cerulean-2" RESULT
Today's Score : 0
Total scoar : 13 (Mig-29-3 , J-10-4,Mil-24-1,JAS-39-1,Mig-21-93-4)

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