| 現代美術とCGアートの謎と疑問に答えるQ&A もくじ | |
50 電子版画は楽してもうかるのか |
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2010/12/21 |
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――プリンターで印刷するだけで美術ができるのなら、楽に金もうけできそうに思えますが? パソコンで落書きして印刷した自称美術とやらの紙は、必ず美術作品に属します。えせ美術や美術もどきではなく、正真正銘の本物の美術作品です。この定義を利用すれば、楽してもうかりそうに思えます。ところが現実の金もうけの効率は、筆でキャンバスに落書きした方が上です。 |
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――電子化は合理化の最たるもので、それなのになぜ手でかいた方がもうかるのですか? 売価と経費のギャップです。私は長く両方とも作ってきたので、誰よりもわかっているつもりでした。しかし集計した数字で、両者に思ったより開きがあると知りました。 |
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――材料費なんかは、電子だと限りなくゼロに近そうな気がしますが? 実際はキャンバス画の4倍になり、材料費だけでも電子版画はずっと高いのです。 |
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――なぜ布と木材を使う手作りの筆がきよりも、そんなにコストがはね上がるのですか? 順を追って、実績で比較します。2010年の物価で、キャンバスのP20号(727×530ミリ)は1740円です。絵の具と溶剤は、キャンバスの半額弱かかって770円。合わせて、キャンバス絵画1枚の材料費は2510円です。 |
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――筆とか何とかの道具代は、大きくはないのですか? P20号に使う筆は太くなく、全部で16000円分ほどです。200枚程度かけば穂がすり減って、次の新品筆と取り替えて順にローテーションするので、1枚当たり80円分の筆を消費します。パレット代も入れて90円。 |
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――一方の電子版画の材料費はどうなりますか? 2009年の実績では、塩ビシート印刷のアルミ複合板張り仕上げで、650×520ミリが、1枚8805円でした。 |
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――その金額は、自分で材料を買ってきた場合ですか? 専門業者への外注しか選べません。6色インクの大型写真プリンターで印刷し、訓練した業者が2人でボード張りするからです。私はその全作業を指揮する立場にいたことがありますが、特別な道具とクリーンな広いスペースがない一般家庭ではまず作れません。電子版画は大がかりです。 |
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――材料費だけみれば、キャンバス画が安いという意外な結果になりましたね? まだ計算は途中で、面積換算が残っています。この電子版画はP20号キャンバスより小さいので、1.14倍した同面積で、1万37円となります。2510円で済んだキャンバス画の4.1倍の材料コストが、電子版画にかかったわけです。 |
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――なら次に道具ですが、コンピューターは筆とパレットの何倍ぐらいですか? 250倍という、トンテモな高コストになります。グラフィック制作のコンピューターは、市販パソコンではなく自分で組み立てます。私は累計203万円分のパーツで何度か組み直して、電子絵画を90点作りました。1枚に機材費が2万2555円かかった計算です。この額の250分の1で済むのが、キャンバス絵画というわけです。もちろんコンピューターパーツはその後低廉化していて、今から新たに電子版画を始めるなら、250倍ではなく50倍程度に縮まります。 |
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――最後に制作の人件費ですが、電子は高速だからスピードで逆転できそうですが? 実はここでいっそう、差がドーンと広がります。2010年実績で、何をかくか決めずに始めた場合、P20号キャンバスは10枚を30日で作りました。筆をとる時間だけなら1枚に1日ですが、発案を含めると1枚に3日かかっています。当代最低のアルバイト時給700円で10時間として、キャンバス絵画は1枚につき人件費が2万1000円です。 |
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――それが電子版画だと、1日とか3日で仕上げるのは無理なのですか? キャンバスの23倍の時間をかけていました。2008年実績で、電子版画は1枚につき丸70日かかっています。時給700円で1日10時間として、人件費は49万円です。 |
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――電子だと、なぜそんなに時間がかかるのですか? ひとつは操作が複雑だからで、もうひとつは普通に作っても見るべき作品に遠いからです。電子絵画は細部がのっぺりしてディテール感が乏しいので、スタコラ作っても全然だめ。キャンバス絵画なら丸を1個かけば、塗りむらや絵の具の盛り上がりが味になりますが、電子で丸をかいてもモニター上で鮮やかなだけで、印刷すれば情報量がスカスカで幻滅するだけ。電子では、手の込んだ画が必要なのです。 |
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――それではここまでの合計で、それぞれのコスト総額はどうなりますか? キャンバス絵画は、画材2510円、道具90円、人件費2万1000円で、合計が2万3600円です。一方の電子版画は、画材1万37円、道具2万2555円、人件費49万円で、合計が52万2592円です。これは総額でキャンバス絵画の22倍。つまり、キャンバスなら1万円で済む制作費が、電子版画だと22万円かかった計算になります。 |
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――それぞれに価格をつける時、損益分岐点はどういう数字になりますか? 画商と50対50で折半するとします。コストの2倍以上で売れば、画家は黒字になるわけです。キャンバス絵画は、1枚を4万8千円で売れば画家は黒字。大きめの洗濯機の価格です。一方の電子版画は、1枚を105万円で売れば画家は黒字。これは1300ccの自動車の新車価格です。 |
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――実際に作品につけていい、価格の範囲ってのがありましたよね? このキャンバス絵画につけて許される価格は、1740円から100億円までです。1740円は生キャンバスの価格に当たり、塗りつぶして別の絵をかく客を防ぐため、それより下げられません。キャンバス絵画には、最低価格があります。 |
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――電子版画には、逆に上限となる最高価格があったと思いますが? この電子版画につけて許される価格は、1円から3万円までです。これは材料費、つまり印刷外注費のだいたい3倍以内です。上限の天井がこれほど低い理由は、電子版画は版画なので、量産できるからです。たとえ1枚きりで終わろうが、量産できる理屈は残り続けるので、いくらでも高値に上げたりは無理です。音楽CDと同じ理屈です。 |
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――大量生産のやり方しだいで、キャンバスを逆転できる余地はないのですか? 量産しても巻き返しは無理です。理由は、道具代と人件費を除外した材料費だけでも、電子版画は4.1倍かかるからです。たくさん作れば材料費が下がる一括割引は双方にあるのだから、結局この倍率はどこまでもついて回ります。 |
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――でもキャンバス絵画は必ず1点ですが、電子版画は10点でも作れますよね? 実は、キャンバス絵画も1点きりとは限りません。例えばムンクの『叫び』は、オリジナルの油絵さえが複数あります。これは当時のムンク自身が、会心作をセルフコピーしていたからです。 |
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――あっそうか、油絵も同じ構図で何枚もかこうと思えば、一応かけますね? 俗に「売り絵」と呼んで、売れ筋のキャンバス絵画を10枚20枚と、まとめがきして流通させる方法です。実は国内の中堅や大物画家も、意外にこれをやっています。あまり知られませんが、画廊で見る油彩画は、別の画廊にもそっくりの油彩画が置いてあるのです。年賀状や幕の内弁当をまとめてつくる要領で、手作業で素早く量産しているからです。 |
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――それにしても、電子版画はキャンバス絵画に比べて、全く商売になじまない結果になりましたが? だから生活費を得る目的で、CG美術を作る人はいません。収益が目当てなら、もっと有利な手法がいくつもあります。 |
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――しかも、ローコストで済むキャンバス絵画の方が、はるかに高級品扱いですね? キャンバス絵画の方が、むしろ楽にもうかる理屈なのに、印象は逆になっています。ということは、電子絵画をキャンバス絵画に似せて作るメリットは、全くないということ。似たことをやれば、必ず電子の負け。画家は大損します。 |
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――そうなれば、「パソコンでアートができる」というキャッチフレーズも、しぼんで聞こえますが? 「筆と同じことがパソコンでできます」では、無意味です。「筆と違うことができます」「考えられないような、あり得ないことが電子ではできます」で、やっと電子の意義がアピールできます。10倍以上もかかるコストに引き合う特異な作風が、電子美術には必要です。 |
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――コンピューターで絵がかける時代の今、画材の将来性はどんな感じですか? まずデザイン用品は市場が縮小中です。パターン模様を貼るスクリーントーンや、ロゴやマークを写すインスタントレタリングがそう。図面、商業イラスト、そして連載漫画もパソコンで描くプロダクションが増えています。パソコンの普及で、プロ用の三角定規やコンパス、鉛筆なども縮小中です。国単位で考えれば、パソコン関連産業に関係していかないと、文具で失った経済を取り返せません。 |
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――一方で、キャンバスや絵の具は、今後はどうなるのですか? 油絵や水彩などの絵画用品は、コンピューターに食われることなく続いて、ネットでもけっこう売れています。なぜ食われないかが、今回わかりました。「ちょっとパソコンを触って絵でもかこう」よりは、「ちょっと油絵セットで遊んでみよう」の方が、今はずっとハードルが低くなっています。 |
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