現代美術とCGアートの謎と疑問に答えるQ&A もくじ
電子美術館のQ&A

26 21世紀デジタルアートの画商

二十一世紀国際地方都市美術文化創造育成活性化研究会
2008/12/25

――もし誰かがゴッホの生前に絵をたくさん買っていたら、大もうけできたでしょうね?

安い頃にゴッホを買い、高くなってから売れば、資産づくりに成功して後は遊んで暮らせた・・・。理屈はそうです。

――そうした絵の転売は、もうかる投資なのですか?

普通は期待値は低く、歴史に残る作品のヤマはまず外れています。日本人が洋画に目覚めた明治大正の頃、油絵調達の特使たちが西ヨーロッパへ続々と向かいました。官学から派遣された目利きもフランスへ渡航。ところが多くの場合、現地で当代人気アーティストを買って帰り、後の落日で負債となっています。世評に従って得るものなかった、この手の失敗の山の陰で、成功の美談は少しだけ。

――なぜそうなるかは、だいたいわかっていましたよね?

歴史名作になる決め手は、マイナスのインパクトです。そのマイナス部分の「いやな感じ」を、芸術性だと評価する人は非常にまれです。特使たちも、感じの良い方を選んで買って帰国し、足蹴にした方が名作になったから後で泣くはめに。ならば逆行動すればいい理屈ですが、その理屈が先入観とぶつかるから、スタートにすらつけないわけです。

――もしタイムマシンがあれば、昔のフランスへ行って歴史名作の買い物ができませんか?

上手に操縦して、「パリの90年間」に行き着けたら、今日の歴史名作が激安で並んでいたり、画家の家を訪問するとほこりをかぶっていて、パラダイスでしょう。しかし現実に使えた乗り物として、船で行った同時代の人たちは、激安のモネやセザンヌは嫌ってスルーし、見るからに美麗な逸品を高く買い付けて、後日の暴落で一過性に終わっています。

――現代に、タイムマシンに似た装置はないのですか?

注意点があって、あわてずに今の美術史に輝く作品をメモしておく必要があります。後から生まれて正解を知っている点で、私たちは決定的に優位なのです。同様に現代の絵画投機でも、当たりくじを知った上で買う場合が多いのです。

――そんなうまい方法が、今あるのですか?

超有名美術を、「超々後出しジャンケン」で買い取り、さらなる値上がりを待つ方法です。勝ち馬に乗れば普通は勝てるわけで、値上がり率は小さくても、金額の大きさでカバーすることになります。

――大金が大金を生む話ではなく、資本ゼロで、絵で利益を出す方法はないのですか?

思いつくのは画商です。自らがクジの販売元になるわけで、売れ残りの美術を世の中から探し出し、セールスして作者と山分けすれば、制作しなくても収入になる・・・。理屈に終わらせず、ネットを機に実際に参入する人がいます。

――売れたら、どう分配するのですか?

最初は、売価の半分は画商、半分は画家が取ります。これは手がき作品の場合で、最近増えたジクレー(インク吹き付けプリンター印刷)の場合は、受注後に形になるので、出力料と額装代を業者が取った残りを二等分します。

――半々に分けたら、何だか画商の方が得ですよね?

確かに、画家が費用のかさむ画材やキャンバスを出し、アイデアも出して時間をかけて制作し、品物の一切を用意します。著作権も画家にあります。売れたら二等分では、労力が少ない画商の割が良すぎて不公平に思えるかも知れません。

――画商の割がいいのはなぜですか?

役割が大きいから、ただの委託販売より立場は強くなります。一般に美術作品単体には販売促進の自活力はほとんどないので、誰かが何か言わないと始まりません。黙って物を見せて通用する分野と違い、画商が説明して太鼓判を押して、やっと市場が動き出します。展覧会で絵を前にした人が、説明が欲しくなるのと同じです。言い換えれば、画商は自分がわかる範囲の美術しか扱えないものです。

――値段はどう決めるのですか?

手がき絵画なら基準はありません。契約期間内の独占販売になるので、価格は画商の企画内で決まるでしょう。しかしジクレーには基準があって、出力コストからかけ離れた高値にはできません。

――売れなかった場合は、どうなりますか?

資金は動きません。画家は制作費を回収できず、画商は宣伝費を回収できず、しかし損失はそこまで。強いて言えば、契約書に貼った印紙のアシが出ます。

――いっそ画家が画商を兼任すれば、全額が自分のものになりますよね?

そうする画家がわずかなのは、セールス活動に気を回して、かんじんの制作が中途半端になりやすいからです。二足のわらじをはくと、いくら精力的にこなしても作品がどこかゆるむのは、「人類は美術が不得意」という前提が、最初に作者を直撃するからに違いありません。

――そもそも美術に造詣が深くない人が、美術商になれますか?

意外に簡単です。未来の名作選びでは、造詣はかえってじゃまかも。1880年代の画商は、当世美術に並々ならぬ造詣がありました。なのにゴッホをはじめ新興美術に及ばずだったのは、造詣は後向き情報だからです。

――現代の美術商の戦力は何ですか?

自分の言葉と、片言の外国語でしょう。美術の周囲では、慢性的に言葉が欠乏しています。ネット上で先駆けたアートショップも販促コメントが少なく、切り口上が開拓されていません。売る側の言葉不足。

――街にある画廊も、たいていは静かで寡黙ですよね?

他のジャンル、例えば音楽評論では、言葉の限りを尽くしたコメントが並び、圧倒的に作品を語っています。曲を聴かせるに終わらず、説明する言葉の弾幕を張りめぐらすのが常です。音楽では弁論大会が年中騒々しく開かれていて、黙して語らず静かに待つ美術とは正反対で。これは注目できる現象です。

――音楽と違ってアートでは、一過言持つ人からしていないような気がしますが?

確かに言葉不足は思った以上で、古典作も現代作も修辞、つまり「おほめのことば」は、ほとんど2種類しか出回りません。「この絵は上手」系と「この絵は素晴らしい」系の2種類で、一般ジャーナリズムの文章はどちらかでしょう。

――言われてみれば、美術では決まり文句が目につきますね?

例えばゴッホへの修辞で、「天才画家の燃えるような魂の叫びが心を打って・・・」など、定番の言い回しがありました。

――入門しにくい美術分野だから、言葉も生まれないのでしょうか?

デザインやトリック系、おもしろアートなら、制作のねらいが直接的なので、万人に紹介する切り口はすぐ見つかります。ところが、ファインアート系は制作意図を表に示さない作品が大半で、しかもやりたいこと自体が謎の作品も多く、それだけ作品の価値や意義を言葉にしにくいのも確かです。ならば、「こういう美術よ出て来い」と言えるかといえば、言えない。何もない。言葉の空白。

――言葉に加えて外国語とは、どういうことですか?

緊急課題は、日本の現代美術の輸出です。各国の音楽や映画は、世界中へ輸出されます。日本のTVアニメ番組もそうで、21世紀に突如として国際アニメオタクが生まれたのではなく、初期放映の1960年代からアジアや欧米へ輸出されてきた長い下地があります。ところが日本の現代美術は、今も世界へあまり出ません。

――なぜ日本の美術は海外へ出ないのですか?

国境を越える画商が少ないせいもあります。音楽や映画なら興行会社や配給会社がありますが、もしそれなしで作曲家や監督が自ら海外で売り歩くなら、あまりの負担で国内に閉じこもったでしょう。美術は今その状態で、紹介プロモーターや海外担当マネージャーは空席です。

――海外での展示を、支援する会社なら見かけますが?

作品を海外ギャラリーに置く手続きは代行しても、海外に売る企画は手薄です。場所貸しと違ってセールスともなれば、事務的なポリシーにとどまらない哲学を要し、言葉を要し、ハードルは上がります。「芸術とは何か?」に対して、「さあ、何でしょ?」「人それぞれですわ」ではだめ。作品を並べて「いいのがあれば買ってね」では、文化は伝わりません。

――そうした哲学の欠如も、美術の輸出の壁なのですね?

作品を見てコメントをつけて回れる人は、それだけでユニークな存在かも知れません。どんな作品にもセールス・トークをつけられたら、トップになれるほど層が薄い面もあります。そもそもセールス術の第一歩は長所の発見ですが、私たちは表現物の欠点をあげる方が得意な傾向があって、これも一種の壁です。

――美術で、ネット通販が急増していますが?

ネット取り引きはカタログ注文なので、高額な一品制作物は不安です。この点、ジクレーは比較的安価だし、想像以上に実物がきれいな場合が多く、通販には向きます。

――ネット上には、正体不明の物品を売る店が時々ありますね?

ジクレー販売店も、しばらくそのひとつに見えています。第一に日本では美術の前線にあって、いまだに名称が浸透していません。「ジクレー」「ジークレー」「ジクレ」「ジクレー版画」「電子絵画」「電子版画」「デジタル絵画」「デジタル版画」「CG絵画」「CG版画」「CGアート」など、呼び名もまちまち。これらには、違うものも混じっています。

――ジクレーは作品の正体からして、理解されていない感じですが?

電子版画販売サイトの訪問客から疑問を募ると、「これはどういう類のものか?」「本物の美術なのか?」「複製画か?」と、根本的な部分に質問が集まります。だから店は「プリンターで印刷した紙は美術作品です」の説明から始めるべきなのに、それもないサイトが多い状態です。

――価格が適正なのかも心配ですが?

音楽CDは価格の上限も下限もだいたい決まっているのに、ジクレーは上限があいまいです。高額すぎる印刷作品が街中でセールスされたことも、過去にありました。

――美術に価格はあってないものと聞きますが、ジクレー価格に目安はありますか?

原理的に追加刷りできるジクレーには、上限価格が想定されます。手がき絵画や手刷り版画の価格を超えないはず。面積が同じ油絵とジクレーでは、売値がひとけた違うと考えていいでしょう。原理上、売れていない作家は差が圧縮される計算ですが。

――そんな版画を海外へ輸出しても、「美術にあらず」と突き返されませんか?

単発では力にならず、一丸となることを考えています。「印刷物を美術と呼んでいいのかなあ」と態度保留したのが日本です。しかし販売サイトも増え、漫画イラストを扱う出版社も出店中。当初は出遅れても、後で巻き返してきた日本のパターンは、美術でもできるはずで、苦手だった電子版画を逆に戦力にできないかと考えたのです。

――画商は一番何をすべきですか?

以上から、現代デジタル画商の造詣は2つ考えられます。@日本向けに電子美術を説明する。A外国向けに日本美術を説明する。印象派絵画の鑑賞のツボなどは、現代の焦点ではないでしょう。

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