| 現代美術とCGアートの謎と疑問に答えるQ&A もくじ | |
18 現代美術の目的は何か |
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2007/7/2 |
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――美術は何のためにあるのですか? 大まかにいえば、太古は宗教的で、だんだん見世物へと変化しています。 |
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――太古には、なぜ宗教だったのですか? 暮らしの中に、人知の及ばない出来事が多かったからだと思います。例えば日食。太古の人は、人のまずい行動に怒った神が太陽を隠したと考えました。神の怒りを静めて乱暴をやめてもらう祈願の相手役として、彫像や絵を制作しました。人と神が落ち合う場所です。 |
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――しかし日食も、ただの天文現象だと解明されましたね? 月が割って入る偶発的な掩蔽(えんぺい)とわかり、人間の悪事の疑いは晴れました。次回の日を予測できるようにも。こうして次々と神々や魔物が関与した事件の仕組みがわかり、代理役の絵や彫刻は次々と不要になります。 |
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――そんな西欧で、その後も美術は盛んですが? 世界各地で、偶像のビジュアル化と民族史のドキュメント化が起きます。知られるのはキリスト教の聖書の場面。しかし美術の次なる重大機能は、記録です。写実画の功績は大きく、写真術確立の1839年より昔の人も容姿がわかります。日本でも、信長(〜1582)、秀吉(〜1598)、家康(〜1616)の顔を比較でき、報道的リアリティがあります。 |
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――今の報道は、絵ではなく写真を使いますが? 写真禁止の法廷の報道は、今もスケッチ画です。カメラのルーツは紀元前と言われ、元は遠近を正しく平面化する絵画技法の研究でした。ピンホール式の幻灯が出発点。近世に初めて撮像に成功したニエプスは版画研究の徒で、共同研究で暗箱一式(ダゲレオ・タイプ)を作ったダゲールは舞台画家でした。フランスとドイツの2人とも美術の人。これ以後、画像の記録ツールは絵筆からカメラに移ります。 |
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――カメラのせいで、画家はやむなく抽象にのがれたわけですか? そうですが、カメラは長く高価だったので、絵画は当分は守られました。精密描写が役割を終えた後の次代の絵画が印象派で、これは光景をアバウトに表す実験でした。しかし19世紀末にロールフィルムが開発され、カメラは一家に一台へと向かいました。絵は写真を追いかける立場となり、美術は業界再編しました。新旧まちまちな作風と個性が、どっと現れます。 |
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――その後、抽象美術が発見されて、美術の役割はどうなりましたか? 完全に見世物です。今のインターネットのポータルサイトでは、美術はエンターテインメントに分類されます。「最も難解なメジャー娯楽」が、美術に与えられたポジションです。 |
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――古い文化遺物まで娯楽扱いだなんて、ちょっと格下げし過ぎに思えますが? 創作文化は、レジャー産業や芸能に近いものです。ただ実態はいくぶん経済寄りですが。美術を入手する目的の筆頭は蓄財と投機で、金の延べ板や株券代わりが日本で安定した市場です。純粋なエンタメ客は今も少数で、だから例えば身近な知人で、作品集、絵葉書、ポスターなど美術関連グッズを持つ人は少ないはずです。 |
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――作品の購入額は、美術館さえが宣伝に使いますよね? ジャーナルが書き立てるわけですが、価格を宣伝に使う効果は、人々のエコノミックな行動をかんがみた判断でしょう。その昔安く買った実績があまりないせいか、上がりきった時の高い出費を誇る傾向は、日本的かも知れません。 |
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――美術の職業としての役割も、今日的に見落とせないと思いますが? 天文学や医学と同じで、美術でも生業やビジネスの要素は、かなり初期からあったと思います。昔も作る人は報酬を得たわけで。後世に業務に転じたのではないはずです。 |
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――現代美術は、思想を伝える役割が重視されている気がしますが? 美術の思想や哲学の多くは後付けです。作品集につけられたキャッチフレーズが、本人の考えと違ったりもします。例えばゴッホの「燃える○○」は、『糸杉』などの渦巻くような火炎状の筆タッチから取られています。 |
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――難解な思想とセットになった作品が、現代美術に多いのはなぜですか? 作品の説得力を高める目的だと思います。作品自体よりも思想に力が入っている場合もあります。これは感興の起きにくい美術が、20世紀に増えた関係かも知れません。 |
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――感興の起きにくい作品が、なぜ20世紀に増えたのですか? 見世物目的では、動機が弱いせいだと思います。神と落ち合う時のような切実さは消えていて。作る必然性や重大性が薄れているのです。何のために作るかを、いちいち説明しないといけないハメに・・・。また写真の次に美術の地位を脅かした新発明に、映画がありました。この時、人材の流動も起きたでしょう。 |
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――映画と同じように、絵画もひとつの物語になっているものなのですか? 物語はあったりなかったりです。あるラジオ番組で映画監督が、「映画は洗脳」と断言しました。絵画の機能もまた、暗示と感化ですが、客が見る時間は秒単位です。小説に対する俳句に似て、絵の機能はコンパクトです。 |
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――絵画で人を洗脳するのは、かなり難しそうですが? 作品の情報量が少ないせいで、最大限発揮しても洗脳力は弱いでしょう。作品をわかる人が少ないのも、そのせいで。そんな美術が注目されるきっかけづくりに、興行側はつい価格をかかげて後押しするのでしょう。 |
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――「芸術は生きる証(あかし)」とよく聞きますが、あれはどういう意味ですか? 美術あいまい語録の代表です。作者が制作で充実感を得た告白です。時には、この世への置きみやげの意味に拡大されますが、それだと「生きた証」と過去完了形です。 |
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――「芸術は闘いだ」というのもありますが? 印象派が写実派と張り合った対立がルーツでしょう。今では「近代対現代」「具象対抽象」などよりも、スポーツ的な「自分との闘い」の意味かも知れません。しかし美術は自分のペースで時間も無制限に使えるから、作品は作者の上限を示すでしょう。本番に弱い画家は、いない理屈です。 |
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――「芸術は命がけ」というのはどうですか? 重要な意味はありません。作者の内なる充実感は、客には重要でないし、かんじんの出来不出来とも無関係です。例えばゴッホの早い死は、「生きる証」「闘う充実」「命がけの喜び」を本人が感じないから起きた可能性があります。それらを当時を感じたのは、消えた他の画家たちでした。 |
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――「美術は時代を映す鏡」というのも、よく聞きますが? 作品には制作当時の手法や技術、さらに社会背景などの諸事情も必ず入っており、見てわかる程度に表に出ています。これは何も美術に限らず、デザイン類だってそうで、「この作品は時代を映している」と言えばたいてい当たっています。 |
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――作者にとって、時代をどう反映させるかが大事なわけですね? そうでもありません。時代が反映しているのが事実でも、時代を反映させるべしという推奨にはなりません。というのも、わざとやる時代色づくりは「今ふう」や「現代らしさ」に向かう陰で、独自色が引っ込みやすいからです。 |
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――「自分の表現」という、どこにでも転がっている語はどうですか? 「美術は自分の表現」という発言は、実は意外に転がっていません。「音楽は自分の表現」という発言が、あちこちに転がっているのとは対照的です。 |
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――美術では、自分勝手が許されないからですかね? 原因はわかりませんが、自分を表現しても美点にならない空気はあるようで、その点で音楽とは価値観が違うのかも。現に音楽家が絵をかく時に、いつものように「自分らしさ」を出すことはないでしょう。音楽の時とは打って変わって、なぜか絵らしさを目標にするのが不思議です。自分らしさではなく、絵らしさ。 |
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――うまく言えないのですが、美術が伝える「こと」とは、どういう「こと」ですか? 「こと」を言い換えると、「内容」であり「メッセージ」です。「主張したいもの」や「何が言いたいか」も同じ「こと」です。20世紀美術の機能は、描いた光景を伝える報告が目的ではありません。「美しい花を描いて、花の美しさを伝えました」では、芸術としては失格です。 |
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――その場合の「メッセージ」とは、戦争の悲惨さや、命の尊さを指すのですか? 歴史名作が伝える「こと」は、その次元とも違います。先述の名作の特徴「暗い」「重い」「厳しい」が出すメッセージは、ほとんど「圧」です。作品は何ら具体的な「事」を伝えません。私は全ての名作美術は、仏像の変形だと解釈しています。見るこちらの都合で、こちらに物語ができるからです。鑑賞者の脳内にできた「物語」が、伝わった「こと」に該当します。つまり鑑賞者は、一人一人が別のメッセージを受け取っています。絵画は回覧板の機能ではないということ。 |
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――しかし白い花の絵は、花の白さがメインテーマだと思ってしまいますが? 「絵が秘めた矛盾」という言い方があります。伝える「こと」が割れた作品です。例えばゴッホの『ひまわり』は、明るい昼間の黄色い花なのに陰うつです。しかし陰うつだなと思って見ると、ふと元気に咲いていたり。見ている最中にも、それらが反転することがあります。これは造形された表の顔と、圧を発する裏の顔とが、二重構造になっているのです。 |
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――画家は表と裏の顔を、同時にコントロールしながら作るのですか? 裏の顔は調整不能です。画家各人の素質が出るにすぎません。画家は表の顔作りのみ行います。形、色、タッチ、肌触り感で、自分の顔を構成するのです。だから何がかいてあっても、正味は自画像です。そして機能は仏像といっしょ。客は作品の表の顔を賞味しながら、時に裏の顔の存在に気づくわけです。表裏が激しく乖離(かいり)した作品が、長い歴史に残っています。 |
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