現代美術とCGアートの謎と疑問に答えるQ&A もくじ
電子美術館のQ&A

31 日本における現代美術の立場

二十一世紀国際地方都市美術文化創造育成活性化研究会
2009/12/7

――高齢者には現代美術はわからないだろうというのが、日本人の一般認識ではありませんか?

日本では、現代美術は若者専科としてイメージされている面があると思います。若くて未熟で不明な人が、しばらく手を出すというシロモノ。若い頃に犯す間違いとして、皆さんみているのではないか。あたかも暴走族に参加した不良時代のごとく、若さを前提に許すようなところがあって。このあたりは、現代美術が普及した欧米とは対応が異なっています。

――エネルギーを無駄に消耗した、刹那的で破滅的な行為が現代美術というわけですか?

各地の現代美術イベントやフォーラムへの参加に、35歳以下などの年齢制限がついていることがよくあります。この数字は、日本に多い求人の年齢差別の区切りと一致します。コンテンポラリーアートは青春の一ページとみなされ、いずれは卒業して捨てていく前提にされているようで。現代美術を一生やることはなかろうという、暗黙の諒解があるようです。

――今の日本で、現代美術はどの程度支持されていますか?

全般に支持は小さく、お茶の間の支持は、まあ、なきに等しいでしょう。内訳をみれば、具象の現代美術にはある程度の支持がついて、抽象の現代美術はわずかな例外をのぞいて全くだめ。

――現代美術と抽象美術は、イコールではないのですね?

現代美術でかつ具象という作品もあります。それは少々イメージしにくいのですが、増えてきたのはグラフィックデザインや漫画イラストから派生した、似顔絵タイプなどの絵です。これらは具象ですが古典ではありません。

――日本で現代美術を支持するのは、どういう人ですか?

現代美術の支援者は、権力が小さい人です。これが、現代美術の立ち位置そのものです。では権力がある人はというと、だいたいが古典具象のスポンサーです。議員や閣僚や団体理事たちもそう。そこには、もちろん作品の値段も関係していて、金銭価値が目当てというのもありそうですが、当人のわかる範囲にとどまっているのも確かでしょう。

――新奇なものを支持することが、日本ではステイタスシンボルにならないのですね?

なるほど、そういうふうにも受け取れます。似た例で、現代日本で「抽象的な思考」が流行らないのは確かで、例えばブラックジョークなどもそうです。

――それでも時々思いがけないところで、現代美術を礼賛する話を見かけますが?

意外なところに現代美術ファンを見つけて、あれまあ、と驚くことはあります。

――現代美術のススメという追い風の論は、どこかにないのですかね?

よくあるのは、「表現の多様性」です。人には色々なものの見方や考え方があって、表現法もそれぞれ違う。互いに異なる価値観を認め合おう、という思想です。人種差別をなくそう的な啓蒙と似た内容になっています。この原則論を、同時代産物への親近性へとつなげて、現代美術の正当性をアピールしています。いくつかの現代美術館も、このあたりを理念として広報に書いていたりします。

――それが日本人の多様性否定キャラにはばまれて、現代美術はマイナー止まりなのですか?

そうした「異物排除」や「出る杭を打つ」の原因説を、私は半分だけ「あり」として、半分は「違う」と否定してきました。

――半分否定する理由は何ですか?

現代美術の希薄ぶりもまた、まぎれもない事実だからです。現代美術全般に起きているパワーレス傾向を、表現の自由度が高いという優位性でかわすわけにはいきません。だめぶりから逃げてしまっては改善もなし。

――古典具象よりは現代美術の方が、姿勢は前向きではありますよね?

そうした相対的な先進性も安住の地になりやすく、それだけでは古典に負けます。「きれいな光景を見つけて写しました。美を切り取って画面に再現しました。目の保養にどうぞ」と、古典具象の一貫した行動には迷いがありません。前進しない足踏みだからこそ、誰も置き去りにしない平易さや親しみがあります。変わらない安心が、古典系の命です。

――安定志向の強みですか?

安定といえば実物の花畑もそうです。個々の花同士に目立つ違いがなくても、花の単体、花畑の全体ともに目には魅力です。自然に咲く花を見て、平凡や没個性に誰もケチをつけません。その花畑を写した絵も、この方向で弁護できます。これらは守旧美術の称賛ではありません。後向きのノスタルジーに代わる価値を、現代美術がゲットできていない場合が問題なのです。

――現代美術は、まず写実の職人芸を捨てましたよね?

捨てた次に何を得るかという話です。捨てた技能を別のかたちで取り返せていない不備。トータルでは、古典のウリである目の保養成分を捨てただけに終わって、マイナスに割り込んでいます。これが現代美術に広くみられるマイナスアルファ症候群です。

――そういうふうに考えると、現代美術は実に素人的ですよね?

古典具象のウリは「わかる」です。対する現代美術は「わからない」ですが、「わからないのに何かがあるぞ」というこの「何か」が空白になった作品が多いのです。その空白を、現代社会の空虚さに引っかけたりして。現代美術の悪いクセといえるでしょう。

――どうやれば、その空白が埋まるのですか?

前に3点ずつ3セットあげました。1つは「前例がない作風」「満ち足りた完成度」「不穏な魔力」。2つめは「珍しく」「強く」「排他的」。3つめが「暗い」「重い」「厳しい」。

――それは、現代美術が夢中になっている興味や、走っている方角とは違いますね?

この9つには、現代美術の必須条件として誰もが欠かさない「今ふう」や「現代的」さえ入っていません。型式を規定しないから、有効期限もないのです。

――捨てた職人芸を別のもので取り返せた、何かわかりやすい現代美術はありますか?

抽象では、よくフランク・ステラの立体絵画をあげました。ステラは穴場ではなく、早くから勝ち馬で、日本にもけっこう入っています。

――それは、日本人にもわかりやすい抽象なのですか?

「ステラはわからない」「何がいいのかさっぱり」という声も聞きますが、ひとつは何種類かの作品系列があって、当たり外れがあるからです。金属板をクネクネと曲線で切り抜いて、粗雑にペンキを塗って、間を離して何枚も重ね置いたタイプが充実しています。9項目をチェックすると、他の作品にないものがあるとわかります。

――鑑賞者は何をすれば、問題の9つの要素を作品からキャッチできますか?

抽象美術を具象語で翻訳せずに、抽象語で翻訳することが第一です。歌詞を聞くのではなく、サウンドを聴くように。

――美術家は何をすれば、問題の9つの要素が作品に備わりますか?

人類の美術が、二つに分かれるように作ります。自分と自分以外とに、全体が大きく二分されるように作ります。

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